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新世界での学校経営  作者: MuiMui
第三章 飛躍編
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041_魔導の主

 これからも、八十雄とバルチをよろしくお願いします。

 宜子皇国ことここうこくには魔導師ギルドと魔道具ギルドの創始者にして、最強の魔導師が住んでいる。


 彼はランゴバルドに生まれ、幼少の頃から天才の名を欲しいままにしていたが、140年ほど前、宜子皇国の片田舎に高い高い塔を建てるとその中に引きこもって以来、一度も人前に姿を見せたことがなかった。


 大変な人嫌いで知られており、塔の周囲には何人も拒む結界が常に張り巡らされている。


 実は、ただ1つ例外があるのだが……。




「じーじ、あの高い建物って何だろうね?」


 八十雄とバルチが歩いていたのは、竜泉へ続く主要街道ではなく裏道とも言える間道だった。多少の遠回りは覚悟の上で、情報の少ない宜子皇国がどんな国か見て回ろうとしたのだ。


 念願の白米に出会えた八十雄は道中で野宿をする気になれず、村や町の宿泊施設で寝泊りするように日程を調整していた。今ではバルチも白米がお気に入りになり、はぐはぐと見ていて気持ちが良くなる食べっぷりを披露している。


 前の町で作ってもらった握り飯を食べながらのんびり昼休憩を取っている時、森の隙間から見える建物をバルチが発見したのだ。


「なんだろうなぁ、あれ。それにしてもずいぶん高い建物だな」


 次の村まで1時間ほどの距離で時間的にも余裕がある。バルチも気になるようで目を凝らしていた。猫人の特性か、バルチは好奇心が非常に強い。八十雄も、建築関係にたずさわる者として何のために建てられた建物か気になった。


「よーし、まだお昼過ぎだし、ちょっと様子を見に行ってみるか」

「はーい」


 好奇心旺盛なのはバルチの専売特許ではなく、八十雄もまたそうであったのだ。


 目標の塔は何処にいても見えるくらい目立つ目標だったので、迷うことなく小一時間程度で塔の間近まで移動することができた。近くの森を突っ切ればもっと時間は短縮できたはずだが、モモのためを思って迂回したのだ。


 塔は石造りで一階あたりの面積はたいしたことがなかったが、高さは50メートルほどもあった。塔の付近は草地になっており、モモはのんきに草を食んでいる。


「じーじ、ここに入り口があるよ?」


 バルチの指差す先には木製のドアがあったが、他には窓やドアのたぐいは見当たらなかった。


「誰かいるかな?」


 試しに八十雄がドアを引くと鍵はかかっておらず、あっさりと開いてしまった。


「おーい、誰かいませんか~?」


 ドアの隙間から頭を入れ、大声で叫んでみたが反応はなかった。


「じーじ、上に誰かいるみたいだけよ」


 バルチは八十雄のお腹の辺りで、同じ様にドアの隙間から頭を突っ込み、帽子から飛び出している2つの耳をピコピコ動かしている。


「もしかしたら下の声が聞こえないだけかもしれないし、入ってみるか」

「おー」


 八十雄たちが足を踏み入れた塔の1階には、ざっと見ただけで2~30匹の猫を確認できた。


 そこには猫用のアスレチックのような物が多数設置され、水飲み場も用意されていた。自分のテリトリーに踏み込んだ2人に対し、猫たちは一斉に顔を向け凝視している。


「……猫でもこれだけいると、ちょっと怖いな」

「そう? バルチ、平気かも」


 この階は猫のためだけの部屋のようで、人が住んでいる痕跡は見当たらなかった。


 八十雄はここより上の階に住んでいるはずの住人に会うためにのぼり階段に足を向けたが、その後を何故か猫たちがついてくる。


「ん? なんだ?」


 背後に気配を感じて八十雄が振り返ると、後ろを付いてきた猫たちも足を止めた。そして、八十雄たちが再び歩き出すと猫たちもまた動き出す。それを何度か繰り返している間に2人と猫たちの距離は縮まり、いつの間にかバルチは猫まみれになっていたのだ。




「誰だっ!? 誰が入ってきたんだっ」


 昼食後、昼寝中だったドットは、何者かが彼の住みかである【魔導の塔】に侵入したことで目を覚ました。塔の周辺には結界が張られ、何人も入る事ができないはずなのにどうして入れたのか。まるで、結界が自然消滅したかのようだ。


 ドットは極度の人嫌いだった。いや、正確には人と会うのが苦手だった。


 幼少の時から天才の名を欲しいままにしていたドットは、16歳の時に故郷であるランゴバルドで魔導事故を起こしてしまう。


 空間と空間をつなぎ転移移動を行う魔法を開発中、別空間の溢れる魔力を制御できなくなってしまったのだ。体の中を膨大な魔力が駆け巡った際、ドットの髪は茶色から白く変わり、瞳の色も黒から灰色に変わっていた。


