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白いワンピースの少女に連れられたそこは、サカサマの世界。時渡りの運命に導かれて、同じ時間を繰り返し廻り続けることに......。  作者: 蒼生芳春
第2部

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53/62

50 隠れ家にいる男

 カイは、ステルンの案内で、ステルン達の仲間の隠れ家に入った。

 隠れ家は、王都フレメルナに侵入した時と同様に、地下にあり、階段を降りると、目の前にはひらけた空間が広がっていた。


 そして、ステルンと同じハム族が5人、いや、5匹いる。

 その中心には一人の男が椅子に座っていた。

 

 その男は50代後半の老け込んだ顔をしており、白く染まった髪は肩まで伸びていた。身なりも到底お世辞にも綺麗とは言えない継ぎ接ぎ(つぎはぎ)だらけの服をまとっている。


――誰かに少し雰囲気が似ているような......。

そして、一目見てわかる。こいつはかなり強い。座ったまままだが、寸分の隙も感じない。

 

「ようやく、来たな」


 その男はカイたちを見るなり、低い声で話しかけてきた。

 ステルンが即座に反応する。


「お前、誰だ? その席は俺っちが座る場所だぞ!」


「君がステルンくんだね。いや、すまない。ここは借りているだけに過ぎない。すぐにどくさ」男は淡々と話を続ける。「私は、オウゾ。君たちの味方だ」


 オウゾの隣にいたハム族が短い手を挙げる。


「勇者ステルン様、お待ちしておりました。この方は我々を実験区画から救ってくれた恩人です。その後も色々協力をしてくれています。だから、ご安心を!」


「そうだったのか。それは失礼した。俺っちの仲間を助けてくれて、感謝する」


 オウゾは右手を上げる。右手は傷だらけだった。


「いいんだ。この世界ではまずは疑うのは当然だ。私は、君たちに力を貸し、オシオを止めてほしいんだ」


「なんで止めてほしいんだ?」


 カイの声にはまだ疑いが混じっている。


「私は元奴隷でね。王立区画でこき使われていた。それが今は貧困区画に捨てられて、このざまだ。だが、私の仲間はまだ王立区画で酷い目にあっている。だから、オシオを倒し、仲間を救いたいんだ」


「なるほど。それで、オウゾはどうやって力を貸してくれるんだ?」


「情報を渡そう。まずは、今の警備体制についてだ」


 オウゾは、今の王都フレメルナの状態を詳細に説明してくれた。


 貧困区画には、約50人ほどの人が生活をしている。ここを管理しているのが暦永軍(れきえいぐん)のシャーデン。シャーデンは管理塔で、常に住民を監視している。


 王立区画には、約100人ほどの人がいる。その多くは王や軍の関係者で、奴隷として使われている者も30人ほどいるとのことだ。そして、ここを管理しているのが、暁焔軍(ぎょうえんぐん)のネイフ。ネイフはどこかに留まることなく、落ち着きなく常に動き回っているとのことであった。


 そして、王立区画のさらに奥に赤き城があり、そこには、実験区画があるとともに、オシオがいる。


「それぞれの場所には猛者がいるってことだな! 楽しみだ!」


 タツの空気を読まない発言に、一瞬の沈黙が落ちた。


 オウゾは気にせず続ける。

「それぞれの区画は高い壁に阻まれており、検問を通るしかない。ただ、貧困区画から王立区画に行く分には、お前たちならそこまで問題はない」


「どういう意味だ?」


 カイの質問を聞いて、オウゾは左手の甲を見せた。甲には円の中にバツ印が描かれた焼き印が付いている。


「これは奴隷の象徴だ。検問では左手の甲を示す。この焼き印が付いていなければ、何も言わずに王立区画までは入れるはずだ」 


 カイは意図を理解して、質問を続ける。


「なるほど。焼き印のない俺たちなら、簡単に王立区画に入れるということだな。赤き城はどうやって入る?」


「赤き城は警備が厳重だ。ただ、明日はちょうど建国記念日だ。盛大に式典が開かれる。その混乱に乗じてなら赤き城に入れるはずだ」


 カイの顔が曇る。

「あまり具体的ではないな。混乱って言っても、そんな都合よくいくのか?」


 オウゾはその質問を待っていたかのように、笑みを浮かべて答える。ただ、その笑顔に心はない。カイはその不気味な笑顔に底知れぬ恐怖を抱く。


「明日は、例の雨が降る日なんだ」


 カイ以外は、オウゾの言葉の意味を察したのか、はっとした表情をしている。


――例の雨? それがなんだって言うんだ? 


 リナが少し興奮したように答える。


「明日は魚降り(うおふり)なんですね。空から、雨とともに魚が降る日......。たしかに、それが突然起これば、混乱が生じるでしょう。でも、なんでそれがわかるんですか?」


「私の専門は元々空門学でね。潮の動きでわかるんだ。まさかここに来てそんな知識が役に立つとは思わなかったよ」


――空から魚......? 何を言ってる? 

ただ、たしかに、空には海が広がっている。そこから魚が落ちてくるというのか。


――この目で見るまでは信じられないが、ただ、これで一つわかったことがある。黒の湖で、アイラがクジラを知っていたことだ。海にいるクジラをどうやってアイラが認識したのか、ずっと疑問だった。ただ、時に、空から魚が降ってくるのであれば、アイラが、海の生き物を知っていたとしても、おかしくはない。クジラが降ってきた日には大パニックだろうが......。


「一応、筋が通っているから、理解はした。そうすると、決行は明日ということだな」


 オウゾはカイの目をしっかりに見て、頷く。


「ああ、私ができるのはこれくらいだ。頼んだぞ、炎諏佐(えんずさ)の勇者たちよ。この国を救ってくれ」

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