50 隠れ家にいる男
カイは、ステルンの案内で、ステルン達の仲間の隠れ家に入った。
隠れ家は、王都フレメルナに侵入した時と同様に、地下にあり、階段を降りると、目の前にはひらけた空間が広がっていた。
そして、ステルンと同じハム族が5人、いや、5匹いる。
その中心には一人の男が椅子に座っていた。
その男は50代後半の老け込んだ顔をしており、白く染まった髪は肩まで伸びていた。身なりも到底お世辞にも綺麗とは言えない継ぎ接ぎだらけの服をまとっている。
――誰かに少し雰囲気が似ているような......。
そして、一目見てわかる。こいつはかなり強い。座ったまままだが、寸分の隙も感じない。
「ようやく、来たな」
その男はカイたちを見るなり、低い声で話しかけてきた。
ステルンが即座に反応する。
「お前、誰だ? その席は俺っちが座る場所だぞ!」
「君がステルンくんだね。いや、すまない。ここは借りているだけに過ぎない。すぐにどくさ」男は淡々と話を続ける。「私は、オウゾ。君たちの味方だ」
オウゾの隣にいたハム族が短い手を挙げる。
「勇者ステルン様、お待ちしておりました。この方は我々を実験区画から救ってくれた恩人です。その後も色々協力をしてくれています。だから、ご安心を!」
「そうだったのか。それは失礼した。俺っちの仲間を助けてくれて、感謝する」
オウゾは右手を上げる。右手は傷だらけだった。
「いいんだ。この世界ではまずは疑うのは当然だ。私は、君たちに力を貸し、オシオを止めてほしいんだ」
「なんで止めてほしいんだ?」
カイの声にはまだ疑いが混じっている。
「私は元奴隷でね。王立区画でこき使われていた。それが今は貧困区画に捨てられて、このざまだ。だが、私の仲間はまだ王立区画で酷い目にあっている。だから、オシオを倒し、仲間を救いたいんだ」
「なるほど。それで、オウゾはどうやって力を貸してくれるんだ?」
「情報を渡そう。まずは、今の警備体制についてだ」
オウゾは、今の王都フレメルナの状態を詳細に説明してくれた。
貧困区画には、約50人ほどの人が生活をしている。ここを管理しているのが暦永軍のシャーデン。シャーデンは管理塔で、常に住民を監視している。
王立区画には、約100人ほどの人がいる。その多くは王や軍の関係者で、奴隷として使われている者も30人ほどいるとのことだ。そして、ここを管理しているのが、暁焔軍のネイフ。ネイフはどこかに留まることなく、落ち着きなく常に動き回っているとのことであった。
そして、王立区画のさらに奥に赤き城があり、そこには、実験区画があるとともに、オシオがいる。
「それぞれの場所には猛者がいるってことだな! 楽しみだ!」
タツの空気を読まない発言に、一瞬の沈黙が落ちた。
オウゾは気にせず続ける。
「それぞれの区画は高い壁に阻まれており、検問を通るしかない。ただ、貧困区画から王立区画に行く分には、お前たちならそこまで問題はない」
「どういう意味だ?」
カイの質問を聞いて、オウゾは左手の甲を見せた。甲には円の中にバツ印が描かれた焼き印が付いている。
「これは奴隷の象徴だ。検問では左手の甲を示す。この焼き印が付いていなければ、何も言わずに王立区画までは入れるはずだ」
カイは意図を理解して、質問を続ける。
「なるほど。焼き印のない俺たちなら、簡単に王立区画に入れるということだな。赤き城はどうやって入る?」
「赤き城は警備が厳重だ。ただ、明日はちょうど建国記念日だ。盛大に式典が開かれる。その混乱に乗じてなら赤き城に入れるはずだ」
カイの顔が曇る。
「あまり具体的ではないな。混乱って言っても、そんな都合よくいくのか?」
オウゾはその質問を待っていたかのように、笑みを浮かべて答える。ただ、その笑顔に心はない。カイはその不気味な笑顔に底知れぬ恐怖を抱く。
「明日は、例の雨が降る日なんだ」
カイ以外は、オウゾの言葉の意味を察したのか、はっとした表情をしている。
――例の雨? それがなんだって言うんだ?
リナが少し興奮したように答える。
「明日は魚降りなんですね。空から、雨とともに魚が降る日......。たしかに、それが突然起これば、混乱が生じるでしょう。でも、なんでそれがわかるんですか?」
「私の専門は元々空門学でね。潮の動きでわかるんだ。まさかここに来てそんな知識が役に立つとは思わなかったよ」
――空から魚......? 何を言ってる?
ただ、たしかに、空には海が広がっている。そこから魚が落ちてくるというのか。
――この目で見るまでは信じられないが、ただ、これで一つわかったことがある。黒の湖で、アイラがクジラを知っていたことだ。海にいるクジラをどうやってアイラが認識したのか、ずっと疑問だった。ただ、時に、空から魚が降ってくるのであれば、アイラが、海の生き物を知っていたとしても、おかしくはない。クジラが降ってきた日には大パニックだろうが......。
「一応、筋が通っているから、理解はした。そうすると、決行は明日ということだな」
オウゾはカイの目をしっかりに見て、頷く。
「ああ、私ができるのはこれくらいだ。頼んだぞ、炎諏佐の勇者たちよ。この国を救ってくれ」




