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雌雄を決さず

作者: 6969
掲載日:2026/01/21




 数年前までは性別決定届を出すのは十五歳までだったらしい。

 だが、自分の性別を決めるのに、周りの大人たちからの誘導があったのだという訴えが続き、小児意志決定権の議論が何度も行われ、ついに性別決定届は二十歳以上の本人が行うこととなった。病院からも役所からも、本人確認を含めた電子面談をされる、という徹底具合である。


「そもそも、古代の人間は性別をどちらにするか悩むことなんて無かった。こんなものはナンセンスです」というのが電子教師の言である。人間の性別が生まれながらに決まっている、そんな時代なんて生きてはいなかったはずなのに、ずいぶんと知ったような口を聞くものだ。まぁ、教師というのは得てしてそういうモノなのかもしれない。


『性別決定と、それぞれの性別を選んだことによるメリット・デメリット』に関する通信ディベートを来週に控えている私は、自分の部屋で関連する資料を一人漁っていた。

 時間をそろえて集まらないといけないからか、通信ディベートというのは回数が少ない。そして、その少ない回数で評価が悪いと『他者とのコミュニケーション力を上げよう』なんて、補習を受けさせられる羽目になる。この補習がまた最悪で、去年なんか「コミュニケーションとは電子越しではできない。顔を合わせなくてはいけません」なんて、旧石器時代からやってきたとしか思えない電子教師が担当していた。そんな主張に振り回され、去年の私はこの愛しの我が部屋から引き摺り出され、新東京まで足を運ぶ羽目になったのである。

 電子ではなく本物の足、だ。

 外に出るだけでも一苦労だというのに、まさか自分の人生の中で、AIが運行する電車と乗り合いの自動飛行装置に乗って移動する、なんてことがあるなんて思わなかった。外出する人間なんて数えるほどしかいないので、乗り合わせたのはアンドロイドたちばかりだったが、それでも知らない個体ばかりで心臓が止まりそうだった。もうその移動だけで、私にとっては大冒険だったのだが、そこから更に生きている生身の人間と対面させられたのだから、本当に勘弁してほしい。しかも、一人ではない、複数だ。同じ補習仲間だったらしいが、生きている自分以外の人間を見る経験なんて初めてだったので、結局誰とも目を合わせられなかった。まぁ、補習仲間たちも同じ様なモノだったらしく、結局、映し出された電子教師以外は誰一人として、口を開かない異様な空間になってしまったわけである。

 もちろん、顔を合わせ前後に病院で感染症もチェックもしたし、注射をたくさん打つことになってしまった。人間と会ったのだから当然だが、あれは本当に参った。

 聞けば、補習に出た生徒の八割はその後に寝込んだらしい。これを悪例として、二度とこんなことはしないでほしい。少なくとも私は、もう二度とごめんである。そう、二度とごめんだ。

 だからこそ、私は絶対にこのディベートである程度の評価を取っておきたい。



 部屋の壁から振動と電子音が響き、私にコンタクトがあったことを伝える。天井を見上げ、そこに表示された画面を確認してみると、電子学生仲間のオウムからだった。もうディベートの練習の約束の時間だったのかと少し驚く。


 机の上に置いていたゴーグルを持ち上げて頭から被り、電子空間へと移動するための準備を始める。

 アプリを起動。そして、付けっぱなしだったコードをもう一度はめ直し、無線のコードもオンにする。記憶させていたIDとパスワードが表示されたので、そのままログインへと進む。

 起動音がゴーグルから鳴り響き、視界がチカチカと光り出す。

 一度目を閉じてから、再び瞳を開き、電子情報を取り入れる。


 私の両目に映っているのはパソコンに囲まれた自室ではない。今はもう見ない、木で作られた古めかしい部屋を映し出していた。電子情報は視覚のみならず、嗅覚にまで及び、独特の匂いが鼻を擽る。この嗅覚情報は「木の匂い」として登録されているものだ。辺りにはオルゴール調の童謡が響きわたり、窓から滲む電子風景は橙色に染まっていた。

