53 貧困区画・管理塔
タツはティズとともに貧困区画に残った。
「なあ、ここでいいんだよな?」
返事はない。ただ、ティズは目で答える。目の奥の光が、肯定に揺れた。
タツの正面には管理塔。区画の建物が低い分、それだけが壁と同じほどにそびえて見える。
「侵攻の合図は……、魚が降ってきたら、でいいんだよな?」
肯定。
「住民をひとまとめにするのは、オウゾさん達に任せて、俺様達は、カイたちのところに敵が行かないように、俺が大暴れすりゃいい……」
ティズが再度、肯定の目をする。
そのとき、雨が落ちた。次いで......、魚が降ってきた。
「開始の合図だ! よっしゃあ! やるぞ!!」
タツは斧を握りしめる。自分と同じ大きさの、荒々しい武器。剣はどうにも肌に合わなかった。
ローブを脱ぎ捨て、管理塔の正面へ駆ける。
――正面の兵は2人か。
気づいた兵が叫ぶ。
「止まれ!」
止まるわけがない。
二人の間へ踏み込み、斧を叩き落とす。
地面がひび割れ、衝撃が弾けた。兵の身体が浮き、壁へ叩きつけられる。血を吐き、沈黙する。
タツは扉を蹴るように開いた。中には5人の兵。椅子に腰掛け談笑していた顔が、一斉に凍る。
奥の男が立ち上がる。ひと回り大きい体躯、ここを任された隊長だ。
「何者だ? ここに来るってことは……覚悟はできているんだな?」
「当たり前だ! かかってこい!」
タツが斧を構える。隊長も剣を取って構えた。
――こいつは、さっきの連中とは違う。
全身に力が満ちる。体温が跳ね上がり、湯気が噴き、鱗が赤く染まる。
「焔鱗族か。同胞を助けに来たつもりか? だが、お前も同じ運命だ。ここで一生を終えろ」
隊長が踏み込んだ。
剣が落ちる。
ガチン!
斧が受け止める。重い。腕が震えるほどの圧。
「力勝負か! おもしれぇ!」
タツは踏み返し、さらに押す。鱗の赤が強く光る。
「何……、その力は……!」
「おりゃぁぁぁ!!」
剣を弾き、回転の遠心力で斧を振り上げる。
下から上へ。
腹から胸へ、一直線に裂けた。血が噴き、隊長の膝が崩れる。
周りの兵も武器を構えるが、手が震えていた。
「まさか……隊長が……」
その刹那、風が抜けた。
気づけば、兵の輪の中にティズが立っている。
赤い線が空に浮いたように見え、次の瞬間、4人が同時に崩れ落ちた。
ティズは、刀を鞘に納めるところだった。
「おお……、ティズもすげえな! カイと同じくらい速いんじゃねえか? しかも刀って珍しいな!」
ティズは目を伏せ、謙遜の色を宿す。
「よし、このまま上だ!」
タツは階段の先を見た。
――上にいる。とんでもなく強い気配が。それでも、関係ねぇ!
タツとティズは、階段を駆け上がった。途中、兵士が何度となくその足を阻んだが、2人は瞬時に対処をして、先を進んだ。
そして、最上階に辿り着く。
この先から発せられる気配に、タツは無意識的に体を強張らせる。
「よし! 開けるぞ!」
タツはそう言って、両開きの扉を両手で開ける。
闘技場のような何もない広間に、1人の大柄の男が立っていた。これまで会ってきた兵士の中でもひと際大きい。そして、特徴がもう一つ......。
その男の顔は、焔鱗族のそれだった。
「来たな。我が同胞よ」
「なんだ、お前! お前がネイフか! お前、俺様達と同じじゃないか? なんでこんなところにいるんだ?」
「そうだ、俺がネイフ。俺はオシオ王に仕えているだけのこと。信じるものが違う。それだけの差だ」
「ここには、焔鱗族が沢山いたじゃないか? なんとも思わないのか?」
ネイフはふふっと笑う。
「なんとも思わん。むしろ、焔鱗族の血は俺だけで十分。最近は弱いやつらばかり。フラガルトの連中もそうだ。ウラルフを制圧したまではいいが、それ以上、攻めても来やしない。そんな弱いやつらに用はない」
ネイフは拳を強く握り、話を続ける。
「それに、お前は、混じりだろ? 焔鱗族と始原族の血が混じっている。そんなお前に、俺様の考えは分からないさ」
「ごちゃごちゃうるせぇ! 血が関係するか! さあ、白黒は戦いで決めるぞ!」
タツは斧を構える。ティズも腰に携えた刀に手をかける。
「ふはは。それでこそ、戦いで示す、焔鱗族の血だ」
ネイフは床に転がっていた、金属製の鎖を手に取った。3メートルほどの鎖の先を見ると、船で使うイカリが取り付けられている。
碇が持ち上がるだけで床が鳴る。
――あれで戦うつもりなのか? まあ、あまり考えても仕方がない!
「先手必勝!!!」
タツは体に力を込めて、一気に鱗を赤く光らせた。




