55 オシオの力
カイとアイラは苦戦をしていた。
赤き城の最上階にある玉座を目指して、カイとアイラは階段を上っていたが、各階ごとに炎諏佐の兵士が待ち構えていた。
1階での戦闘が各階に伝わったのか、皆戦闘態勢で準備をして待ち構えている。
カイが倒したヴァースほどの強さとまでは言わなかったが、それなりの強さを皆持っていた。しかもそれが複数同時に攻めてくるため、それなりに対処に時間がかかった。
――くそっ。ここまで時間がかかるとは思わなかった。アイラも相当疲弊しているように見える。このままじゃ、オシオのもとに辿り着く前に体力がなくなってしまう。
階下から炎諏佐の増援が幸い来ることはなかった。タツ達の陽動が効いているのかもしれない。
「アイラ、大丈夫か?」
カイは目の前の炎諏佐の兵士を倒して、アイラに話しかけた。
「なんとか......。ただ、お腹が空いて、もう限界が近いわ」
アイラはふっと笑みを浮かべたが、その足は少し震えているように見える。
「このまま、上に行くことができたとして、オシオに勝てるんだろうか? それに、もしシャーデンやネイフが玉座に勢ぞろいしていたら、さすがに無理だな......」
「ええ、その時は一目散に逃げましょう。それに、オシオは名ばかりの王ではないの。もしかしたら、この国で一番強いかもしれない存在よ」
カイは進もうとしていた足を思わず止めた。
「そうなのか......。てっきり王は前線に出るわけじゃないから、そこまで強くないって思っていた」
「何言っているの? ここは炎諏佐の国よ。私は一度だけオシオが戦っているのをこの目で見たことがあるわ。何をしたのかわからなかったけど、気が付けば、あいつの周りは死体の山になっていたわ」
「それは困ったな......。でも、今は前に進むしかない。みんなきっと今頃戦っているだろうから」
カイの言葉にアイラが頷く。
(おい、カイ)
レオンの声が頭の中で響く。
「なんだ、こんなところで。今それどころではないのは分かるだろ?」
カイはアイラに聞こえないような声で答える。
(オシオはまだお前には早い。無理せず、逃げろ)
「なんだ、それは? そんなことできるわけないだろ? みんな戦っているんだ」
カイの返事にレオンの深いため息だけが聞こえる。
カイはレオンの言葉を振り切るように、階段を上がった。
すると、今までと違って、階段の先には、豪華な装飾が施された扉があった。一つ一つの装飾には、オシオの顔が描かれており、まさにここが玉座であると言わんばかりの構図をしていた。
「間違いなく、ここだな」
「ええ、そうね。慎重にいきましょう」
カイは扉をゆっくりと押し開けた。
カイの想像通り、長い広間の先には玉座が置かれ、そこにはオシオが座っていた。ここだけ熱が一段下がっているかのような固い空気が流れている。
ただ、一つ全く想像をしていないことがあった。
それは、ミレナが両手を縛られて、吊るされていたことだ。
ミレナは、意識を失っているのか、目を閉じ、ぐったりしている。
ただ、かすかに息はある。
呼吸の揺れに合わせて、縄がぎしぎしとしなる音が広がる。
「ミレナ!」
カイは喉を傷めるほどの声が無意識に出る。
そして、カイは駆け寄ろうとしたところで、オシオの低い声が聞こえてくる。
「......とまれ」
カイは心臓に響くほどの威圧的な声に、思わず足を止める。
そして、オシオを見る。
オシオの体の周りからは、覇気のようなものがあるのかと錯覚するぐらい、空間がゆがんで見える。
隣にいるアイラもその威圧を感じ取っているのか、拳を強く握りしめている。
――くっ......。
「なんで、ここにミレナがいるんだ!?」
カイは声を振り絞る。
「ほぅ。時織を知っているのか。そうすると、お前だな。ノクシアで時織を探していたというやつは」
「だったら、なんだ? ミレナに何をしている!?」
オシオが玉座からゆっくり立ち上がる。その速度は決して早くはなかったが、その一挙手一投足に注目をしてしまう。
「私はずっと探していたんだ、時織を。時織は過去と未来を見通す力がある。その力があれば、私は時を閉じ込めることができる。そう、永遠の時を得られるのだ」
「さっきから何を言っているんだ? ミレナがお前なんかに協力なんかするわけはないだろう?」
「フハハハハハ!」オシオが突然、高らかに笑いだす。「協力なんてしてもらう必要はない。こうすればいいんだ」
オシオはそう言うと、おもむろに右手を掲げて、力を込める。
すると、オシオの右手が闇に包まれる。
――何をしているのか、分からない。ただ、間違いない。絶対に良くないことが起こる。
カイは瞬時に駆け出した。風を置き去りにするように。
「遅い」
言葉が聞こえた瞬間、視界が揺れた。
カイの頭がオシオの左手に掴まれている。
――いつ来た? いつ掴んだ。分からない。
カイの理解が追いつく前に、首の骨が軋む。
そして、カイの体が浮く。
足が床から離れ、肺が潰れる。息が漏れない。
オシオの腕は、軽く持ち上げているだけなのに、抗えない。
「始まりの才・勅止」
オシオがそう言うと、カイの頭からオシオの手が離れる。
しかし......、落ちない。
オシオはカイの頭から手を放したが、カイは空中で静止したままになる。
――体が......、動かない。
カイは必死に体を動かそうと脳で命令するが、指先一つ動かない。
「カイ!」
アイラの声が聞こえる。
しかし、カイは口すら動かすことができない。息もできない。
「そこで見ておくといい。今から私がすることを」
オシオは吊るされたミレナに一歩近づいた。
光が揺れ、ミレナを繋ぐ縄がぎしりと鳴る。