 生身では腰程もないだろう机だったが、今の私にはちょうどいい。透明でちっぽけな石のヒトガタ、それが私の電子擬態であり、今の私の姿なのだ。


 古い時代に使用されていた学校の教室、それをモデリングした場所がここだ。このモデルで一斉電子授業を受けるので、学生にはなじみ深いものである。だからこそ、多くの電子学生はここに集合してから、それぞれ他の場所に飛ぶことが多い。そうした方が、この広大すぎる電子社会では迷子にならないですむのである。分けられている他の社会サーバに迷い込んでしまえば、戻るのはことだ。下手すれば、役所に届け出を行わなくてはいけない程の電子迷子になりかねない。


石英せきえい

 耳によく馴染む声。

「やぁ、オウム」

 振り返ると、名前の通りに派手な色をした鳥の電子擬態がそこに立っていた。いや、地面に足を着けずに、数センチ浮いていたというべきだろうか。鳥の擬態を持つ彼女は自分の電子擬態を地面に立たせたくないらしく、いつも少し浮く設定にしている。

「相変わらず、堅そうな電子擬態だよねぇ」

「仕方ないでしょ、石の電子擬態なんだから」

 私達は生まれた時に与えられた電子擬態を一生使い続ける。だから、出会ってから今までオウムも私も姿を変えていないし、変えることなんてできない。私達は一生死ぬまでこのままなのに、相変わらずなんて言葉はナンセンスだ。


「で、空き部屋取れたの?」

「いや、今日はオウムが取る番でしょ」

「えぇ、そうだっけ?」

 オウムがコトンと首を傾ける。右に一回、左に一回。これがオウムの癖だ。もしかすると、この電子擬態のモデルがそういう挙動をする生物なのかもしれない。

「ちょっと検索かけてみるよぉ」

「教室にいたら誰かと鉢合わせしそうだし、廊下にでない?」

「うん、石英へ追従モードにしとくから、適当につれてって」

「分かった」

 かくんと首を落としたオウムの電子擬態が私の背後についた。数歩移動して、電子擬態がついてくることを確かめる。大丈夫だ、きちんとついてきているようだ。それをしっかりと確認してから、私は廊下に出た。

 廊下もやはり木でできており、移動すると足下の木が私を非難するような音を立てた。こういう音が足下から響くと、ただの電子背景だというのに、このまま壊れてしまうような気がしてくる。木でできた建物というのは、どれくらいの数の人間の重さに耐えられるものなのだろうか。古い時代には木の建築物もあったらしいので、まさか四、五人でダメになることはないはずだ。だが、そういうことを考えると、今にも足下の木の板が割れてしまいそうで身震いしてしまう。


 私は無理矢理、廊下の窓に目をやり、外を眺める。

 窓から見えるの並木は橙色に染まってわかりにくいが、桜だろうか。

 無心で足を前へと進めていたが、どうにも進んだ気がしない。同じ様な風景が並んでいるからだろうか。それとも、このモデルには先が用意されていなくて、ループでもしているのだろうか。


「部屋取れたよぉ」

 背後で追従していたオウムが私に声をかけてきた。どうやら、もう戻ってきたらしい。私は進行を止めて、オウムの方へと視界を動かす。

「IDとパスワードは?」

「今、送る」

 眼前、私にだけ見えるように設定されたウインドウがポップアップされた。そこにはオウムのIDと文字列が表示されている。

「きた?」

「きたよ」

 オウムの問いかけに短く答えると、軽い音を立ててその姿が消える。どうやら、さっさと移動してしまったらしい。

 私もウインドウを開く。そして表示された文字列をコピーし、そのままペーストして現在地変更を行っていく。


 視界に電子ノイズが広がる。


 次の瞬間に私が立っていたのは、そびえ立つ木の壁の前だった。いや、木の壁ではない。木の壁のような圧迫感があるが、それは上方からこちらを見下ろすことができるように作られた机である。私の眼前には壁のような机、そして背後には椅子の群に挟まれているようだ。随分と圧迫感があるというか、まるで逃げ場を塞ぐように囲まれているかのようである。


「ちょうど、古代の裁判所モデルが空いててさ」

 呑気な声色が上から降りてくる。

 裁判所。

 裁判所、というのはもちろん聞いたことがある。罪を裁くための場所だ。

 今私が立っているのは、きっと罪人が立つ位置なのだろう。周りを囲まれ、挙動がしっかり見えるような作りをしているのだから、間違いない。こんな場所に立つとどういう気持ちになるのか、なんてことは一生知りたくなかった。


