52 脈打つ配管
「……大暴れの時間だ」
カイがそう言った瞬間だった。
城内を走る赤い配管が、心臓みたいに脈打って明滅する。
カン、カン――。
どこかで金属が鳴った。いや、鳴らされた。
「来るぞ!」
ステルンが耳を伏せた。次の瞬間、曲がり角から灰をまとった兵士が3人、槍を構えて現れた。
甲冑の赤が、配管の熱に照らされて光っているようにみえる。
「侵入者だ。通報!」
先頭の兵が叫ぶ前に、槍の石突を配管へ振り下ろした。
「させるか!」
「始まりの才・初刻」
世界が、止まる。
槍先が配管に触れる寸前で固まり、赤い光の走りも凍りついた。
「今!」
カイが一歩踏み込む。ドラグノートの切っ先が、止まった兵の喉元に吸い込まれる。
ついでに短剣リヴェルナが脇腹を裂き、二人目の槍を握る手を落とした。
そして、時が動き出す。
兵士の目が見開かれ、声にならない息が漏れる。
――まだだ。もう一人。
最後の兵が反射で笛を掴む。
「......水よ、喉を塞げ―泡沫陣」
アイラが手を振ると、空気中の水気が一瞬で集まり、兵の口元に薄い水膜が貼り付いた。
声も笛も、湿った音になって潰れる。
「ツッ!?」
兵がもがく。だが、その足元に小さな影が滑り込んだ。
「俺っちもいるの忘れるな!」
ステルンは一瞬で巨大化し、床の継ぎ目を蹴る。
板が外れ、兵の片足が穴に落ちた。体勢が崩れた一瞬に、カイが柄で顎を打ち抜く。
兵は倒れて、沈黙する。
赤い配管の脈動が、ゆっくり落ち着いていく。
カイは息を吐き、視線を走らせた。
「……今の音、他にも伝わったか?」
「少しだけ。でも、まだ警報じゃないと思います。巡回が寄る程度かと」
リナが即答する。顔色は変えないが、声が速い。
「ここで長引けば終わりだ。予定通り分かれるぞ!」
「地下は私とステルンでいきます。上はカイさんとアイラお願いします!」
ステルンがぴょんとリナの肩へ戻る。
「この先、曲がって二つ目の分岐。左が下、右が上だ。迷うなよ!」
「迷わねえよ」
カイはアイラと目を合わせ、頷いた。
赤い配管の呼吸が、また少し速くなる。
――上からも、下からも、それぞれすごい力を感じる。次は、もっと大きいのが来る。




