様々な出会い〈後〉
久しぶりの更新になりました。
序盤なのに登場人物が多い…かもしれません。まだ小出しばっかりですが。笑
今回出てくる人たちは後々重要な役割を果たすかも、です。
アリシアは中央司令所の出口で佇んでいた。
(とりあえず宿屋を探さなくちゃ。これからのことを考えてあまりお金は使えないし。)
母さんはいつ見つかるか分からない。もしかしたらこの国にはいないという可能性だって大いにある。
(軍の人が手伝ってくれる・・・・・。母さんを奪った軍が。)
皮肉なものだ、とアリシアは思う。
泥棒に盗まれた物を返してと、ねだるのと変わらない。傍から見ればとても哀れなのかもしれない。
それでも母さんが見つかるならいい。
―いいのだ。
「あ、お姉ちゃん!」
ドン!と小さな何かがアリシアにぶつかった。
「・・・・・列車にいた子?」
そこにいたのはジャックされた列車で人質になった子供だった。
「どうしてここに?大丈夫だった?」
アリシアは子供の高さまでかがむ。
「うん!もうへーき!」
「・・・・・ルイス!走ったら危ないわよ!」
はーい!と、目の前の子供が元気答えた。どうやらこの子はルイスというらしい。
ルイスは嬉しそうに二つぐくりの髪を揺らして家族に手を振った。
「まあ!あなたは・・・・・!」
母親はアリシアを見つけたとたん、走り寄って抱きしめた。
「おまえ、ルイスに走るなと言っておいて・・・・・。」
父親の注意にもまるで聞く耳をもたない様子で、力いっぱい両手でアリシアを包み込んだ。
「―本当に、本当にありがとう!何とお礼を言ったら良いのか!」
アリシアは自分のマントが濡れていることに気がついた。それは母親の目から流されたものだった。
「今、こうやって生きていられるのはあなたのおかげなの。」
「家族を、いや―乗客を救ってくれてありがとう。」
少し遅れてやって来た父親も帽子を取ってお辞儀をした。
「わ、私は、体に任せて動いただけで・・・・・。助けることができて良かったです。」
「ありがとー!ヒーローのお姉ちゃん。」
ルイスは母親の真似をするように反対側からアリシアに寄り添った。
(―温かい・・・・・。)
自分に添えられた小さな手を見て、この子の命を守れたことを誇りに思った。
『列車に乗った百人以上を助けた君が生まれてきてはいけないはずがない。』
アリシアは胸が熱くなった。
なんとも言えない、この気持ちは初めての感覚だった。
「そういえば、あなたはなぜ中央司令所に居るの?」
赤くなった鼻をすすりながら母親が尋ねた。
「軍の人に事情聴収を頼まれたんです。」
「私たちもよ。軍の人だけでなく、新聞記者にも根掘り葉掘り聞かれたわ。特にあなたのこと。」
「・・・・・新聞記者が、私を?」
「ええ。女の子一人が列車ジャックを止めただなんてすごいことだもの。ついさっきまで、この辺りにたくさんの記者がいたのよ。軍の人が邪魔だと言って帰らせてしまったみたいだけど。」
「明日の新聞の一面は君で決まりだな。」
父親がそう言って笑った。
ルイスが笑ったときに片側だけえくぼが出来るのは父親の遺伝らしい。
「あなたの名前がヒーローとしてピアニー国中に広まるわ。」
ピアニー国中――。
(母さんも見てくれるかな・・・・・。)
自分が〈守護術〉を扱えるようになったこと、みんなを助けたこと。
「あ、私たちにあなたにお返しできることないかしら。」
「―え?」
「命を助けてもらったんだもの。何かさせてちょうだい。」
アリシアは首を振った。
別に見返りが欲しくてしたわけではない。
「皆さん―家族が生きていることだけでいいんです。」
家族が傍にいてお互いの温もりを感じていられる、自分がかつて守れなかった家族を守れたことだけでいい。
「あなた、とても若い女の子とは思えないこと言うのね。」
母親が驚きながら、でも、と付け加えた。
