チャプター8 バンコクへ企業旅行
その夜。ドレイクシティの中心にある公園でロドリゲス警部補とデレク、ファルコンマンが秘密の面談をしていた。
「ギールが逃亡した。奴はバンコクの仲間から情報を張り巡らせ、ピノキオを上手く回避しやがった・・・」
ロドリゲス警部が頭を抱えて言うと、
「ギールなんかよりもピノキオのほうが問題だと思うけどね。」
デレクが答えると、ファルコンマンに言った。
「ところで君はギールの情報について何かわかったのか?」
ファルコンマンは答える。
「バンコクのビルに潜伏中だ。今日バンコクに飛ぶ。」
ファルコンマンは走り去っていった。
「凄いな、彼・・・情報の塊じゃないか・・・なのになぜピノキオの尻尾が掴めないんだ?」
「まだ全体像が出てきてないんだろう・・・」
「・・・」
数時間後、トビアス、サム、サーシャは自家用機に乗っていた。
ノーラン社長がバンコクに旅行するという話題でテレビは持ちきりだった。
メアリーは自宅でそれを見て、トビアスのことを思った。また戦いだ・・・(トビアス・・・頑張ってね・・・)
トビアスの無事を祈っていた。
翌朝。バンコクに到着。
トビアスたち3人はギールの経営する電力会社べック・エレクトリック・コーポレーションを訪れる観光と偽ってヘリをチャーターした。
ヘリ内でサムがサーシャに尋ねる。
「ギールはFBI時代に君のライバルだったんだろ?」
「ええ、最低な男だったわ。1ヶ月前にもノーラン産業のコンピュータにハッキングしてきたし・・・奴は今回私が来るなんて思ってもいないでしょうね。2年前に流行った違法のゲームであの男に勝ちたくてハッキングしたわ。」
サーシャはナビゲータに触りながら答える。
「で、奴は?」
「奴は素早く手を引いた。でも私はハッキングがバレてクビ。奴の方が私の一歩先にいたわけね。」
「でも、今は立場が逆転したんだろ?」
トビアスはナビゲータを見せて微笑みながら問いかけると、サーシャは笑顔で、
「ええ、私が狩る番よ。あなたたちと仕事ができて光栄だわ。」
と答えた。
サムは言う。
「こちらこそ。インターネットなら君がわが社で最高の人材だからな。」
ヘリはべック・エレクトリック・コーポレーションへと到着。
社内は最新の電気機器が展示されており、荒れたバンコクの街とは対照的だった。
社長室へと向かう3人。
ドアを開けると、そこにはイタリア風の男が座っていた。この男がギ-ル・べックだ。
「ようこそ、ノーラン産業ご一行様。お待ちしておりました・・・おや?私の旧友もいるようですが?」
「彼女が今日、君に話があるんだ。その・・・企業間のことで。」
サムが説明すると、サーシャが前に出て言った。
「ハーイ、べック。2年ぶりね。」
「ケンジントン・・・まさか君が来るとはな・・・よくノーラン産業に入れたな・・・」
「ノーラン社長のコネよ。彼は私の友人だから。そんなことより本題に入りましょう。あなたが2ヶ月前・・・」とサーシャが言いかけると、ギールが止めた。
「ちょっと待ってくれ。すまんが、お2人は席を外してもらえるかな?2人っきりで話をしたいのだが・・・」
ギールが言うと、トビアスとサムは部屋を出て行った。
サーシャは2人が出て行くのを見ると、ギールへと目をやった。
「2年前と変わってないわね・・・」
「ハンサムになっただろ?まあ、そんなことはどうでもいい。本題に入ってくれ。」
「2ヶ月前、あなたがウチのコンピュータに侵入した件だけど・・・」
「何だ?それは。知らないな。他の誰かじゃないのか?」
「とぼけないで!調べたらあなたの社名が浮き上がったわ。」
「私は知らないな。社員が勝手にやったことだろ。」
「あなたではないとしてもあなたの会社であることは間違いないわ。素直に認めるなら連携企業に公表はしない。でも認めないならその逆。」
「公表したとしてもタイ国内なら問題はないぞ。」
「残念だったわね。もし私たちがあなたのやったことを公表すれば、国際警察にチクるのは確実よ?あなたたちの会社と私たちの会社の力の差を考えなさい。」
「フンっ。国際警察が追ってこようものなら他国へ逃亡する。私にはポッチーノから頂戴した資産があるんだ。」
「それはどうかしら?今日であなたは終わりよ。負けを認めなさい。」
サーシャは席を立ち、言った。
「このメス犬め!私を侮辱したな!国際警察など私設部隊が排除してくれるわ!見ていろ!」
ギールは怒鳴り散らすが、サーシャは無視して部屋を出た。
溜息をつくサーシャ。
トビアスが聞いてきた。
「交渉結果は?」
「たっぷり脅してきてやったわ。私設部隊が黙っていないとかいってたけど。奴は負けたも同然。」
「そっか。ムキになる奴はやりやすいな。夜が楽しみだ。」
トビアスがそう言うと、3人は本社を後にした。