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竜の守り人  作者: 夏空夏色
第一章 波乱の幕開け
4/6

様々な出会い〈前〉

今回はなかなかボリューミーですが…

最後までお付き合い願えると幸いです…!

4 様々な出会い〈前〉


 緑の軍服に身を包んだ男が紙を片手に廊下を歩いていた。時折、悩ましげに黒い髪をかき上げる。


「リアム大佐!」


 そう呼ばれて男は振り返った。


「ああ、レナード少尉か。ご苦労。」

 レナードはそのままリアムの歩幅に合わせて歩く。

「犯人たちは何と言っているんだね?」

 紙に目を通しながらリアムが聞くと、レナードは渋い顔をした。


「・・・・・それが変なことばかり言うんですよ。『龍』を見たとか『洪水』に巻き込まれたとか。肝心なことは何一つさっぱりッス。」

 レナードはズボンのポケットから煙草を取り出そうとする。腰につけた六丁の銃が黒光りした。

「いや、そのことなんだがな。あながち間違っていないかもしれないぞ・・・・・あと、ここは禁煙だ。」

 レナードは煙草を探す手の動きを止めた。


「相変わらず大佐は頭固いッスね。」

「上司の前で一服するような奴に言われたくないな。この筋肉馬鹿。」

 リアムは軍の大佐階級の中で最年少である。ずば抜けた魔法能力と判断力で数々の軍功を上げ地位を確立した。

 しかし、部下との年齢差もほとんどないためか、このようなやりとりも、しばしば見られる。


「間違っていないってどういうことッスか?」

「現場確認の資料を見たところの話だ。列車を大破させた魔法は水系統であり、規模も大きいところから、なかなかの手練れた魔法使いだと思われる。」

 リアムは持っていた紙をレナードに渡した。


「ここからは私の憶測だが・・・・・〈守護術〉を操ることができるのではないか、と。」


「はははっ、まさか。」

 レナードは笑い飛ばした。

「魔法能力が天才的に優れている者しか操れない〈守護術〉ッスか?一般人にはまず無理ですよ。これはまた大佐はぶっ飛んだ発想をお持ちで。」

「しかし、普通の水系統の魔法使いが出した水の成分と違うのだよ。それに〈守護術〉なら『龍』が現れてもおかしくない。」


 〈守護術〉はある民族が会得した古から伝わる魔法の一つだ。主の命のままに召還した精霊を動かすことができる。その精霊は魔法の系統によって姿を変えるらしい。

だが、主に力が無いと分かると、精霊が主でさえ自分に取り込んでしまおうとするため、少し魔法能力に長けた者が容易に会得できるものではなかった。


「寝言は寝てから言って下さいよ。犯人たちは魔法を使ったのは少女だ、って言っていましたし。確かに少女一人で電車ジャックを防いだのはすごいッスけどね。」

 リアムは足を止める。


 廊下の向こう側から茶色の革のマントを着た少女がやって来るのが見えた。

「―さぁ、噂の少女のお出ましだ。」

 軍服の襟を直すと、リアムは含みのある笑顔を浮かべた。





(ここが中央司令所か。)


 アリシアは視線を巡らせる。真っ白な床と壁がどこまでも続き、それに沿って膨大な数のドアが並ぶ。そして軍の人々が慌ただしげに行き来していた。


「君がアリシア=ディズリーかね?」

 柔らかい声の先には、切れ長の目に鼻筋の通った端正な顔つきの若い男がいた。アリシアと同じ黒髪をオールバックにまとめている。


「はじめまして。リアム=アッシュベリーと申す。今回の事件では大変お世話になった。礼を言う。」

 リアムは頭を深々と下げた。

(肩に階級章がついているって聞いたことがある・・・・・。この人は星が三つだから大佐、なんだ。)

「いえ。皆さんを救えて良かったです。」


 アリシアが微笑む。

 大佐という階級の人が少女に向かって頭を下げるのだ。軍の人がすべて悪い人には思えなかった。


「わざわざ中央司令部に来ていただいて申し訳ない。事情聴取にご協力して欲しい。」

 列車ジャック事件は結果として誰一人死亡者を出すことは無く、事なきを得た。アリシアの呪文で列車が大破し運転不能になったところを軍が駆けつけた・・・・・という流れだ。


「分かりました。」

 アリシアが承諾すると部屋に案内された。

 革のソファーに机、そして軍のシンボルマークが描かれた緑の絨毯が敷かれている。おおよそ来客用なのだろう。

 リアムに促され、ソファーに腰かける。


「はいよ。コーヒーです。」

「あ、ありがとうございます。」

 綺麗なブロンズ色の短髪の男がお茶を出してくれた。

「俺はレナード=エンジェル。そこにいる人の部下ッスよ。」

 人懐っこそうな表情していることから裏が無い性格であることが伝わってくる。

(軍ってどんなに怖いところかと緊張したけれど、そんなに身構える必要はなかったかもしれない。)