「私たちの気が済まないわ。恩人を手ぶらで帰すわけにはいかないの。欲しいものとか、困ったこととかはないかしら?」
家族はアリシアの返答をジッと待っていた。何も言わずに、この場を立ち去ることなど到底できそうにもなかった。
「・・・・・あ、この近辺に安い宿屋ってありますか?泊まる所を探しているんです。」
両親は嬉しそうに顔を見合わせた。
「それならお安い御用さ。僕たちはこの先の通りで宿屋をしているんだ。大した宿じゃないけれど、ぜひ泊まってくれ。」
「・・・・・いいんですか?」
「もちろんよ。今すぐ行きましょう!」
「あ、ありがとうございます。」
この先の通りならば中央司令所にも行きやすいだろう。
(野宿にならなくて良かった。この家族に出会えたのもある意味運命かもしれない。)
ルイスはお姉ちゃん!と、アリシアの手を引いた。
アリシアはその手を優しく握り返した。
「――あんな細い子があたしたちの探していた〈穢れた子〉なのねぇ。」
真っ赤な唇を舌で舐めた。
中央司令所の屋根を上に立つ女は首元にファーのマフラーを巻き、リップと同じ色の赤いスリッドの入った服を着ていた。
上空で吹き荒れる風によって、服が張り付くと、豊かな体つきが露わになる。
「でもあの子の魔法はしっかりと見せてもらったわ。さすが、母親の血を引いているだけあるわねぇ。」
アリシアが楽しそうに歩いている姿を上から眺める。
「ただいまぁ!」
明るい声と共に巨体の少年が女の元に現れた。
でっぷりと出た腹に、肉のついた丸い顔―そして、血の滴る千切れた手を加えた口・・・・・。
「ダメでしょう?そんな人間の肉を食べたら。口が腐るわ。」
「だって、お腹減ったんだもん!」
怒られた少年はガリガリと骨を噛み砕く音を立てて、手を飲み込んだ。
「・・・・・その様子だと、ちゃんと殺してきたみたいねぇ。」
女は高さを物ともせず、ピンヒールで屋根の上を移動した。
そして、目にも留まらぬ速さで風にはためく軍旗を八つ裂きにした。
布が風に乗って飛んで行くのを横目にしながら、どこから出したのか、大きな鎌を持って薄ら笑いを浮かべる。
「―軍の邪魔が入る前に計画を実行するわよ。」
「はーい!」
そうして二人は屋根の上から煙のように姿を消した。
「さぁ、入って。」
ルイスたち家族が経営している宿屋はそんなに大きいわけではなかったが、アットホームな雰囲気の、過ごしやすそうな空間だった。
木造りの建物に黄色い電気が温かみを感じる。
(・・・・・なかなか流行っているみたい。)
ロビーでカードゲームをしてくつろいでいた若者たちが、家族が帰って来たことに気がつき、挨拶をした。それに続いて挨拶が交わされる。
「はい、あなたの部屋の鍵ね。」
母親から渡された鍵には三〇五と書かれていた。
「良かったら一緒に夕食を一緒に食べない?」
「ママのご飯、おいちいよ!」
アリシアはお言葉に甘えて食べさせてもらうことにした。
「ご飯ができたらまた声をかけるから、それまでは部屋で荷物の整理をしといてね。」
階段を上り、三〇五号室の鍵を開ける。ベッドと机、シャワー室と少女一人が使うのには十分な大きさだった。
アリシアはベッドに寝ころがった。
(―いつもよりベッドが固い。もっとフカフカなのに。)
昨日までとは違う感触に体が怯える。
(ご飯だってきっと味が違う・・・・・。)
アリシアは自分の膝を抱えた。
自分で決心してアザレアを出たはずなのに、知らない土地はやはり怖かった。そして、この旅が果てしないと思うとなおさらだった。
「―はやく・・・・・姿を見せてよ、母さん。」
ベッドの横についた窓から夕陽が差し込む。その光を浴びながらアリシアは夕食の時間まで眠りについた。
次ぐらいからR-15入ると思います。
OK!という方はお付き合いしてくださると嬉しいです!