36 ステルンの告白
(一緒に、フレメルナを落としませんか?)
リナはカイに相談をした後、少し話をして部屋から帰っていった。リナが帰った後の部屋で、カイとステルンだけが残った。
リナが言うには、まだ協力者がいるとのことで、その者たちとともに作戦会議を明日するとのことであった。
――俺には、フレメルナを落とす理由はない。ただ、報酬としての親父の情報が欲しいだけだ。それに、アキを助けに行けるなら……。
「おい、カイ!」
ステルンがベッドに飛び移り、カイに声をかけてくる。
「ん? なんだ?」
「ちょっと外に行くぞ。俺っちをカイの肩に乗せろ」
ステルンは相変わらずぶっきらぼうな言い方をしてくる。ここで断っても長くなるだけだと、カイは仕方がなく、ステルンを肩に乗せて外に出る。そして、カイは、ステルンが指示したノクシアの高台を目指して歩く。
旧都ノクシアはまだ復興とはほど遠い。時限竜が破壊した町の範囲は思った以上に広く、まだ至る所で瓦礫の山が積み上がっていた。夜ということもあり、人通りは少なかったが、所々で光が窓からあふれ、人の存在が確認できる。
「そういえば、ステルン、あの後どこに行っていたんだ? 時限竜との闘いの後、王立図書館に行ったんだろう? なんかハム族の秘宝を取り返しに来たとか言ってたけど、あったのか?」
ステルンがしばしの沈黙の後、答える。
「カイは俺っち達ハム族のことは、どこまで知ってる?」
「いや、何も知らないな。ハム族は炎諏佐の国に集落でもあるのか? ウラルフやノクシアではハム族を見たことはないが」
「俺っち達の町は元々炎諏佐の国にあった。この旧都ノクシアの近くにハム族の町ボクズクがあって、そこでハム族は生活をしていた。岩盤が蜂の巣状にえぐれた丘陵地帯にある地下の町だ。その当時は資源も豊富にあり、それなりに栄えた町ではあったんだ。だから、ハム族もその当時は多く存在した」
「当時?」
「そう、当時だ。今はその町も消えてしまった。このボクズクの町の地下にはクスルという貴重な鉱石があったんだ。炎諏佐の国の王オシオはこのクスルを狙ってきて、ボクズクの町に侵攻をしてきた。クスルは常にエネルギーを放つ鉱石で、この国の動力となっているから、その資源がハム族が管理しているのが許せなかったんだ」
「戦ったのか?」
「ああ、ハム族もそんなに弱い部族ではない。俺っちも含めて戦ったが、ダメだった。ほとんどのハム族は殺された。俺っちの目の前だな。ハム族の生き残りはバラバラになり、どこで、何人が生きているかすらわからない。ただ、オシオは1つ過ちを犯したんだ」
ステルンの声には怒りが混じっている。
「過ち?」
「そう、クスルは何もボクズクだからできる鉱石ではないんだ。ハム族が作っていたんだ。それも女性のハム族だけが作ることができる。だから、ハム族では、女性のハム族は秘宝として扱われるんだ」
カイはステルンの話を理解をした。
「なるほど。そうすると、オシオはこのボクズクを侵略しても、このクスルを手に入れることはできなかったんだな」
「そうだ。ただ、オシオもそこまで馬鹿ではない。捕まえたハム族を拷問して、そのことを吐かせた。それから、オシオはハム族の生き残りを探していて、あの砦には捕まった女性のハム族がいるはずだったんだ」
「……いなかったのか?」
「いたさ。でも、もう死んでいたんだ。奴らは実験をしていたんだ。体には切り刻まれた後があったんだ。きっと、クスルを作る方法を探っていたんだと思う」
「それは酷い。知ってる子だったのか?」
カイはステルンの指示された高台に到着する。空を見ると、先ほどまで見えていた月が雲に隠れ、あたりが暗くなる。
ステルンが肩から降りて、高台にあるベンチの上に立った。そして、カイの目をまっすぐ見据えて答えた。
「知っているさ。よく知ってる。俺っちの奥さんだ」
カイはステルンの答えを聞いて言葉を失う。どのような答えが正解なのかわからない。慰めの言葉すら嘘になるような気がして、何も言えなくなった。
「俺っちは大丈夫だ。こんな結果は初めてでもないしな。それに、ちゃんとボクズクの町の跡に、埋葬をしてきたんだ。だから、しばらくこの町にはいなかったんだ」
「そうだったんだな。辛いことを聞いてごめんな」
「いいさ。ただ、オシオがこの国にいる限り、同じことが起こる。だから、それを止めるために、リナっちに協力することにしたんだ。カイはさっきのリナとの話だと、家族を探しているのか?」
「ああ、妹のアキ、友達のシホ、それと親父を探している」
「見つけてどうしたいんだ?」
「アキとシホはもちろん生きているなら助けたい。親父は……、そうだな。もし本当に生きているなら、一発殴りたい。なんで俺とアキと置いて行ったんだって聞いて、納得いく答えを聞きたい。ただ、本当に生きているかすらわからないんだけどね」
「何を言っていやがる? まだ亡くなったところを見たわけじゃないだろ? その瞬間まで信じることを諦めるな」
――ああ、たしかに、そうだな。
「ありがとう。辛い時に励ましてくれるなんて、ごめんな」
「カイは俺っちのことをまだわかっていないな。ハム族は誇り高き戦士。最後の瞬間まで諦めることをやめず、起きた過去は忘れない。だが、決して囚われない。だから、これから、未来のために、王都フレメルナを一緒に、落とそう」
ステルンは王都フレメルナの方を見る。ちょうど山手の方に王都フレメルナが見える。夜にもかかわらず、その場所だけ煌々と光に満ちていた。
「ああ、わかった」
カイの返事を聞いて、ステルンは小さな右手をカイに差し出す。カイは前かがみになって、右手の指先でステルンの右手を掴む。ステルンは力強く握り返し、覚悟を決めた表情をしている。
突然、王都フレメルナの方から腹の底を叩くような低い音が響いた。
遅れて、足元の地面がじわりと持ち上がり、次の瞬間、ドン、と空気そのものが揺れる。
――地震!?
だが、地震にしては妙だった。揺れは一度きりで、代わりに夜風が生温かくなる。鼻を刺す、焦げた匂い。硫黄に似た臭気が、遅れて届いた。
「なんだ!? 王都の方で大きな音がしたぞ」
カイがフレメルナの方を見る。王都自体は変わらず煌々と光っている。しかし、その手前である山の下手に、黒い煙が一本、まるで槍のように突き立っていた。
煙の根元では、赤い光が脈打つように点滅している。
「……あいつら、もしかして……」
ステルンの声が、初めて震えた。
「カイは先に宿に戻れ! 俺っちは少し調べてくる。明日の作戦会議までには戻る!」
ステルンが高台を器用に駆け下り、やがて見えなくなる。
カイは、黒煙を見つめたまま息を呑んだ。煙は細く、だが確かに、増えている。
――この国で、何が起こっているんだ?




