その7
会社に戻ると、さっそくKさんに打ち合わせた内容を報告した。
「そう。リプレースは無理なわけね」
「はい、競合他社の見積もりは私たちよりは低いかと思います」
Kさんは、むーっ、とうなった。
そこへ、さっかー先輩が割り込む。
「利潤が見込めない案件なら仕方ないさ。だめもとでリプレースの提案書いちゃえば?」
さっかー先輩は飴玉をほおばりながら、もぞもぞなにやら動いている。不気味だ。
「顧客先のニーズに合わせることが前提条件だけれど、面白そうだね、リプレースで提案しちゃいなよ」
あ、社長、いつのまにかいたんですね。傍らに社長秘書も努めている御園さんまでいるし。
「ハル君、悩むことはない。堂々と提案したまえ」
社長!まさに神の声。
お茶いれてきますね、と御園さんは給湯室にでていった。
「わかりました。ではリプレース案件として再度提案してみます」
「それがいい」
社長は愉快に髭を揺らせながら微笑んだ。よっ、社長!
僕の定時は5時だけど、それからのオフが大変なんだよね。I君に借りたゲームしなくちゃならないし、御園さんが描いたイラスト見ないといけないし、さっかー先輩の新作小説もよまなくちゃ。
それに今日の打ち合わせの議事録をつくってと。
もう、この忙しさは何?
「みなさん、お茶はいりましたよ」
御園さんが入れてくれた玉露はまことにおいしい。
心が潤う瞬間ってこんな感じかしらん。
Kさんがお茶をふーふーしながら尋ねてきた。
「ねえ、ハル君、O大学へのプログラムの納入はいつなの?」
「はいKさん、明日の午前中に行く予定になってます。今日の会議は明日の午後からってことでいいですかぁ?」
「いいわよ」
ごくりと玉露をすするKさん。かっこいい。
「さてハル、おつかれ、今日は早く帰れよ」
さっかー先輩が背中を押してくれた。よし帰宅モードにスイッチを切り変えなくちゃ。
「それじゃ、今日はこのあたりで失礼します。」
みんなの、おつかれさまコールを聞きながら僕は会社の玄関をでていった。




