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新世界での学校経営  作者: MuiMui
第五章 ラントス騒乱編
123/123

118_事後処理

バルチ様の今日の一言


 こんにちはー、バルチだよ。

 バルチねー、今回の秘密のお仕事のおかげで、B級冒険者になっちゃったんだよー。凄いでしょ。

 じーじは、いつもいろんな所にフラフラと行っちゃうから、バルチ、結構大変だったんだから。

 でもね、秘密のお仕事でB級になっちゃったこと、じーじにどう説明すれば良いのかな?

 バルチ、困っちゃうかも~。

「あぁ~、ひどい目にあった……」


 ノニの宿屋が空いていたのを良いことに、100名からのドワーフで占拠し朝方までドンちゃん騒ぎを行った翌日、昼ごろになってようやく八十雄は市庁舎に顔を出した。


 昨夜は約束どおり八十雄本人が鍋を握り、自慢の腕を振るい続けた。

 食材や肉、そして酒は宿屋にあった物に加え、市内からもドンドン持ち込まれていく。


 結局、市内に退避しなかった混じり者たちを中心に多くの援軍を得た八十雄は、それこそ怒涛の勢いで料理を作っていくが、敵も去るもの、ドワーフたちの食欲は旺盛で作った端から消費されていくのだ。

 餃子やシュウマイ、肉まんにうどんなど、日本由来の料理を作り上げるたびバルチは大きな声で歓声を上げ、これまたドワーフ族に劣らぬ食欲を見せた。

 その小さい体のどこに入るのかと心配するほどである。


 酒についても水と変わらぬ勢いであればあるだけ飲み干してしまう。

 八十雄とって酒は風味を味わい楽しむものであるが、ドワーフ族にとっては水とたいして変わらない様だ。


 だが、ホストとしての意地が八十雄にもある。


「あ~もうっ、店にある酒なんでも良いから出してやってっ! 領収証は俺宛で良いからさっ」


 その言葉通り、ありとあらゆる銘柄の酒が宴会場となっていた大広間に持ち運ばれる。

 意地と感謝と真心と、いろいろな感情が混ざった宴会は朝日が再び昇るまで、宴会は続いたのであった。


 何時ぞやの様に、大広間でドワーフまみれになりながら八十雄が目を覚ましたのは、日が大分高くなった頃だった。

 料理を材料が尽きるまで作りあげ、それから宴会に参加した八十雄はたいして酒に強くも無いのに格好をつけて酒を何杯も一気に飲み干したため、そのまま潰れてしまったのだ。


「あれ、バルチ、どっかに行っちゃったのかな……」


 二日酔いで痛む頭を抱えながら周囲を見渡すが、付近にバルチの姿はなかった。


「おっと、これは何だ?」


 すぐ近くのテーブルに載っていた便箋らしきものを持ち上げると、それはバルチが八十雄宛に書いて手紙のような物だった。

 その内容は、ドワーフたちのいびきが凄いので直ぐに目が覚めてしまったこと、久しぶりにキノコの仕事を受けに入ってくること、ノニの店でお弁当を作ってもらったこと等が子供らしい可愛い字で書かれている。


「……相変わらず、早いなぁ。バルチ」


 ボリボリと首筋をかきながら、今だ爆音のようないびきをかいて寝ているドワーフたちを見渡すが、彼らが置きだす気配はまったくない。

 部屋の中には仲居さんの姿はないが、おそらく建物のどこかには詰めているだろう。


 昨日は自分が主催した別の飲み会はすっぽかしてしまったが、今日は外せない仕事や果たさなくてはならない約束もある。

 八十雄は音を立てないようにそっと立ち上がると、静かにその場を離れるのであった。




 昼飯も近い時間に酒臭い息を吐きながら市庁舎に現れた八十雄は、自分の机につくと雑紙を手に取りいきなり何かを書き込み始める。

 日常業務のため、てぐすね引いて待っていた職員たちの差し出す書類をろくに見ぬままに処理しながら、時に考え込み、時に修正しつつ雑紙に一心不乱に何かを書いていく。

 そこに書かれていたのは日本語で、そのため周りの職員には何が書かれているのかさっぱり理解できない。


「これで良いかな」


 行列になっていた職員があらかた掃けた後、八十雄は周囲で待っていた職員たちと中規模な会議室へと足を向けた。

 その手には先ほど書き込んでいたメモがあった。


 部屋を移しこの一週間ドラゴン対策を八十雄の手足になって担当していた10名ほどの職員を前にして、八十雄は部屋に備え付けられている黒板の横に立つと改めて部屋に入ってきたメンバーの顔を一人一人確認していく。


