愛、故に…
残酷な部分と、ちょっと狂った感じがあるので、苦手な人はやめておいたほうがいいかもしれません。
そっと目を開ける。
此処は時の流れが無いに等しいくらいに、ゆっくりと日々が流れていく。
当たり前のことだが、時は流れているが……この空間に生きる僕には関係ない、問題ないことだった。
常に閉め切りになっているカーテンからかすかに差し込む光で目を覚まし、太陽光から人工の光に変わり、光が消えると眠りの世界へ。
毎日毎日、この繰り返しだった。
それでも、僕は幸せだった……彼女がいるから。
「おはよう。」
僕が見上げると、すぐそこに彼女が微笑んでこちらを見ている。
言葉を発することができない僕は、彼女の傍に寄る。
すると彼女は嬉しそうに僕の頬をなでる。
その顔を見て僕も嬉しくなるが……同時にこの気持ちを彼女に伝えられない僕はもどかしくて、声を上げる。
「あ、ご飯の準備もできているよ。」
彼女は慌ただしく台所からご飯を運んでくれる。
そうじゃなくて……もどかしくて、もどかしくてどうしようもなかった。
僕は自分の羽根を動かし、彼女の肩にとまる。
……そう、僕はトリで、彼女はニンゲン。
僕も彼女を愛しているし、彼女もきっとそうだろう。
だけどそれは……許されない想いだった。
そして、悲劇はおきた。
彼女は、毎日決まった時間にどこかに行ってしまう。
シゴト、って言ってた。
生きていくために必要なんだってさ。
僕にはわからなくて、壁を感じた。
そして今日も彼女は行ってしまった。
彼女がいない部屋は、静寂が支配していて……今日は上手く彼女に気持ちが伝わらなくて、もやもやしていた。
だから僕は、普段なら考えもしないことをしてしまった。
そう、開いていた窓から外の世界へ羽ばたいたのだった。
別に逃げ出したいわけではなく、ほんの少しの好奇心で。
外はとても魅力的だった。
空は青くどこまでも広がっていて、綺麗な花が咲いていて、太陽が暖かかった。
静かでどこか冷たいあの部屋とは、正反対だった。
思いの外、長く外にいたようだった。
そして、遠くまで飛んできてしまって、帰る道がわからなくなっていた。
途方にくれていると、近くに僕と同じ姿を見つけた。
「もしかして……○○なの?」
首をかしげながら近づいてくるが、僕には聞き覚えの無い言葉が聞こえた。
「○○って、何?あなたは、だぁれ?」
「え……。」
僕の同類であろう。
ただ、驚いて固まってしまった。
「申し訳ないけど、僕早く帰らなきゃ。道わかる?」
「あ、わかった……案内するね。」
大体の場所を伝えると、そこまで送ってくれた。
「ありがとう。」
「あ、うん……それじゃ。」
夕暮れ祖空に消えるのを見送り、慌てて彼女がいる部屋まで帰った。
「どこ、行ってたの?」
笑顔で迎えてくれる、そう思っていたのに……彼女の顔には何の表情も浮かんでいなかった。
僕は動きが止まる。
あまりにも冷たい言い方。
「心配したんだよ?」
やっと気づいた。
僕は……彼女を裏切っていたんだ。
今思えば、部屋の窓はいつも少し開けてあった。
多分、留守にしている間の僕のことを考えていてくれたんだろう。
何もすることができずにいると、彼女は何も言わずにきびすを返して部屋の中に消えた。
いつもは同じ部屋で眠りにつくが、扉が閉められたままだったので初めて別々に夜を過ごした。
胸が苦しくて、苦しくて……それでもいつの間にか眠りについていた。
いつものように目を覚ます。
足が重く、床もいつもよりも冷たくて……異変に気づいた。
「おはよう。」
いつものように、彼女が近づいてくる。
足が重いのは、鎖で繋がれていて……冷たいのは金属のカゴに入っていたからだった。
そして、立とうとすると温かい何か…液体が飛び散っていた。
「あなたは、あたしのもの……誰にも、誰にも渡さない……。」
虚ろな瞳で空を見つめ、両手で何かを握っていた。
そして、彼女の白く細い手首が……赤く染まっていた。
「もう、奪わないで…奪わせやしないんだから…。」
彼女の瞳から透明な雫がこぼれる。
それはそれは美しくて……見とれていた。
僕は君が愛しいんだ。
「アイシテル、の…。」
もう僕の瞳には君しか映らない。
例え、彼女の両手から僕の同属であろう羽根が見えたとしても。
彼女の瞳に、僕の姿が映っていなくとも。
僕は此処で、君と在り続ける……。
愛、故に…
(例え、もう飛べなくてもかまわない)
2012/09/27 古都谷 優流
読んでいただきありがとうございます。
私が好きな歌手のインパクトの強い曲がありまして、それをイメージして書かせていただきました。
世界観が表現できていますように…