 外見は大きく変わってしまったが、体調に異常はなく、ドットはその後も魔導の研究に従事する。


 転移魔法からは手を引いたが、感応石を始めとする数多くの魔道具を開発し、様々な分野の新魔法を次々と編み出していった。


 この時代に魔道具ギルドと魔導師ギルドが作られ、初代ギルド長にはドットが就任した。だが、順風満帆だった人生は、この頃から歯車が狂い始める。


 5年たち、10年たってもドットの容貌に変化がなかったのだ。更に時がたち、両親が亡くなり、兄弟が亡くなり、それでもドットは16歳のままだった。


 元々内向的な性格で友達が少なく、唯一の友達ともいえる存在が魔導の研究であったため、知り合いが減っていく中、ドットは研究に心血を注いだ。


 だがそれも、30年、40年と、研究を始めた頃と同じ気持ちで打ち込み続けられるものでもないし、歴史を動かすほどの劇的な研究結果を発表し続けることもできなかった。


 次第にドットの研究に対する情熱は薄れていった。


 80歳を越えた頃、全ての研究から手を引いてドットは隠居生活を開始した。今までの研究で得た莫大な財産があったので、自由気ままな生活を始めたのだ。


 だが、時の権力者はドットを放っておかなかった。


 莫大な魔力、稀有けうなギフト、卓越たくえつしたスキル。その全てを権力者たちは欲したのだ。住居を変えようが、何処に移動しようが、執拗に勧誘は続いた。


 それがドットを悩ませた。年に見合わぬ外見で侮られ、今まで研究一筋で人と接する機会が極端に少なかったこともあり、人と言葉を交わすのが極度に苦手になっていたのだ。


 ドット自身も含め誰も気付いていなかったが、止まっていたのは体だけでなく、精神もまた、16歳のままで停止していたのだ。


 この後約2年間、ドットが宜子皇国の僻地に住処を移すまで権力者たちとの執拗な追いかけっこは続いた。


 ようやく安住の地を得たドットはその地に2階建ての建物を建て、自分の興味がある分野についてのみ研究を開始する。最初にとりかかったのは、自分が楽をするために遠隔操作できる人形を作ることだった。完成後は遠隔操作人形の性能強化に没頭する。


 元々、引きこもり属性のあったドットは次第に外部の人と接すること自体が億劫おっくうになり迷走した挙句、遠隔操作人形の力で塔を増築し、そこに農園や畑、牧場などを次々と開設していった。元は2階建てであったドットの魔導の塔は、今では8階建てにまでなっていた。


「ど、どうしよう。何を話したらいいんだ。それより、何故結界が効かないんだ」


 ドットは、2階にある彼専用の居住区でオロオロと落ち着きをなくしていた。100年以上、人と会話どころか直接目を合わせることすらなかったドットにとって、来訪者の襲撃は脅威以外の何者でもなかった。


「髭は伸びないからいいとして、ふ、服はちゃんとしたのをって、やばい、ここ10年くらいまともな服なんか買った記憶が無いぞ」


 どうしても必要な物は人形を使い買い物を行っていたが、力はあるが移動速度は人並みしかない遠隔操作人形は常に付きっ切りで操作を行わなければならない弱点があったのだ。あえて僻地に塔を建てた弊害であった。


「まずはあいさつ、だが、何て言えばいいんだ……」


 この世界最強の魔導師は、史上最強の引きこもりでもあったのだ。


「おーい、誰かいないのか?」

「こんにちはー」


 1階と2階を隔てる扉がノックされた。塔を囲むように人払いの結界が張られているため、内部に鍵の付いた扉は存在しない。


「はぁ~い」


 緊張で若干裏返った声が出た。だが、それを恥ずかしく思う間もなくドアが開かれる。


(うぉ、入ってくる)


 緊張で喉仏のどぼとけが別の生き物のように動くのを止められない。手に汗を握る。


「お、この階には誰かいるみたいだな。すまねえ、返事がなかったから勝手に上がってきちまった」


 木製の扉を開いて入って来たのは、黒髪を坊主狩りに短く刈り込んでいる中年男性だった。皮製の衣類を身につけていることから冒険者か旅人だろう。大きなザックを背負っている。


 そして、その後に続いて入ってきたのは、


「バルチ、なんかもてもて。でも、ちょっと歩きにくいかも」


 数十匹の猫にまとわり付かれ歩きにくそうにしている、白い毛をしている猫人族の少女だ。


 幼い頃から魔導の研究に明け暮れ、後に権力者から追われ続けたドットにとって、猫は自由の象徴だった。自由気ままで闊達かったつな姿は、ドットの目に眩しく映った。


 魔導の塔を建設してからドットは捨て猫を次々と保護していく。塔の1階部分は猫たちの居住エリアで、周囲に張られた結界も自由に出入可能。猫たちにとって安住の住処となっていた。


 ただ残念なことに、好きな猫をかまい過ぎたドットは、猫たちにとって近寄りたくない相手となっていた。今では餌を食べている間に、おおらかな性格の猫をわずかに触るのが精々。それも食事が終わればさっさとどこかに行ってしまう。


 その猫たちがあんなに群れなして懐くなんて。


「凄い、猫の神様だ」


 思わず口に出していたドットであった。




 読んで頂き、ありがとうございました。

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