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緋色の魂は二度、剣を握る ~人斬り令嬢の異世界無双~  作者: N


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第三十七話 審問の召喚状

四日後の朝、召喚状が来た。


セバスチャンが朝食前に持ってきた。


「王家からの文書です」


封蝋が押してあった。


王家の紋章だった。


開いた。


読んだ。


クロイツェル公爵家令嬢エルシア・フォン・クロイツェルを、暗属性魔力に関する審問の場に召喚する。


日時は七日後。


場所は王城の審問場。


審問官は王家、魔法教会、貴族議会からそれぞれ選出される。


「七日後ですわ」


「はい。急ですね」


「審議を早める申し入れが通ったということですわ」


「そのように思われます。七日という期間は、通常の審問の召喚期間より短いです」


「どのくらい短いのですかしら」


「通常は二週間から一ヶ月です。七日は異例の短さです」


急いでいた。


ルミナール公爵の申し入れが効いていた。


「お父様には」


「すでにお渡ししました。朝食前に届けました」


「お母様には」


「同じくお渡ししました。イレーナ様は今朝から動いています」


母がすでに動いていた。


朝食の席に行くと、父がいた。


いつもと同じだった。


母はいなかった。


珍しかった。


朝食に母がいないのは、相当急ぎの用がある時だった。


「お母様は」


「動いている」と父が言った。


「ヴァレンシア家へですかしら」


「それだけではないかもしれん」


「お父様は」


「議会に今日行く。審問の条件を確認する」


「条件というのはどういう意味ですかしら」


「審問の方法だ。審問官の構成、質問の範囲、判断の基準。全部、事前に確認できる部分がある。確認して、不当な条件があれば異議を申し立てる」


「七日で間に合いますかしら」


「やれることをやる」


父がいつも通りの短さで答えた。


ヴァルターが心配そうな顔で来た。


「エルシア、審問って、どうなるんだ」


「どうにかなりますわ」


「どうにかって何が」


「有利か不利かはまだ分かりませんわ。しかしやれることはやりますわよ」


「俺に何かできることはあるか」


朱音はヴァルターを見た。


兄が、できることを聞いてきた。


前世では、そういうことを聞いてくれる人間がいなかった。


「今は特にありませんわ。しかしあれば言いますわよ」


「絶対言えよ」


「ええ」


朝食を終えた。



アカデミーに向かった。


馬車の中でセバスチャンが言った。


「召喚状が届いたことで、一つ問題が生じています」


「なんでしょうかしら」


「公の場で話す機会を、ヴァレンシア侯爵が用意する予定でした。しかし審問が七日後に設定されたことで、その前に機会を作ることが難しくなりました」


「時間がなくなりましたわね」


「はい。侯爵に連絡を入れましたが、準備期間が足りないとのことです」


「では公の場で話す機会は、今回は作れないということですかしら」


「そうかもしれません。ただ」


「なんでしょう」


「審問の場自体が、公の場になります」


朱音は少し考えた。


「審問の場で話すということですわね」


「はい。審問は貴族の立会人が複数います。王家の関係者も来ます。魔法教会も来ます。審問の場での言葉は、その全員に届きます」


「準備していた言葉を、審問の場で使えるということですわね」


「可能性としてはそうなります」


朱音は窓の外を見た。


審問の場。


召喚された側が、審問官に対して答える場だった。


こちらから話す場ではなかった。


しかし答えの中に、伝えたいことを入れることはできる。


「七日ありますわ」


「はい」


「その間に言葉を決めますわ」


「承知しました」


フィーナが向かいで聞いていた。


「審問って、怖いですか」


「さあですわ。行ったことがありませんので」


「行ったことがない場所が怖くなかったことが、エルシア様にはありますかしら」


朱音は少し考えた。


「あまりありませんわね」


「じゃあ怖くないんですね」


「そうなりますかしら」


フィーナが少し安心した顔をした。


論理の飛躍があったが、今日はそれでよかった。



アカデミーに着いた。


廊下でレオンに会った。


「召喚状が来たと聞いた」


「ええ」


「七日後か」


「そうですわ。随分と早くなりましたわね」


「父の申し入れが通ったのだろう。俺は関与していない」


「存じておりますわ」


「審問の場で、どう動くつもりだ」


「まだ考えている途中ですわ」


レオンが少し間を置いた。


「一つ、伝えておく」


「なんでしょうかしら」


「俺は審問の立会人として出る。ルミナール家の嫡男として、出席する権利がある」


「立会人として、何をなさいますかしら」


「必要であれば、発言する。立会人には発言の権利がある」


「ルミナール家の立場として、それは問題になりませんかしら」


「なるかもしれない。しかしやる」


朱音はレオンを見た。


決めた後の顔だった。


「ありがとう存じますわ」


「礼はいらない。俺が必要だと思ったからやる」


前と同じ言い方だった。


この少年はいつもそう言った。


礼はいらない。必要だと思ったからやる。


それが、この少年の正直さだった。


「カインには伝えましたかしら」


「まだだ。お前から伝えるか」


「私から伝えますわ」


レオンが立ち去った。


カインに会ったのは昼の休憩の時だった。


「審問が七日後に来た」


「聞いた」


「どこからですかしら」


「朝のうちにゴルドから」


「ゴルドがまた早かったですわね」


「クロイツェル領の情報は速い。朝に届いた知らせが、夕方にはゴルドに届く」


「カインは、何か言いたいことがありますかしら」


カインが少し考えた。


「一つある」


「なんでしょう」


「試作が進んでいる。七日後の審問の前に、ゴルドから報告を受ける予定だ。タイミングが重なる」


「審問と試作の報告が同じ頃になりますわね」


「審問の結果によっては、試作の意味が変わる可能性がある。封印されれば、刀を使う機会がなくなる」


朱音はカインを見た。


「続けてくださいますかしら、試作を」


「なぜそう聞く」


「封印の可能性があっても、続けてほしいと思っているからですわ」


「続ける。封印されない可能性もある。どちらになるか分からない状況で止める理由がない」


「ありがとうございますわ」


「礼はいらない。俺が続けたいから続ける」


レオンと同じ言い方だった。


必要だと思ったからやる。続けたいから続ける。


二人とも、理由が自分の中にあった。


前世では、理由が自分の中にある人間に会ったことがあったか。


少なかった。


ほとんどの人間は、外の理由で動いていた。


命令されたから。しなければ損するから。得をするから。


自分の中の理由で動く人間は、少なかった。


今のアカデミーには、そういう人間が複数いた。


「七日後に、また話しますわ」


「分かった」


カインが戻った。


授業の時間になった。


七日ある。


その間にやることを整理した。


一つ目は言葉を決めることだった。審問の場で話す言葉を決める。消えないということを、どう言うか。


二つ目は審問の条件を把握することだった。父が確認する。その情報を受け取る。


三つ目は体の準備だった。七日間の稽古を続ける。体を動かし続ける。審問は戦いではないが、動かし続けることで頭も動く。


三つあった。


全部、七日でできることだった。


七日は短かった。


しかし短い中でやれることをやる。


前世でも、時間があった試しがなかった。


いつも足りなかった。


足りない中でやってきた。


七日は、十分だとは言えなかった。


しかし十分に近かった。


教室に入った。


席についた。


窓の外の空が見えた。


七日後も、空は続いている。


そういう空の下で、審問がある。


審問が終わった後も、空は続く。


それだけは確かだった。

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