35 月夜の相談
王立図書館を後にして、1週間が経過した。
カイは今すぐにでもアキのいる天照の国に向かいたかったが、調べれば調べるほど絶望的な状況であることがわかった。
天照の国と炎諏佐の国の間には大きな山脈があり、その山脈は元々火山が連なりできたもので、今も溶岩が流れ、とても登れるような山ではない。また、炎諏佐の国が天照の国と交流があった頃、天然の洞窟を切り開いて作った通路があったが、炎諏佐の国がその洞窟を完全に封鎖しているとのことであった。
カイは、ボクスに飛行機を天照の国まで飛ばせるか尋ねたが、ボクスからは、飛行機の高度が足りず、天照の国に着く前に山脈にぶつかるとのことであった。
今は天照の国に行くルートは1つしかない。それは、王のオシオがいる王都フレメルナにある洞窟を抜けていくものだったが、今王都フレメルナに侵入するのは容易ではない。元々王都フレメルナに自由に出入りできるわけではなかったが、フラガルトがノクシアを制圧して以降、警備が厳重になっており、そう簡単に侵入できる状況ではないとのことであった。
――それでも、俺は……。
アキとは最近、言葉を交わしていない。何度廻っても関係性は変わらなかった。ただ、アキは心の奥でカイを頼っているように感じていた。その拠り所を失った今、アキがどうやって生きていくのか。しかも、アキがいる場所は危険な場所とのことである。
カイは偶然タツと出会い、偶然ここまで生きながらえることができている。アキにもそんな偶然の神様が付いているとは思えない。
シホも謎が多い月宵の国にいる。シホはどのような場所に降り立ったのかすらわからない。カイが今いる場所は、天照の国との境にいるが、月宵の国は反対側だ。行くだけで、何か月かかるかわからないとのことであった。
宿から見る窓に月が映る。
――アキとシホは今この月を見ているだろうか。
宿の扉からノックする音が聞こえる。
「今、ちょっといいですか」
リナの声が聞こえ、カイが返事をすると、リナが部屋に入ってきた。
「リナ、どうしたんだ、こんな夜遅くに?」
リナは部屋にある椅子に腰掛けた。
「ごめんなさい。カイさんにお話がありまして。カイさん、天照の国に行こうとしていますか?」
「ああ、もちろんだ。アキが天照の国にいるかもしれないんだ。ずっと探していたことをリナも知っているだろ? ようやく見つかった手掛かりだ。今すぐにでも行かないといけない。ただ、今から行くにはどう考えても、王都フレメルナを通るしかない」
リナは少し寂しそうな表情をしていた。
「やっぱりそうなんですね。カイさんにとって、この国がどうなるかはもう興味はないですか?」
「ん? どういう意味だ? もちろん、フラガルトの皆にはお世話になったから、フラガルトの人たちには勝ってほしいと思っているよ。ただ、それはいつになるんだ? タイガさんに王都フレメルナにいつ攻めるのか聞いたけど、今はノクシアで手いっぱいで、フレメルナに攻め入るのはいつになるか分からないと言っていた。時が来るまで待つように言われたんだ」
「ええ、だから、カイさんに相談があって、来たんです」
カイが「相談?」と聞き返すと、リナは椅子に座りなおして、カイの方をまっすぐ見据えた。リナの顔に月明かりが当たり、白い肌が光り輝く。
「一緒に、フレメルナを落としませんか?」
リナの言葉には覚悟で満ちていた。
「わかった。ただ、その前に、リナの目的を教えてくれ」
「私は天照の国を守るためなら何でもします。今の炎諏佐の国の王オシオは天照の国にとって脅威です。オシオは今天照の国に侵攻するタイミングを虎視眈々と狙っています。それに一矢を報いるのは炎諏佐の国が揺れている今しかありません」
カイは天井を見上げた。カイにとって、炎諏佐の国や天照の国がどうなろうと正直そこまで気にならない。カイの頭にあるのは、アキとシホを見つけて、その後、親父を探すことだけ。
カイが返答に困って、返事ができずにいると、それを察したのはリナがまた話し出した。
「あなたの中には傭兵の記憶があります。だから、傭兵らしく報酬を用意しました」
「報酬?」
「そうです。協力してくれたら、カイさんを天照の国に連れて行くだけではありません。あなたが探しているお父様についても心当たりがあります。それをお教えします」
「なんだって? リナは俺の親父を知っているのか?」
カイは思わず身を乗り出した。
「ええ、あなたが時渡りだと知った時、おおよそ理解をしました。あなたのお父様が誰なのかを。だから、改めて問います。フレメルナを落とすのに、協力して下さい。報酬は、天照の国への案内とあなたのお父様の情報です」
カイはリナの表情を見て、これ以上聞いても、今はリナが教えてくれないのがわかった。
「わかった。協力しよう」
カイの返事を聞いてリナの顔が一気に明るくなる。
「そう言ってくれると信じていました。それじゃあ、みんなで協力して頑張りましょう!」
「ん、みんな? 他に誰がいるんだ?」
「もちろん、俺っちだ!」
カイの後ろから突然声が聞こえた。振り返ると、窓枠の上にステルンが腕を組んで立っていた。
「ステルン! お前今までどこにいたんだ? それになんでお前まで一緒に来るんだ?」
「カイさん、私が無理を言って協力をお願いしたんですよ。もちろん、他にも協力してもらいますけど、今回鍵になるのはステルンさんなんです」
ステルンはリナに褒められて、まんざらではない顔をしていた。
――本当に大丈夫だろうか……。




