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反転世界~白いワンピースの少女に連れられたそこは、サカサマの世界。時渡りの運命に導かれて、同じ時間を繰り返し廻り続けることに~  作者: 蒼生芳春
第2部

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40 影の底

 王都フレメルナに侵入する前夜。

 夜も更けていたのもあるが、外は、風も一切吹かず、まるで空気が固定されたように静かだった。

 

 カイは眠れず、宿のベッドで横になって本を読んでいた。この間、王立図書館に置いてある本を部屋に持ち帰り、手当たり次第読んでいる。


 本の多くは、炎諏佐の国の王オシオを讃える伝記のようなものばかりで、そこには、およそ現実に起こったとは思えない出来事ばかりが羅列されていた。そんな中でも、図鑑のような本がたまに存在し、カイにとってはこの世界を知る貴重な資料であった。


 例えば、本には、この世界の種族が記載されていた。


 始原族は、ナギナミという神によって創造された、この世界の始まりの種族であった。ナギナミは、しばらく始原族だけの世界を観察していたが、それだけでは退屈に感じ、他の種族を創造した。

 それが、タツのような焔鱗族、ステルンのようなハム族である。どうやら他にも、月影族、波風族などがいるとのことであった。

 しかし、新たな種族の創造の副産物として、始原族らと対立する存在が生まれた。それが魔族という種族だった。

 

 この世界「タカマノハラ」では、魔族が生まれて以降、始原族と魔族との争いが始まった。始原族が有する始まりの才や天照の民が用いる魔法は、圧倒的な力を持つ魔族に対抗する手段として生まれたものである。

 この争いの過程で、始原族以外の他の種族は、都市を離れて、表舞台からは一線を引くことになった。

 それでも争いは終わらなかった。


 そのような状況を最初は楽しんでいたナギナミであっても、世界が崩壊しつつあることに危惧を感じ、魔族を封印し、魔族はこの世からいなくなった。

 その後は始原族が台頭し、今の3つ国が出来上がった。

 

 カイは本をそっと閉じる。


 そして、ふと、この間ずっと気になっていることを確かめることにする。


「おい、いるんだろう?」


 カイはどこを見るのでもなく、いわば空間全体に話しかける。

 すぐには返事はない。


 少しして、レオンがふっと現れる。椅子に腰かけているが、何も返事がない。カイはレオンに目線を合わせる。


「最近出てこなかったけど、どうしたんだ? 前は事あるごとに出てきただろう?」


(なんでもないさ。ただ、出る気がなかっただけだ)


 レオンの声に覇気がなく、どこか弱弱しい。何かあったに違いないが、なんだ?


「いや、そんなあからさまに元気のない態度をとられてもな。何かあったのかって聞いて欲しいようにしか見えないぞ」


(お前が処理できる問題じゃないんだ。ほっとけ)


「おいおい、そんな言い方はないだろ。レオンは俺の記憶を通じて、分かっているだろ? もう俺とレオンは10年に渡る付き合いなんだ。相談の1つでも、してくれてもいいじゃないか?」


 カイの言葉にレオンが顔を上げて少し反応を示したが、レオンは、カイの顔を見た後、何かを考えているように、俯き気味の目を左右にゆっくり動かす。


 そして、深いため息をつく。

 

 5秒ほどたっただろうか。ようやく、レオンが口を開く。


(わかった。わかったよ。話すさ。ただ、話したところで解決はしないぞ)


「わかってるよ。俺が、解決できるなんて傲慢な考えをもってないさ。ただ、何事も話をすることが解決への第一歩なんだ」


 カイの口調は、少し上ずっていたが、なるべく明るくしようとしているのだろう。


(もうわかっていると思うが、俺はもう死んでる。これまで、俺は死んだ時の記憶がなかったんだ。誰に殺されたのか、どうやって死んだのか。ただ、今回、どうやって死んだかわかったんだ)


 レオンのその言葉を聞いて、カイは記憶を辿る。


 表現は少し不正確だが、ある意味、カイはレオンと行動を共にしている。トイレもお風呂もどんな時もだ。だから、体験した出来事や経験は一緒だし、それが故に記憶も全く一緒である。