「なんかあれだな。

 初めて見た時はずいぶんと頼りない連中かと思ったが、一週間前とはずいぶん顔つきが変わったって言うか、目が開いたというか、こんな短期間で変わるもんだなぁ」


 そんな声を掛けられた職員たちもお互い顔を見合わせているが、本人たちにはあまり実感が無いようだ。


「まあ、雑談はこれくらいにして、俺たちには決めなくちゃならないことがまだ幾つかある。

 一つ一つあげながら俺なりの考えも同時に説明していくけどよ、もし何か実現が無理にことを言っていたり、他にもっと良い方法があったら教えてくれよな」


 そう言うと、チョークで黒板に書き込み始めた。

 一番最初にあげたのは、『オラニエの森の保護』だった。


「みんなには悪いんだけど、俺、オン爺って呼ばれている老冒険者と約束しちゃったんだよね。

『オラニエの森』を保護するって」

「あの、市長。保護するって具体的にはどうするつもりなんですか」

「あー、そうなんだよな。その辺りの事、オン爺と何も決めて無くってさ。

 それで俺なりに考えてみたんだけど、見てくれないか」


 そういって黒板に書いたことは、以下のとおりである。


 ① 今までどおり猟師が森で狩をしたり、落ち葉や枯れ木を拾って巻きにしたり、山菜やキノコを採取するのは自由とする。

 ② 木工ギルドや大工ギルド等、業者が仕事で使用する材木を求め木々を切り倒す際は、倒した木の10倍の苗木を植樹すること。

 ③ オラニエの森における理由のない伐採及び開墾についてはこれを禁ず。

 ④ 以上の内容については法律として定め、統治者の意思によって安易に覆すことはできない。


「以上だ。どうだ? 何か気になることや、足りないことはないかな」

「あの市長よろしいでしょうか」

「おおいいぞ、どんなことでも良いから、気になったことは教えてくれ」


 そっと周囲を気にしながら手を上げたのは、まだ若い男性職員だった。

 周りの先輩に気を使いながらそっと立ち上がった職員は、はきはきとした声で話し始めた。


「それでは質問させていただきます。

 わたしが気になったのは、②の『植樹』という意味です。

 これは一体、どういう意味でしょうか?」


 この質問に何人かの職員も同じように頷いていた。

 まだ自然が溢れているこの世界で、樹木を財産として考える人は少ないのだ。


 だが、現代日本からやってきた八十雄にとって、これが如何に貴重で大切な物か肌身に染みていたのだ。

 今は自然に溢れたオラニエの森も木製家屋が流行りだした昨今、これまで以上のペースで伐採が始まったらいずれは森も減少し、回復させるには莫大な時間がかかるだろう。


「植樹ってのはな、木の苗木を植えてそれが10年、20年後の森になるように育てていくための活動だな。

 俺が住んでいた国も昔は自然が溢れたところだったが今ではずいぶん緑が減って、今では失われた緑を取り戻すために植樹活動が積極的に進められているんだ。

 だからラントスでも、今じゃなく50年後の森を守るために植樹活動に励むべきじゃないかと。

 こういうのは、気がついたときには遅いんだよ」

「なるほど、よく理解できました。わたしもその考えには賛成です」


 他に上がる声も好意的な意見が多い。

 植樹自体も木を伐採するギルドに任せてしまえば経費もほとんど掛からないし、市庁舎としてもデメリットは少ない。

 特に反対意見も出ず了承された。


「次の案件は、市庁舎内に新しい課として福祉課を設置することだ」


 黒板に大きく『福祉課』と書く八十雄。


「今回の戦いだけでなく、色々な病気や怪我で働けなくなる者は多い。

 そうした人の面倒は家族や近所の人たちが地域ぐるみで面倒を見ることはあっても、役所が力を貸すことはほとんどないだろ?

