58 教えを乞う者
表の世界に戻ってきた、その夜。
カイは自宅の机に座り、王都に侵入した際にどう動くべきかを考えていた。
(始まりの才・勅止)
カイの頭に、オシオの声とともに、ミレナが吊るされている光景が浮かぶ。
――オシオのあの能力......。空中で静止をして、一切動けなくなった。触れられたのがいけなかったのか。あれをやられると、どうしようもない。ただ、しばらくして体が動くようになったことを考えると、きっと効果が永続的に続くわけではないのだろう。
カイは頭を抱えている。
――ただ、シャーデンとネイフが玉座の間に戻ってきていた。リナとステルンがシャーデンと、タツとティズがネイフと戦っていたはずだ。二人が戻っていたということは、全員やられたということだ。まずは、助けにいくべきなのか......。
そんなには時間をかけてられない。そうすると、方法は一つしかない。
すべてを一瞬で片づけられるほどの力。
「レオン、いるんだろう?」
レオンがふっと布団の上で横になって現れる。
(この布団、気持ちいいな。さすが表の世界だ)
「そんなことは、今どうだっていいんだ。もっと力が欲しい。どうすればいい?」
(そんなの簡単だろ? もっと戦え。それで強くなる)
カイは小さくため息を吐く。
「そんなことはわかってる。ただ、オシオの力を見ただろ? あの力に、スピード。すべてを俺を凌駕していたのは、一目見ただけでわかる。それにシャーデンとネイフもどうにかしないといけない。あれを相手にするんだ。どれだけ時間がかかるっていうんだ」
(お前は簡単じゃないか。何度も廻ればいいんだ。そうすれば、いつか勝てるさ。嫌なら勝て。嫌でも勝て。結論は同じだ)
「もうそんなに廻りたくないのは、レオンもわかるだろ? 教えてくれ、レオンはどうやって強くなったんだ?」
レオンは一瞬の静寂の後、体を起こして、カイの目を見据える。
(才を教えられる奴を見つけるんだ)
カイも真剣なまなざしで答える。
「教えられる奴? 師匠のような人のことか。レオンにも師匠がいたのか?」
(ああ、いたさ。もう死んでるけどな。元々俺は強かったが、師匠から教わることによって、俺は何倍にもさらに強くなった。教わる人によって、世界が変わる)
カイとレオンの間に静寂が流れる。夏にしては、開けた窓から涼しい風が流れる。静寂の中に差し込む月明りがカイとレオンの横顔を照らしていた。
*
月日が過ぎ、カイはいつも通り、裏の世界に来ていた。
カイは、今、ウラルフにいる。
いつも通り、リナからウラルフの話を聞いた後、リナに連れられて、町に出た。
――この後、町の中のお店を周り、リナからレオンのメモリスを受け取った後、旧都ノクシアに向かうことになる。師匠と言われても、誰に頼めばいいのか......。
自分の背丈ほどある剣を持っている、ローブを被った男とすれ違う。顔が一瞬だけ見えた。
鳥肌が走る。
カイは咄嗟に足を止めて、振り返る。
今までも何度もすれ違っていたが、今回は違う。
わかる、その男の顔を。
なぜなら、一度会っているから。
「なんで、お前がここにいるんだ?」
ローブをかぶった男は歩みを止めて、振り返る。
今度は顔がはっきりと見える。ローブの隙間から、白く染まった肩まで伸びた髪が覗く。
「驚いたな。こんな場所で私を知っている人と会うなんて。私を知っているのか?」
「確か、オウゾだったな。王都の貧困区画で会ったことがある」
オウゾとカイとの間で、互いに探りを入れるかのような一陣の風が流れる。
オウゾは、少し目を見開いた後、すべてを理解したかのような笑みを浮かべる。
「君は、あれか。そうか。いよいよ、私にもツキが廻ってきたようだな」