「・・・・・・なんで、私をここに配置したのさ」

 私は眼前にそびえ立つ机の一番上、そのど真ん中に座るオウムを見上げた。よく分からないが、一番高い所に席があるのだから、高い地位の人間の席なのは間違いない。きっと、罪人を裁く人間が座る場所だ。

「いや、皆さぁ、最初はそこに来るように、調整されているみたいなんだよねぇ」

「・・・・・・あぁ」

 どうやら、このモデルを作った人間の趣味らしい。

 随分と良い趣味をしているようだ。お友達にはなりたくないタイプである。


「ディベートなんだから、せめて目線が合う場所で話し合おうよ」

 私は遙か上空のオウムに抗議した。この位置関係での会話は、まさに下の立場からの抗議のようで、気分は良くない。

「ほら、後方の椅子とか」

 裁判所内を、というよりも私やオウムのことを背後から見守るように並ぶ椅子を指し示す。位置的には、当事者というよりも、どう罪が裁かれるのか眺める観客席のようなものだろうか。

「でも、あっちに座るのはさぁ、主役っぽくないよ」

 オウムが上空から私の抗議を拒絶してきた。


 主役っぽいか否か。

 これはオウムにとって重要な意味合いを持つ。

 派手な配色の電子擬態を持つオウムは、いつだって自分を主役に置きたがるのだ。

 そんなオウムに何と言えばいいのか、私はよく知っている。


「でも、他の登場人物と比べて立場が上過ぎると、主役よりも悪役みたいに見えるんじゃないかな」

「えぇ・・・・・・」

 オウムが不服そうな声を上げた。しかし、ある程度の納得はしたらしく、ポテポテと下へと降りてきた。いかにも不承不承といった様子で、首を右に左に傾けている。

「でも、あの椅子はさぁ、脇役だよ。絶対に脇役。よくて主人公の恋人とか親友くらいじゃない?」

 私の眼前に降りては来たが、背後の椅子に座るのは、やはり主役っぽくないから嫌らしい。オウムのこのこだわりは筋金入りだ。一斉電子授業でも「主役っぽいから」といって、電子教師の机を乗っ取ろうとした実績がある。


「・・・・・・それじゃあ、この席を挟んで左右にある机は? ちょうど、向かい合ってるし」

 私は自分たちの左右に置かれた机に目をやった。少なくとも、眼前にそびえ立つ机とこの罪人席でのディベートよりは見目が良いはずだ。少なくとも、一方的にも断罪的にも見えないだろう。


「うん、わかった。じゃあ、左が石英ね」

 途端にオウムが左右の指定をしてきた。

「左右になにかあるの?」

「マンガだと、主人公は右だからね」

「そうだっけ?」

「そうだよぉ」

 よく分からないが、そうらしい。オウムはさっさと右の方へ行ってしまったので、私も大人しく左の机に移動することにした。私の方は別に左右の拘りはないので別に構わない。だが、左右にも主役悪役があるものなのだろうか。謎である。


 カンカン、と大きな音が聞こえて、身体が跳ねた。


「静粛に」

「でも、まだ何も喋ってないじゃないか!」

 投げられた言葉に反射的に答えたが、そもそも、席についてもいない。

 振り返って確認してみると、席に着いたオウムが小さな木槌を打ち付けた音だったらしい。こちらの机にはないので、もしかすると向こうの机にだけあるアイテムだったのだろうか。私はムッとしましたというエフェクトを飛ばしながら、席に着く。


「いいから、いいから。それじゃあ、雌雄決定権について」

「性別決定権だよ。人間に対して、雌雄を使うのは差別的表現だって言われてるからね」

「はいはい、じゃあ、性別決定権についての議論を行います」

 オウムがその羽毛に覆われた胸をはった。どうやら、偉そうにしたい気分らしい。裁判所の空気にあてられたのだろうか。


「まず、性別決定権について、石英くんはどう思うかね」

 偉そうなオウムがついに私にくん付けなんてしてきた。

「・・・・・・えぇっと、人類に与えられた当然の権利だと思います」

 これではディベートというよりも講義にならないだろうか。そうは思ったが、まぁ、最初の掴みはこういうものなのかもしれない。私だって、ディベートとはこういうモノだ、なんて言えるほどの回数をこなしたわけではないのだ。