 その辺りについてちょっとてこ入れしたいんだけどさ」

「そのための福祉課、ですか……」


 だが八十雄の提案は、市職員たちにはピンと来ないようだ。


「失礼ですが、それを行うことによって市にはどのようなメリットがあるのでしょうか。

 現在は潤沢ですが、市の予算も無限にあるわけではありませんし、元々市のお金は市民からお預かりしている物ですし……。

 それに、どのような仕事をする課なのでしょうか?」

「色々だよ。

 例えば今ならさ、腕とか足とか大きな怪我を負った人がいたとするだろ? そうした人の面倒は家族や仲間が見ているわけだ。

 そして怪我が良くなった張本人は新しい仕事を探すわけだが、自由に動かない体だとなかなか新しい仕事はみつからねぇわな」

「まあ、そういうこともあるかもしれませんね」

「俺はそれが気にくわねぇ。

 それが身を粉にして戦い抜いた人に対しての扱いってんなら、ちょっと冷たすぎんだろうよ。

 俺たちの街の為に戦って傷ついてんだ、面倒くらい街全体で見てやろうや」


 そこまで言われて、市職員たちは感じ入るものが会ったのか黙り込んでしまった。


「……それで、具体的にはどのような施策を?」

「ああ、良くぞ聞いてくださった。

 まず第一は、残された遺族に一時金の至急及び、遺族年金の支払いだな。

 家族がとりあえず暮らしていけるくらいの金額を最大10年位は支払っても良いんじゃないか?

 それくらいあればガキもでかくなるし、独り立ちする事だってできるだろう。

 あとは、職業訓練所の設立と、リハビリセンターの立ち上げかな」


 ただ一人だけ納得したように頷いている八十雄に対し、おずおずと手を上げる女性職員。


「あの、職業訓練所は大体分かるんですが、リハビリセンターと言うのはどういう施設なのでしょうか?」

「そうか、そこから説明が必要だったかっ!」


 パンと手を鳴らし、腕を組みながら『なるほどな~』と、独り言を繰り返す八十雄。

 大分調子が出てきたようだ。


「リハビリセンターってのはな、俺が生まれた国にあった施設なんだけどよ、腕や足に大きな怪我を負ったり、病気で体が上手く動かせなくなって人が体をちゃんと動かせるように訓練する場所なんだ。

 ちょっと考えてみろよ。

 それまでは満足ら体も動かせなかった人がリハビリセンターで訓練を積んで動かせるようになれば仕事もできるようになるし、世話する人の手間も減る。

 そうすれば当然税収だって上がるし、多少経費が掛かったとしても街の評判も良くなるしよ、良いこと尽くめだと思うぜ」

「なるほど、確かにそうかもしれませんね……」


 各分野から派遣されてきた市職員たちが八十雄をそっちのけにして議論を開始した。

 それぞれの所属する課が持っている情報やつてを元に、現実可能なプランを話し始める。


「あー、あとな、これは決定事項だけど、ドットが叩き押した100匹以上の飛竜についてだけど、この素材を売却した代金は必要経費を除いて今回の戦いで損害を受けた市民に分配しちゃうから。

