表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

愛、故に…

作者: 咲月 流夜

残酷な部分と、ちょっと狂った感じがあるので、苦手な人はやめておいたほうがいいかもしれません。

そっと目を開ける。

此処は時の流れが無いに等しいくらいに、ゆっくりと日々が流れていく。

当たり前のことだが、時は流れているが……この空間に生きる僕には関係ない、問題ないことだった。

常に閉め切りになっているカーテンからかすかに差し込む光で目を覚まし、太陽光から人工の光に変わり、光が消えると眠りの世界へ。

毎日毎日、この繰り返しだった。

それでも、僕は幸せだった……彼女がいるから。


「おはよう。」


僕が見上げると、すぐそこに彼女が微笑んでこちらを見ている。

言葉を発することができない僕は、彼女の傍に寄る。

すると彼女は嬉しそうに僕の頬をなでる。

その顔を見て僕も嬉しくなるが……同時にこの気持ちを彼女に伝えられない僕はもどかしくて、声を上げる。


「あ、ご飯の準備もできているよ。」


彼女は慌ただしく台所からご飯を運んでくれる。

そうじゃなくて……もどかしくて、もどかしくてどうしようもなかった。

僕は自分の羽根を動かし、彼女の肩にとまる。


……そう、僕はトリで、彼女はニンゲン。

僕も彼女を愛しているし、彼女もきっとそうだろう。

だけどそれは……許されない想いだった。




そして、悲劇はおきた。




彼女は、毎日決まった時間にどこかに行ってしまう。

シゴト、って言ってた。

生きていくために必要なんだってさ。

僕にはわからなくて、壁を感じた。


そして今日も彼女は行ってしまった。

彼女がいない部屋は、静寂が支配していて……今日は上手く彼女に気持ちが伝わらなくて、もやもやしていた。

だから僕は、普段なら考えもしないことをしてしまった。

そう、開いていた窓から外の世界へ羽ばたいたのだった。

別に逃げ出したいわけではなく、ほんの少しの好奇心で。


外はとても魅力的だった。

空は青くどこまでも広がっていて、綺麗な花が咲いていて、太陽が暖かかった。

静かでどこか冷たいあの部屋とは、正反対だった。

思いの外、長く外にいたようだった。

そして、遠くまで飛んできてしまって、帰る道がわからなくなっていた。

途方にくれていると、近くに僕と同じ姿を見つけた。


「もしかして……○○なの?」


首をかしげながら近づいてくるが、僕には聞き覚えの無い言葉が聞こえた。


「○○って、何?あなたは、だぁれ?」


「え……。」


僕の同類であろう。

ただ、驚いて固まってしまった。


「申し訳ないけど、僕早く帰らなきゃ。道わかる?」


「あ、わかった……案内するね。」


大体の場所を伝えると、そこまで送ってくれた。


「ありがとう。」


「あ、うん……それじゃ。」


夕暮れ祖空に消えるのを見送り、慌てて彼女がいる部屋まで帰った。


「どこ、行ってたの?」


笑顔で迎えてくれる、そう思っていたのに……彼女の顔には何の表情も浮かんでいなかった。

僕は動きが止まる。

あまりにも冷たい言い方。


「心配したんだよ?」


やっと気づいた。

僕は……彼女を裏切っていたんだ。

今思えば、部屋の窓はいつも少し開けてあった。

多分、留守にしている間の僕のことを考えていてくれたんだろう。

何もすることができずにいると、彼女は何も言わずにきびすを返して部屋の中に消えた。

いつもは同じ部屋で眠りにつくが、扉が閉められたままだったので初めて別々に夜を過ごした。

胸が苦しくて、苦しくて……それでもいつの間にか眠りについていた。


いつものように目を覚ます。

足が重く、床もいつもよりも冷たくて……異変に気づいた。


「おはよう。」


いつものように、彼女が近づいてくる。

足が重いのは、鎖で繋がれていて……冷たいのは金属のカゴに入っていたからだった。

そして、立とうとすると温かい何か…液体が飛び散っていた。


「あなたは、あたしのもの……誰にも、誰にも渡さない……。」


虚ろな瞳で空を見つめ、両手で何かを握っていた。

そして、彼女の白く細い手首が……赤く染まっていた。


「もう、奪わないで…奪わせやしないんだから…。」


彼女の瞳から透明な雫がこぼれる。

それはそれは美しくて……見とれていた。

僕は君が愛しいんだ。


「アイシテル、の…。」


もう僕の瞳には君しか映らない。

例え、彼女の両手から僕の同属であろう羽根が見えたとしても。

彼女の瞳に、僕の姿が映っていなくとも。

僕は此処で、君と在り続ける……。



愛、故に…

(例え、もう飛べなくてもかまわない)




2012/09/27  古都谷 優流

読んでいただきありがとうございます。

私が好きな歌手のインパクトの強い曲がありまして、それをイメージして書かせていただきました。

世界観が表現できていますように…

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