「SRY遺伝子を操作することによって、生まれながらに性別を固定される、という不自由を取り除くことに成功し・・・・・・成功したのは何世紀前だっけ?」

 私は続けようとした言葉を一旦止める。何百年前からか、完全に頭から抜けてしまった。集めていた資料を手元に表示するが、まずどの資料に記載されていたのか、思い出すことから始めなくてはいけない。こんなに沢山資料を集めるんじゃなかった。もう、この場で検索した方が早いだろうか。

「じゃあ、ここでは百年ってことにしておこっか」

「それ、オウムも覚えてないんでしょ」

「いいから、いいから」

 オウムが再び木槌を叩く。誤魔化されてしまったが、オウムも覚えていないに違いない。いや、場所のレンタルだって時間制限がある。それならば、今は細かいことを気にするよりも、自分たちの考えを纏める方がいいだろう。


「元々、この技術は中国で生まれたものです。えーっと・・・・・・性別差別・・・・・・いや、男女差別か・・・・・・そう呼ばれる性別による社会的格差、そして、出生時性別と性自認が違うなどの問題。その解消として、そもそも出生時の性別を無くしてしまおう、というのがこの研究の目的でした」

 資料を検索し、開く。ここら辺はディベートに使おうと思って、軽く纏めておいたのだ。しかし、まだしっかりと目を通したわけではないし、資料によって言っていることが真逆になるので、もう少し詰めなくてはいけないだろう。

「当時は・・・・・・えーっと、性別をなくすことに倫理だっけな、いや、宗教? うん、そういう問題があって、他の国では研究できない禁忌めいたものだったので、他国の研究者たちが中国に集まって研究していたらしいね」

「禁忌?」

 正面からオウムの不思議そうな声が挙がる。

「禁忌」

「でも、今は皆性別なんてないのが、当然だよね?」

「今はね」

「そもそも、自分の性別を自分で選べないなんて、科学的生物の姿じゃないでしょ」

 オウムが全くもって理解できない、というエフェクトを何個も飛ばす。

 私の講義に飽きてきたのかもしれない。

「今はそういう考えの人が多いだろうね」

「むしろ、そう考えない人間はさぁ、古代的というか、思想が偏ってるよねぇ」

「うん、まぁ、それは、今だからね。時代だよ、時代」

 どうやら、古代の考えがオウムにはどうも納得できないらしい。まぁ、人間の常識──特に道徳や倫理というのは時代によって、大きく異なるものだ。今の私たちの常識だって、数年経てば非道徳的で倫理のないものに変わるだろう。人類の歴史というのは、そういう積み重ねでできている。

「そもそも、自然界では雌雄異体の生物の方が多数だからね。人間だって元々そうだった。だから、そこからの進化を恐れる個体もいた、ってだけだよ。

 そもそも、性別を自身で選ぶのが科学的生物なら、雌雄同体のミミズとカタツムリも、単為生殖するミジンコなんかも他の生物より科学的になっちゃうでしょ」

「そこはまた違うでしょ」

「違わないよ。しかもプラナリアにいたっては、人類が無性になる前から無性生殖してるんだよ? オウムの理論でいくと、人類はプラナリアの科学に未来永劫勝つことはできなくなるじゃないか」


「・・・・・・それじゃあさぁ~」

 オウムがじっとりとした瞳で私を見る。

「石英は人類が雌雄異体のまま、前時代的な方がよかったって、思っているってこと?」

 不平不満、それをたっぷりと詰め込んだ声色だった。

「いや、そうは言ってないでしょ」

「言ってるしぃ」

「言ってないってば。当時は反発があったって言ってるだけ」

「でも、言い方が出生時性別決定過激派みたいだったもぉん」

「違うってば。当時の考え方の説明をしているだけだってば」

 まさか調べたことをそのまま伝えただけで、過激思考の人間扱いされるとは心外である。私も自分の顔に不服の色が滲むのが分かった。

 正直、まだまだ、言いたいことも反論もある。しかし、これ以上の言い争いをすれば、それこそディベートの時間がなくなってしまうだろう。私は喉まで出かかっていた言葉を飲み込んだ。