 これ、決定で」

「どのような人たちに配るつもりですか?」

「そっだな~。まずは畑に出る事ができなかった農家だろ、絶対駄目になってる農作物があるはずだよな。

 街から出られなくて足止め食った人にはさ宿泊費用の補助金を出してやりたいし、他にも色々だなぁ。

 あの飛竜については俺が貰ったもんだから、好きに使わせてもらうつもりだけど良いか?」

「それはもちろんです。

 豪邸の10や20建つほどの金額ですが、市長にとっては今更ですか」


 笑いが漏れる会議室の中、八十雄は肩をゴキゴキ鳴らした後、一気に席を立つ。


「それじゃ、俺はそろそろギルド会館に行くわ。

 後の細かいところはお任せするから、詳細が決まったら教えてくれな」

「市長も大変ですね。では、こちらのことはお任せください」


 職員が起立して見送ってくれる中、八十雄は日本人的にヘコヘコ頭を下げながら静かに部屋を出て行くのであった。




 その足でギルド会館内の小会議室に向かった八十雄は、うずたかく積み上げられた書類に一瞬めまいすら起きかけた。


 戦いは全て終わったが、事後処理はこれから開始となる。

 なにもそれは市庁舎内だけに限られたものではないのだ。


 まず最初に行ったのは、郊外で死んでいるドラゴンの遺骸の確保だ。


 莫大な財産を産むドラゴンの素材が約50体、それよりランクが落ちるとはいえ高価な素材である飛竜の素材が100体以上、無防備な状態でラントス郊外に転がっているのだ。

 比較的場所が近い飛竜の亡骸回収はラントス警備隊と輸送ギルドを中心とした部隊に、とりあえず市内の中央公園に急遽設置した谷貝保管場所まで運ぶように依頼してある。


 だがドラゴンの素材は南西部一帯に散らばるように転がっていた。

 深い森の中など馬車が通れない場所も多く、巨体のドラゴンとなると回収も難しい。

 時期もまだ夏といえる時期だけあって、いくら腐りにくいドラゴンの肉体といえど、それがいつまでもつか保証はなく、今は姿を消している野生動物たちもいつ戻ってくるか分かったものではない。


 それより一番恐ろしいのは、一攫千金を狙い野盗や山賊の類が集まってくることだろう。


 そこで力を貸してもらったのは、王国から派遣されそのままラントスに駐在していたシーリー=ルルーだった。


 彼女はその聡明な頭脳で至急に資材であるドラゴンの遺体を保護する必要を認めると、ドラゴン討伐が終了した翌日、わざわざ市庁舎まで八十雄を訪ねて来てくれたのだ。

 そこで八十雄の承諾を取り付けたルルーは、王国中央軍に協力出陣を依頼。

 それを快諾した王国中央軍は、軽歩兵を中心とする混成部隊5000名を即座に派遣すると、ラントス側の冒険者と協力して現地にて順次ドラゴンを解体し、肉や素材などを次々にラントス市内まで輸送を開始した。


 人海戦術であっという間に回収された素材は一時的にラントス中央公園に集められたが、そこでもまた予想だにしない問題が生じる。


 それは、素材の所有権を持つ冒険者や傭兵がその所有権を次々に放棄していったのだ。


 最初は戸惑いの言葉も多かったが、放棄する者が1人2人と次々に現れていくに従い、冒険者ギルド長も傭兵ギルド長も苦笑を浮かべながら権利放棄の書類を黙って作るようになる。

 そのため、ドラゴンという非常に高価な素材の権利は全てラントス市に委譲され、商業ギルドや錬金術師ギルド、魔道具ギルドの幹部たちを含め、どう使っていくのが一番良いのか頭を捻ることになるが、それはまた後日のこと。


 椅子に座った八十雄が積み重ねられていた書類の一番上から取り上げたのは、あるB級冒険者のA級昇格の推薦状だった。

 先に述べたように、A級以上の昇格を認める権利を所属する街やエリアのギルド長は持っていない。

 そのため、所属するギルド員のA級以上の昇格は、総ギルド長もしくはそれに変わる者の許可が必要となるのだ。


 昇格推薦状を総ギルド長に送る際、少しでも印象を良くしようと各地の有力者に協力を依頼したり、同じギルドのS級資格を持っている者に力添えをお願いしたりもする。

 今回、ラントスの冒険者ギルドと傭兵ギルドの所属長は、自分が書いた推薦状の横に連名をお願いするつもりであったが、『ちゃんと全員分、おれが推薦状書くよ』と安受けあいしてしまったのである。


 そのため、誰がどのような活躍をしたのか調べるところから始まり、何処がどのように優れているのか頭を捻りながら机に向かうことになる。


 八十雄の地味でありながらも、大勢の冒険者や傭兵のその後の人生を左右しかねない重要な任務は一週間にも及ぶのであった。




 こんばんは、MuiMuiです。

 正直な話、ここまで長く続く話になるとは考えていませんでした。

 ネタも尽きてしまったので、2週間程度今後の展望を考えようと思います。

 ある程度話がまとまったら書き始めて、一話分に達しましたらご連絡します。

 以上、失礼します。

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