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新世界での学校経営  作者: MuiMui
第一章 異世界転移編
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005_自由と平等の女神

本年度もよろしくお願いしますね。


「はい、はーい」


 この間の抜けた掛け声と共に、ラ・ワールドの創造神、アルヴェは顕現した。


 ……コタツに両手を突っ込んだ体勢で。


 ドリスと神官達は、何が起こっているのか理解でなかった。彼らが把握している【神託】とは、女神アルヴェに問いを投げかけ、それに対して女神から回答を得るはずのものだったのだ。


 本人が顕現することは想定していなかった。そもそも、伝え聞いていた女神様より幼く見えるのはどういうことだろうか……


 ここは真実の間。嘘偽りを述べることは出来ない聖域のはずだ。だが、これは一体……。


「おーす、さっきぶりだな」

「出崎さん、さっきぶりですねー」


 友達にでも語りかけるように、片手を挙げながら気軽にあいさつをすると、幾分余裕の感じられるアルヴェも、コタツから手を出すことも無く、軽く会釈するだけの返事を返した。


 そのままの流れで、アルヴェの了解も得ぬままに、足袋を脱いでコタツに潜り込んだ。


「おっ、これ、掘りごたつじゃねぇか。珍しい」

「えへへ~、良いでしょ。八十雄さんが使徒になってくれたおかけで私のランクもちょっぴり上がって、こんな贅沢が出来るようになっちゃいました♪」


「うんうん。日本人って言ったらコタツだよな~」

「コタツですねぇ~」


 どこからどう見ても日本人に見えないアルヴェであったが、コタツの魔力にどっぷり捕まり、ぐで~と、とろけきっていた。今まで【管理者】として最低ランクの生活を送っていた彼女にとって、夢のような生活だったのだ。


「八十雄さん、じ・つ・はですね~、なんと、ミカンもあるんですよ~♪」

「すげー、まじでっ!? ちょうだい、ちょうだいっ!」


 はいっ、と自慢げに差し出されたかごの中から、1つ、ミカンを取り出すと、お尻側から皮をむき始めた。大雑把に白い繊維を取り除き、2、3房を一まとめに口に放り込む。かみ締める度に酸味と甘みが爽やかに広がった。


 八十雄が早々にミカンを食べきって視線を前に向けると、女神様は几帳面にミカンの房から白い繊維を取り除いていた。極々細い繊維まで几帳面に取り除き、ちまちまと、まるで小動物のように食べていた。


 何かなごむ。


 一房食べると、パァッと嬉しそうに笑い、次の房に取り掛かる。それを、全て食べ終わるまで繰り返した。


 その頃には、停止していたドリス達も再起動に成功する。


 今、目の前で、黄色い果実を食べている少女が、この【世界】で最高神と崇められている女神アルヴェ様らしいこと、それに、出崎八十雄と名乗るこの男が本物の使徒であることも理解できた。


 だが、それ以外が分からない。


 コタツ、と呼んでいた、ちょっと変わったテーブルが何なのか、何を食べているのか、そもそも、最高神がこんなにフランクで良いのか。


 根本的な疑問として、何故、【神託】のギフトを使ったら、女神本人が現れるのか……


「その疑問には、わたくし、アルヴェがお答えしましょう」


 やけに上機嫌な女神様がミカンを食べ終わって空いた右人差し指を立てながら、解説を始めた。




 その内容を要約すると、以下の通りである。


・みんなが考えていることぐらい、何でもお見通しだよ。心の声が聞こえるんですから。エッヘン。

・わたし(アルヴェ)が顕現したのは【神託】の効果ではなく、使徒であり【稀人】である八十雄さんが呼んだためなのです。

・【稀人】と言うのは、とても貴重な資質を持つ人のことで、ラ・ワールドには、八十雄さん一人しかいないよ。

・八十雄さんは、わたし(アルヴェ)の使徒だよ。

・コタツは日本国に伝わる伝説の暖房機器です。

・ミカンもコタツに入りながら食べる、日本国伝統の果実のこと。

・使徒の要請があれば、場所次第でペナルティーもなくお手軽に顕現できるみたい。

・でも、あんまり長い時間、上界を離れるわけに行かないので、そろそろ帰らないと。




 それだけ話すと、うんっと小さく頷き、


「それじゃ、そろそろ帰るね。八十雄さんも頑張ってね」

「そっかー、コタツも名残惜しいけどまたな。あ、そうだ。ミカン、幾つか貰っても良いかい?」

「どうぞ、どうぞ。ではでは、ばいばーい♪」


 ミカンを4個ほど手渡すと、小さく手を振りながら女神アルヴェとコタツは消えた。今のが幻じゃないのは、ニッカズボンのポケットがミカンでこんもりと膨らんでいるのが、その証だ。


「じゃ、改めて【神託】を使って……」

「いや、もう結構でございますっ!!!」


「さっきは【神託】じゃなかったみたいだけど、良いのかい?」

「はい、もう充分でございます」


 慌てて止める神官。そう何度も女神様の手を煩わせるわけにはいかない。


「用件も済んだみたいだし、もう良いかな」

「はい。この後何か予定があるのでしょうか?」


「ギルド会館に戻って仕事と住む所を紹介してもらおうかと。一文無しでさ、飯代も無くてちょっとやばいんだ」

「そんなことでしたら神殿で如何様にもさせて頂きますが……」


「そこまでしてもらったら悪いし、後は何とかするよ。

 ああ、そうだ。もし良かったら、このコインを換金してくれねぇかなぁ。一応、鈴木さんにこの世界に来る前に貰ったもんなんだけど。一ヶ月分位の生活費にはなるって言ってたけど」


 そう言いながら、ポケットの中から古びたコインを取り出し、神官の中でも一番偉そうな老人に差し出した。恭しい手つきで受け取ったコインを見つめるうちに、神官の体がガクガクと体が震えだす。


「これは、王家のコインッ!? このような物を換金するわけにはまいりませんっ!」

「王家のコイン?」


 現在、世界最大の版図を誇るのはランゴバルト王国であり、その元首はランゴバルト王家である。480年以上続く由緒正しい家系であるが、そこに家宝として伝わるのが、王家のコインと呼ばれる一枚のコインだった。


 その由来は、女神アルヴェ様の使徒であったと伝わる初代ランゴバルト王がアルヴェ様より下賜された物、と伝えられている。


 そのような物を市井で売らせるわけにはいかない。しかし、それを神殿ごときが金銭で買い取ることも不敬である。


 世間では神官長と呼ばれ、尊敬を集めるこの男も、たった一枚のコインの取り扱いに困りつくした。自分が何か悪いことでもしたのかと恨めしくも、切ない気持ちになった。


 誰かに押し付けてしまいたがったが、誰もが手を後ろに回し態度で拒否している。


「やっぱり、大した価値はなさそうだなぁ。こんな古びたコインじゃ安もんだろ」


 ヒョイっとコインを取り上げてポケットに突っ込む。ぞんざいな扱いに、思わず声が出かける神官達だが、相手は正真正銘の使徒。その言葉を無理やり飲み込んだ。


「そろそろ行くな。また機会があればそん時はよろしく」


 慌てる一同を尻目に手をピラピラ振りながら来た道を戻っていく。その後を慌てて追いかけるドリスを引き連れ、八十雄は神殿を後にするのであった。




ミカンはお尻側から剥く派です。


2015 1/10 下記の通り修正を実施

  抜けた掛け声と供に、→ 抜けた掛け声と共に、


2015 1/23 下記の通り修正を実施

  片手を上げながら気軽に → 片手を挙げながら気軽に

  改めて【信託】を使って → 改めて【神託】を使って

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