41 出発のとき
カイたちは、ノクシアの出入り口の前に立っていた。
カイ、リナ、タツ、アイラ、ティズ、そして、リナの肩に乗るステルンの6人が並んでいる。
朝日が強く刺し、吹き抜ける風もどこか熱を帯びている。鳥のさえずりも心なしか元気がない。
「皆さんにこれをお渡しします」
リナが一人一人に深緑色のローブを手渡した。
「これは?」
カイが尋ねると、これは、タカマノハラ中を飛び回る極楽蝶の幼虫が分泌する糸を編んで作ったローブで、魔法で編み込むことから、このローブを着ていると、熱さや寒さに耐性が得られるとのことであった。
この先、王都フレメルナは、火山の火口に近づくことになる。どんどん温度が上がっていき、これを着ておかないと、およそ近づける場所ではないとのことであった。
カイは早速ローブに腕を通す。まるで羽毛を着ているかのように軽い。着た瞬間、自分の周りだけ、一気に気温が下がり、ローブの間をすり抜ける風が心地よく、春の野原に包まれるような感覚に陥る。
――これはすごい。全く熱くなくなった。
カイは前方をみる。ちょうど目の前にある火山の火口あたりに王都フレメルナが見える。そこまで距離はない。今からまっすぐに歩いていけば、昼頃には着きそうな距離だ。
ただ、リナによれば、王都フレメルナに行くのは簡単ではないらしい。王都フレメルナは、いわば燃え盛る火山の壁に守られた閉ざされた場所にあり、正規の街道を通るルートは検問ばかりで、警備が厳重になっている今、そこを通っていくことは自殺行為とのことであった。
そのため、正規のルートではなく、裏道を通らなければならない。その場合、最大の難所である「黒の湖」を通らなければならないとのことである。
「黒の湖とは?」
リナによると、水面が光を吸い込むように黒く、近づくほど音が消える場所とのこと。
ここが難所となるのは、この場所には影の子が出るという噂があったからだ。そのため、炎諏佐の兵士はこのあたりに警備を配置しておらず、ここを通ることさえできれば、一番安全に王都フレメルナに行くことができるということだった。
そして、フラガルトの本拠地であるウラルフからフレメルナに行く場合もこの場所を通ることになると聞いて、カイはタイガが言っていた言葉を思い出す。
カイがタイガにウラルフにいる条件を聞いた時、タイガがこう答えた。
(「その条件というのは、我々革命軍フラガルトは炎諏佐の国の王都フレメルナの襲撃の準備をしている。国を取り戻すためにな。ただ、その行く道には、影の子が出るという噂だ。それに狭間の魔物も現れたと報告があった。それで、影の子が見える君の出番というわけだ。見えないと、王都に着く前に全滅だからな。ただ、まだ準備ができていないから、それまでここにいていいというわけだ」)
――なるほど。タイガさんも、この場所を通る時に俺が必要だったということか。そういえば、もうこの条件とやらは、到底果たせそうにないな。
「カイさんがいないと、この黒の湖を通ることはできないでしょうね。影の子が出てきたら、私たちはどうすることもできませんから」
リナはわざとカイに助けを求めるような声をする。
「ああ、そうだね。影の子なら、おそらく大丈夫だ」
カイのその言葉は自身に満ちていた。ただ、それに続けて、カイはリナに疑問を投げかける。
「そういえば、タイガさんが言っていたんだ。狭間の魔物もいるかもしれないって。そもそも、狭間の魔物ってなんだ? まだ会ったことはないけど」
「狭間の魔物は私もまだ会ったことはありません。誰が、いつからそう言い出したのかはわからないんですが、ここ最近出るようになった真っ白な魔物のことです。会ったことのある人の話だと、普通の魔物と比べて、体が数倍ほど大きく、狂暴で、この魔物に食べられると、異界にも行けないと言われています」
――そんな物までいるのか。できれば会いたくないな。
(おい、もう影の子は心配いらないぞ)
突然レオンがカイに話しかける。
カイは誰かに聞かれないように、少し皆と距離を取り、返事をする。
「影の子がこの世界に溢れているのはお前がやったんだな?」
(ああ、そうだ)
「そうすると、お前が影の子を消すこともできるのか?」
(いや、それは無理だ。なぜなら、完全に俺、正確には黒騎士だが、支配下から外れている。だから、消すことも増やすことももうできない。ただ、俺がいれば襲ってくることはないだろう?)
「なるほど。ただ、なんで俺は、影の子を見ることができるんだ?」
(ああ、それは、俺の推測だが......)
「カイ、そろそろ行くよー! 置いていきますよー」
アイラが笑顔を浮かべながら、手を振っている。
カイはレオンとの会話を切り上げて、アイラに返事をして、駆けて行った。




