37 作戦会議
カイは作戦会議が行われるノクシアの町の外れにある酒場にいた。
リナに言われたとおり、酒場の店主に、合言葉である「日輪華」と伝えると、裏に通され、そこには円卓が置かれていた。まだ誰も来ていない。
カイは椅子に座る。
壁には窓1つなく、木で彫られた彫刻が壁一面に敷き詰められている。彫刻には戦争を表しているのか、複数の剣士が剣を構えたり、戦っている様子が描かれている。その彫刻は力強さと圧迫感を与え、この部屋の空気に緊張を帯びさせる役割があるかのようだ。
――なんとも密談する場所という感じだ。こんな場所に誰が来るんだ?
「あー、いた!」
突然入り口のドアが開いて、小柄な女の子が部屋に入ってくる。ピンク色の髪は綺麗に左右に2つでまとめられ、整った顔はどこかのアイドルを思わせる。ただ、そんな可愛らしい顔に反して、その身を剣士が身に着けるような銀色の甲冑で包まれ、腰には剣も携えている。
カイが突然の来訪に言葉を失っていると、その女の子はカイの隣に座り、目を輝かせてカイの方を見てくる。
「あなたがカイね! 会いたかったわ」
「ああ、そうだけど……」
カイは勢いに圧倒されて、口ごもる。
「突然、ごめんね。私はアイラ、アイラ・メール。それよりも、注文はもうした?」
カイは、この子が何を言っているのか理解するのに時間がかかった。
「注文?」
「えっ、もしかして、まだしてないの? それじゃあ、早く注文しちゃいましょ。他の人が来たら、決定権が奪われるわ。私は誰にも食べ物の決定権は渡さない主義なの」
アイラはそう言うと、店主を呼び、メニューを受け取ると、瞬時にすべてのページを見たうえで注文をし出した。
「えっと、コムの葉とクル魚のサラダ、ハツカ鳥の丸揚げ、バッグ野菜のスープ、それと、ホロウ牛のステーキ、それと……」
「おいおい、そんなに食べるのか?」
カイが思わず止めに入る。
「もちろんよ。お金は全部リナが出してくれるから心配しないで。なんてたって王女様だからね。それにこのお店には他では見られない料理が沢山あるの。なんせ裏ルートから仕入れている食材だからね」
アイラは再び店主の方を見た。
「あと、ギルガメッシュのコンフュに、デザートに、グーパスのアイス添え。今言ったのを6個ずつ持ってきてくれるかしら?」
――6個ずつ!? ここには何人が集まるんだ? 見たところ、椅子は確かに6脚あるが、椅子が全部埋まるのかわからないし、6人が揃ったとして、みんながこんなに食べるわけがない。
「今日はここに何人来るのか知っているのか?」
「私も知らないわ。私とリナは同じ天照の国の出身で、幼馴染みたいなものだけど、他に誰が来るかまでは聞いてないわ」
「ちょっと待ってくれ。そうすると、今6個ずつ頼んでたけど、当てずっぽうで数を頼んだのか?」
アイラは一瞬きょとんとした後、笑顔になった。
「何言ってるの? 全部私が食べるのよ」
カイがアイラの言ったことをすぐに理解できず、あっけに取られていると、また扉が開いた。
今度は、老練の男が部屋に入ってくる。男は顎髭を生やし、深緑色のローブを身にまとっていた。いかにも魔法使いであると標榜しているような見た目をしている。
その男はカイとアイラを一瞥すると、何も言わずアイラの隣に腰を下ろした。
アイラはその男の方に体を向けて話しかける。
「あなた、お名前は?」
男はアイラの方を一切見ることなく、返事もしない。アイラは「おーい」と言いながら顔の前で手を振って見せたが、やはり反応がない。
「きっと疲れているのね」
アイラはカイの方を見て肩をすくめていた。
そして、再びドアが開くと、今度は、リナ、ステルン(リナの肩に乗っている)、そして、タツが部屋に入ってきた。
「タツ! なんでお前がこんなところに?」
カイが立ち上がり、声を上げた。
「カイ! 今度は俺様も一緒についていくぜ。前回の時限竜との戦いの時のような無様な真似はもう見せないぞ!」
タツが雄たけびのような大きな声で宣言をする。アイラはその声の大きさに目を見開いていたが、やはり老練の男は微動だにしていない。
カイはその様子を見て、うつむいた。
――なんともカオスな空間だ。
「タツはフラガルトの仕事で忙しいんじゃないのか? それに、今回の作戦は聞いているだろ? 王都に攻めるんだぞ。フラガルトの規律とか問題にならないのか?」
「きっと大丈夫だ! 問題ない!」
タツは間髪入れずに答える。
――タツはきっと何も考えていない。
カイはため息をついたが、何を言っても無駄なので、そのままにしておくことにした。
リナは、この不思議な空気感には全く気が付かない様子で、両手で手を打ち鳴らした。
「それじゃあ、これでみんな揃ったから、作戦会議をはじめましょう」