「ん? そんな話、聞いたことあったか? 全く記憶にないけど」


(そうだろうな。まあ、いい。見せてやるよ。その方が早いからな)


「見せる? 何をだ?」


 レオンにはさっきまでの躊躇がない。覚悟を決めているのか、カイの言葉を無視して、立ち上がる。


 そして、つぶやく。


(闇の精霊ノクティスよ、力を貸せ)


 レオンのその言葉が発せられた瞬間、レオンが“内側からカイの神経を掴む。そして、次の瞬間、黒い靄が包んだのは、レオンではなくカイの身体だった。そして、カイの視界が一瞬で真っ暗になり、何も見えない。


――なんだ、これは!?


 しかし、見えないのはほんの数秒で、すぐに顔からは黒い靄は取れ、月明りに照らされていた影が伸び、伸びた影から影の騎士が仁王立ちで現れた。


 その騎士はカイやレオンよりも背が高く、2メートルを超えている。鎧を着ているように見えるが、体も鎧もすべて真っ黒で、体には黒い靄が漂っている。そして、腰に長い剣を携えている。

 目も黒く、どこを見ているのかわからなかったが、雰囲気からすると、カイの方を直視しているように見える。

 

「おい、レオン。どうなってる!?」


 カイは思わず声を張り上げる。


(まあ、静かに。お前が見たいって言ったんだ)レオンは口の前で人差し指を立てる。(おい、黒騎士、俺の最期の瞬間をこいつに見せてやれ)


「はっ!」

 レオンをみて、黒騎士の低く、忠誠を誓う声。


 そして、黒騎士は手に持っていた剣を両手で持ち、勢いよく地面に突き刺す。


 すると、地面に先ほどの黒い靄が黒騎士を中心に広がり、カイを飲み込む。


「えっ!!」


 靴底が冷たい液体に触れたような感触。けれど、濡れず、匂いもしない。ただ、重力だけが増えていく。

 カイの足元がゆっくりその影に沈んでいく。思わず足を動かそうとしたが、微動だにしない。音もなく、底なし沼のように、カイの体がどんどん沈んでいく。

 

「おい、レオン!!」


 レオンは笑っている。


(安心しろ。取って喰ったりしないさ)


 カイの顔まで沈みこみ、宿からカイが完全に消え去った。


 カイは顔が沈む際、思わず目をつぶり、息を止めたが、足元が地面に着くような感触があり、目をゆっくり開いた。

 カイは思わず息を飲む。


 そこは、戦場だった。


 燃え盛る建物。

 人間同士の戦う声と音。

 鼻をつくような匂い。


 そんな中にレオンが立ち尽くしていた。涙を流して……。

 よく見ると、レオンの右手には血がべっとりと付いた短剣を持っている。


 そして、レオンの足元には、一人の女の子が倒れている。その女の子の腹部には血の跡がにじんでいる。見るからに生気がない。もう死んでいる。


 カイはその女の子の顔を見て、思わず叫ぶ。


「……シア!!!!!」 

 声が喉を裂く。


 レオンの記憶で見たことがある。レオンの妹のシアだ。カイとレオンの記憶が交錯しているのも影響しているのか、カイの目からも涙があふれる。


――どうしてこんなことに……。


「黒騎士......、いるか……?」


 レオンの声は今にも消えそうなほど細く、そして、震えていた。


 黒騎士が地面から現れ、レオンの前で跪く。


「おります、レオン様」


「黒騎士、最後の命令だ。この世界を影の子で埋め尽くせ。世界中、どこもかしこもだ。世界を恨みで埋め尽くせ」


「はっ!」


 黒騎士は即座に返答をする。


 そして、レオンは、その返事を聞くと、自らの首に短剣を押し当て、力いっぱい引き裂いた。一瞬の躊躇いもなく。


 レオンの首から血が噴き出て、足元のシアを赤く染める。


 レオンは両膝で崩れ落ち、シアの横に倒れ込む。


 シアの右手とレオンの左手が触れる。だが、決して2人の手が握り返されることはなかった。

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