「・・・・・・え~、つまり・・・・・・人類は性別を自分で決められる自由を得て、性差による不自由と差別的思想からは徐々に解放されつつあります、ということだよ」

 話を纏めて、両手をオウムに向けて上げてみせる。降参のポーズである。そして、これ以上の言い争いを止めようという提案のポーズだ。


「・・・・・・そもそも、男女ってそんなに違うものなの?」

 オウムもこれ以上は私と言い争う気はないらしい。いや、そもそも、オウムの方は言い争っているというよりも、ただ私に疑問をぶつけている、というだけだったのかもしれない。

「生物学的には生殖機能に染色体にホルモン分泌かな。それによって、身体的な特徴も変わってくるらしいよ」

「ふぅん?」

 オウムの返事は納得とは真逆の色を帯びていた。まぁ、当たり前か。こんな単語を並べられても、性別というものがない私たちには実感が湧かないのである。

「女性の方が脳漿が大きく、脂肪が付きやすい。そして、男性の方が身体的に筋肉が付きやすくて、力が強かったみたいだね。骨盤の形も違うらしい」

 私は古い資料を引っ張り出す。かなり古いデータだ。それこそ、出生時から性別が決められていた頃のものである。その頃のものは、当然のように出生時性別でデータが分けられていた。

 性別が生まれた頃から定まっていて、変わらない。それは一体どういうモノなのだろうか。私には想像もできない世界の話である。まるで、異世界みたいだ。


「同じ人間なのに、性別によって違うなんて変なの」

「人類以外も、だいたいの生物は男女差があるみたいだよ。動物も植物もね」

「はぇ~」

 オウムの首が右、左と動かされる。そして、その首を真っ直ぐに戻すと、今度はその瞳が裁判所内の探索を始めた。どうやら、もう性別の話には飽きてしまったらしい。


「・・・・・・というか、なんでわざわざ性別なんて、決めなければいけないの? 別にないままでよくない?」

 飽きたオウムが身も蓋もないことを言い始めた。

「今度のは『性別決定と、それぞれの性別を選んだことによるメリット・デメリット』に関する通信ディベートだからね。性別を決めたらどうなるか、って前提のディベートだよ」

「いやいや、ここまでくると、性別を決定することの方がデメリット多いでしょ」

 オウムがついに席を立ち、並んでいる椅子の群へと突撃しに行ってしまった。完全に飽きている。

「逆にさぁ、物語の冒頭、この席で罪人の疑いをかけられた家族や恋人を見るっていうのは、主人公じゃない? 私主人公するから、石英は罪人席に立ってみてよ」

 仕舞いには、ピョンピョンと飛び跳ね、椅子の群の中でどこがもっとも主人公っぽい席かを吟味し始めた。ここまでくるともうディベートは再開できそうにない。


「・・・・・・まぁ、つまり、私たちの結論は、男女どちらかに性別を決定しない方がいい、と言うことでいいかな」


「そうそう! ほら、今はそういう、性別を決定しない権利ってやつが、SNSで話題になってたよねぇ。それだよ、それ」

 オウムが私の言葉に大げさに同意した。きっと、これ以上のディベートをしたくないだけだろう。だが、確かに、そういう主張も聞いたことがある。性別を無くしたことによる弊害だ、なんて専門家が嘆いていたんだっけ。

 だが、今更である。

 遺伝子操作とカプセルで生まれる私たちには、きっともう性別なんてものはいらないのだろう。


「そういえば、雌雄交配で誕生し続けていた純粋な人類ってやつは、もう滅んでしまったらしいよ」

「へぇ、そうなんだぁ」

 やはり、オウムは興味なさげに返事をした。これは、もう本当に聞いているのかも怪しいものである。


 まぁ、いい。

 私たちには純粋な人類の滅亡なんかよりも、次のディベートの方がずっと大切なのだ。



もともとSFも好きなんですけど、ポストアポカリプスもここだと聞いて「え、めちゃくちゃ好きです!!!!」となりました

人類文明の崩壊はいいぞ

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