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だが、いつしか大学進学の勉強のことなどで絵里は
すっかり、真人のことを忘れた。
勉強に専念した絵里は何とか、一発でさゆみと
別の大学に合格した。
『やった!…… さあ。これから遊ぶぞ!』
意気揚々と絵里が大学のキャンパスに乗り込むと
そこにはもうすでに忘れたはずの真人がいた。
『え?何でいるの?……』
絵里がびっくりして、その場に立ち尽くしていると
真人は絵里のことなんか、知らないかのように
絵里の横を友達と話しながら通り過ぎていった。
絵里はさっぱり、意味がわからなかったので
親友のさゆみに真人のことを訊いた。
「ああぁ…… 彼ならとっくにわかれたわよ!」
さゆみからは絵里がまた驚くような答えが返ってきた。
絵里はどうしても同じ大学にいる真人が気になり、
大学内で色々と真人のことを訊いて廻った。
真人はこの大学の大学院生で今年、卒業すると
言うことが解った。
『せっかく、忘れていたのに……
なんで、またわたしの前に現れるのよ……』
絵里は複雑な表情で大学内にいる真人のことを見詰めた。
そんな絵里の頭の中には再び、真人の楽しかった思い出が
よみがえってきた。
そんな中、絵里は真人から買ってもらった
淡いピンク色のワンピースのことを思い出した。
翌日。
絵里は少し、時代遅れのような淡いピンク色の
ワンピースを着て、大学へと行ったが……
それでも真人は絵里に無反応だった。
『どうしたら良いの?……』
絵里が暗く落ち込んだ顔をしていると
「どうしたの?そんな暗い顔をして?……」
琢己が絵里に気軽に声をかけてきた。
「何でもないわ!……」
絵里は琢己にそう言うと琢己を避けるように
その場から立ち去ろうとしたが琢己は元気のない
絵里にちょっと気になり、
「ちょっと、付き合って!……」
絵里の手を引き、走り出した。
『え?……』
絵里は琢己の突然の行動にびっくりした。
その瞬間、絵里は琢己の突然の行動が真人の思い出と重なり、
切なくなった。
琢己が絵里の手を引っ張って、強引に絵里を連れて来たのは
近くの海だった。
「ああぁ…… 気持ち良いね!……」
琢己は防波堤に腰掛け、海から吹く風に当たりながら
無邪気な笑顔で絵里に話しかけた。
絵里はあまりにも自分に対して無防備な琢己に
一瞬、ドキッとした。
絵里も海から来る優しい風に当たり、久しぶりに
清々しく気持ちよかった。
「ねぇ!こんな所に良く来るの?……」
絵里は琢己にそう訊くと
「うん。良く来るよ!サボりに…… でも、女性と来たのは
初めてかな?……」
琢己は絵里のことを見詰めながら、そう言った。
絵里はまた琢己のそんな一言にドキッとしながら
「へぇ…… そうなんだ!」
平常心を装い、琢己と暮れる夕日を見詰めた。
辺りがすっかり、暗くなった頃、
グゥ……
琢己と絵里のお腹が鳴った。
絵里が恥ずかしそうにお腹を押さえていると
琢己も同じようにお腹を押さえながら、
「お腹、空いたなぁ…… 何か、食べに行く?……」
絵里に訊いてきた。
『え?……』
絵里が戸惑っていると
「さあ。行こう!……」
琢己は絵里が返事をする前にもう絵里の手を掴み、
勢い良く、走り出していた。