「では、アリシア=ディズリーさん。列車の――」

 リアムが言葉を切った。


 目を疑うかのようにジッとアリシアを見つめる。

「・・・・・どうかしましたか?」


「――緑の瞳。まさか〈モンクの民〉か・・・・・?」

 明らかにリアムの顔が曇る。


「母は緑の瞳を持つ〈モンクの民〉で、父は一般人です。民の血は半分しか流れていません。」


「・・・・・〈穢れた子〉」


 リアムは小さく呟いた。きっと本人は独り言のつもりだったのだろう。レナードが能天気に「〈穢れた子〉って何ですか?」と言うと、とても焦った様子だった。


「い、いやぁ。何でもないんだ。話を元に戻そうか・・・・・。」

「―交わってはいけない血を持った子のことです。」

 アリシアが淡々と答えた。


「〈モンクの民〉は混血を禁忌としています。私は本来、生まれてきてはいけないんです。」


 それはアザレアにいたとき、村の人々に投げつけられた言葉だった。

 この世界の人々はほとんど魔法を使用することはできない。それゆえ魔法という力を理解されなかった。だから魔法使いは、母さんと私は、嫌われたのだ。


「―それは絶対に違う。」


 リアムは力のこもった口調で言った。

「列車に乗った百人以上を助けた君が生まれてきてはいけないはずがない。みんなが君に感謝している。」


「・・・・・!」

 気恥ずかしくなったアリシアは小さくなって俯いた。


(―人に認められるってこんなにも嬉しいんだ。)


 「それで話を元に戻すが・・・・・。犯人たちは動機について何か言っていたか?」

ボスの男のアナウンスを思い出す。自分たちを捨てた、と訴えていた。

「たしか・・・・・軍のことを恨んでいるとか。」

「ああ、やはりか。」

 リアムとレナードが顔を見合わせてため息をついた。一方アリシアはやはり、という言葉に引っかかって質問する。

「やはり、とは?」

「最近多いッスよ。元軍人が暴れて逮捕される事件が。」


 武力で領土を広げてきた軍事国家に不満を持つ人は少なくはない。しかし、元軍人が暴動を起こしているとなると、軍の信用問題に響く。

「捨てられたのはあいつらが無能だからだ。血の気が多いしつけもできない犬なんぞ、軍の食事費用がかさばるだけだ。」

 リアムは苦い顔でレナードが淹れたコーヒーに手を伸ばす。


「―うがっ!まずい!」

次の瞬間、盛大にコーヒーを吐き出した。

「何だこれは!」

「いや、何だと言われてもコーヒーですが。」

「これがコーヒーのわけがあるか!ほとんど水だぞ!味がしない!」

 アリシアは自分の前に置かれたコーヒーを手に取った。確かに色が薄く、あの独特の深いコクの匂いがしない。

「だって、少女のアリシアちゃんには苦いコーヒーなんて飲めないと思ったんですよ。第一、いつもお茶係はフィオナ中尉ッス。」

 リアムはハンカチを取り出し、口の周りを拭いた。


「それにしても、なぜルピナスへ?」

(この人たちに母さんのことを言ってもいいのか・・・・・。)


 アリシアはコーヒーを置くと座り直した。


「―ここに来たのは、人探しのためです。」

「人探し?」

 聞き返された言葉に首を縦に振った。


「七年前に消えた母をずっと探しているんです。」


 自分に遺言だけを残して急に去って行った母さん。

(―私は母さんに会いたい。母さんは私に会いたくないの・・・・・?)

「母親探しか・・・・・。」

 先ほどと打って変わってリアムの顔が真面目になる。


「母親が事件や事故に巻き込まれている可能性もある―その人探し、私にも手伝わせてくれないか?」

「え・・・・・?」


「こういうのは軍の者と動く方が何かといいだろう。情報も早く集まると思う。」

「いいんですか!」

 アリシアは思わず立ち上がった。一人で探すよりも絶対に良い。軍の人ならなおさらだ。


(もしかしたら母さんに・・・・・。)


 そのとき、ドンドンドンとドアを叩く音がした。

「リアム大佐、急用です。よろしいですか?」

「ああ。入れ。」

「失礼します!」

 軍の人はアリシアに会釈した後、リアムに耳打ちした。


「そうか。了解した。今から行くと伝えてくれ。」

「はっ!」

 敬礼した軍の人は足早に廊下へ消えていった。


「すまないが、事件が起こったのでそちらへ行かなければならない。人探しの話は明日の朝でもいいか?」

「構わないです。ありがとうございます。」

「では、明日の朝にもう一度ここへ来てくれ。行ってくる。」

 リアムはそう言うと部屋から出た。その後を慌ててレナードが追った。

「またね!アリシアちゃん!」

「はい。」


 誰もいなくなった部屋でアリシアも帰る準備をする。

(家へ帰ろう。今日はとても疲れた。)


「・・・・・あ。」

 アリシアは声を漏らした。


 そう、帰る家が無い。

 故郷のアザレアを出たのだからここには自分の居場所がない。

(宿を借りるしかないか。)

 明日、もう一度中央司令所を訪れるのでなるべく近い宿を選ばなければならない。

(最悪は野宿か・・・・・。)

 アリシアは不味いコーヒーをすすった。





「大佐!待ってくださいって。」

 レナードが駆け足で追いついた。

「そうゆっくりしてられるか。車を出せ。」


「―人探しを手伝うなんて、大佐はアリシアちゃんに親切ッスね。」


 リアムは歩みを止める。

「・・・・・私は誰に対しても親切だ。紳士だからな。」

「嘘言わないで下さいよ。」

 その言葉にムッとリアムの顔が引きつった。


「人探しなんて中央の軍がわざわざすることでもないッスよ。それに大佐階級が引き受ける仕事じゃない。」

「・・・・・思い出せ。」

「はい?」


「―私たちがあの〈モンクの民〉にどんなことをしたか。」


 レナードは黙って唇を噛みしめた。


「―少しでも罪滅ぼしになればな・・・・・まぁ、こんなものでは済まされないが。」


 急げ、と短く声を掛けると二人は再び長い廊下を進んだ。





更新が亀ですみません。

早く皆様にお届けできるよう頑張ります!

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