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新世界での学校経営  作者: MuiMui
第一章 異世界転移編
5/123

000_オープニング

よろしくお願いします。

 出崎八十雄でざきやつおは生まれた時から天涯孤独だった。


 八十雄を出産間近だった時、両親は交通事故にあう。

 父親は即死だった。母親も命が助かるか微妙な状態であったが、ならばとお腹の子供を助けるように医師に懇願したのだ。


 その結果、八十雄はこの世に生を受けたが、母親は命を落としてしまう。


 ここからはよくある話だ。


 親兄弟に親類はなく、八十雄は孤児院に引き取られることになった。


 そこで初めて八十雄は『家族』と呼ばれる存在を手に入れる。


 小中高と過不足なく過ごした八十雄は大学に進学できる学力があったにもかかわらず、独り立ちする道を選択した。自分でもできることで孤児院に恩返しがしたかったこともあるし、孤児院にいる幼い弟妹たちに何かしてやりたかったのだ。


 土方を仕事として選択した八十雄は様々な工事に関わった。ビルを建て橋を架け、時にはダム建設に駆り出されることもあった。八十雄は真面目できっちりと仕事を行ったため、会社でも現場でも、お客様の中でも評判がよかった。


 ひそかな楽しみとして、自分が手がけ完成した建物を見るたびに、ちょっぴり誇らしくもなったものだ。


 親方は八十雄を息子のように可愛がり、左官屋や石工のような仕事も、八十雄が望むままに紹介してやった。八十雄も紹介された先々で可愛がれ、技術を磨いていく。


 30代も後半に入り大きな現場も任せられるようになったが、何事にも一生懸命で真面目な性格はあいも変わらず。下の面倒見も良かったので、彼をしたる者も多かった。


 結婚を勧める人は多かったが、給料のほとんどを孤児院に寄付していた八十雄に貯金はなく、孤児として育ったゆえか、本当の家族を作るのに躊躇し独身を続けていた。




 そんなある日。


 八十雄は命を落とすことになる。


 両親と同じく、交通事故で。




 徒歩で職場に向かう途中、いつもの場所でいつもの猫を見かけた八十雄。何を隠そう、彼は重度のネコ好きだったのだ。


「ちっちっちっ」


 右手を地面近くまで下げ、ジワジワと猫に近づいていく。


「……」


 ターゲットにされたブチ猫は、じっと八十雄を見つめているがその場から逃げ出すことはなかった。


(Yes、今日こそタッチをっ!)


 さらに近づく八十雄。


 その瞬間。


「ああんっ」


 八十雄の右手を掠めるようにして、猫特有のしなやかさで逃げ出すブチ猫。そして、そのまま車道に飛び出した。


「ブッブーッ、ブブッ!!!」


 響き渡る警報。車道を接近してくる4tトラックのロングボディーがクラクションを吹き鳴らす。ブチ猫は魅入られたようにその場から動かない。


「おい、おい、おい、おいっ!?」


 八十雄は夢中でガードレールを飛び越え、ブチ猫の元に向かう。トラックの急ブレーキ音が響く中、必死で猫に手を伸ばす。


 その瞬間、猫ならではのしなやかさでブチ猫は八十雄と入れ違いに道路外に逃げ出した。


「ちょっ、マジかっ!?」


 タイヤがアスファルトを削りながら迫る中、ただそれを見つめるしかできない八十雄。


 トラックに弾き飛ばされ宙を舞いながら、八十雄は孤児院のことを考えていた。




「あれ、ここは……」


 目が覚めたら壁も床も真っ白の空間。天井も存在せずどこまでも果てしない空間が広がっている。


「ようやく気がつきましたか」


 上半身を起こした八十雄の前に、バーテンダーコスチュームに身を包み、灰髪をオールバックに撫で付けた老紳士が声をかけた。


「落ち着いて聞いて下さい。あなたは「うおっ、どこも怪我してねぇぞっ!?」」


 何故かステテコに丸首シャツという格好であったが、4tトラックにあれほどダイナミックに跳ね飛ばされたわりにはどこにも怪我が見当たらない。


 白一色の世界ではあるが、それは些細なことだろう。本来、死んでいてもおかしくない事故だったのだから。


「君、少しよろし「今日の運勢、あんまり良くなかったけどわからねぇもんだな~」」

「……」


 へー、ほー、と体中を確認している八十雄。老紳士には気づいていない。ついに業を煮やした老紳士が八十雄の肩を優しく叩いた。


「取り込み中、失礼致します」

「おっと、どちらさんですかい」


 初めて老紳士に気が付いた八十雄。ステテコ姿がちょっと恥ずかしいのか、頭を掻きながら頭を下げた。


「私は鈴木と申します。貴方達、地上人が天界と呼ぶ上界で地球の管理をしている者でございます」

「……」


 思わず声が詰まる。改めて周囲を見直すと窓はおろか、天井も壁すら見当たらない。【この場所】に運ばれる直前の出来事を思い返した。


「……なるほど、つまり俺は死んであの世とか言われる所に来ちまったってことか」

「ほぼ、正解と言ったところでございます」


 心残りといえばやりかけで放り出してしまった仕事と孤児院の事だけだが、孤児院には八十雄に何かあった場合、保険金が支払われるように手続きをおこなっていた。


 仕事についてはもうどうすることも出来ない以上、勘弁してもらうしかない。


「それで鈴木さん、それで俺はどうしたらいいんだい?」

「実は困ったことがありまして」


 そう言いながら鈴木は苦笑をにじませた。





2015 1/3 行間を統一するため、修正を実施


2015 1/18 下記の通り修正を実施

  初雄は命を落とした。→ 八十雄は命を落とした。

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