33 王立図書館
カイは、王立図書館の中心に立っていた。
カイは目を覚ました後数日で自ら動けるまでに回復をした。医者からは驚かれたが、リナから別れ際にもらった薬がよく効いたのかもしれない。
リナはあの後病室に来ることはなく、久しぶりにこの王立図書館で顔を会わせた。リナの発する言葉の奥底には何か別の感情が隠れているようだった。
(今の話は、もう絶対に、誰にも、しないでください。それを知った瞬間、あなたは味方じゃなくなるから)
――どういう意味だったんだ? 廻ってきたことを言うのが、なぜダメなんだ?
カイはリナの最後に見せた少し悲しさの混じった表情が頭にこびりついていた。
カイはモヤモヤした気持ちを抱きながら、王立図書館まで足を進めた。
星環砦の第2層はいわば研究施設になっており、時織であるミレナのおばあちゃんが働いていた場所がまさにここだったのだろう。研究施設には、フラスコやビーカーといった実験道具のほかに、何か動物が入るようなゲージや木製の大きな置時計、砂時計といった不可思議な物が並べられていた。カイは、タツ、リナ、ミレナの4人で、ミレナのおばあちゃんが残した物を探したが、何も見つからなかった。
そして、星環砦の第3層に王立図書館があった。
王立図書館は想像をしていた図書館と異なり、不思議な空間であった。この場所は、一つの大きなフロアになっており、ドーム状の天井に、プラネタリウムのような星が描かれていた。また、壁一面は本で埋め尽くされ、真ん中には円形の舞台が設置されていたが、そこには何も置かれていなかった。
――すごい数の本だ。もしかして、時織のヒントになりそうなものをこの本の中から探さないといけないのか。この中から全部探していたら、アキとシホを探すヒントなんていつ見つかるんだ? アキとシホがどこにいるか、そのヒントだけでも思ったが、これでは……。
「カイ、何そんな悩んだ顔をしてどうしたのよ?」
ミレナが怪訝そうな顔をしていた。
「いや、大丈夫だ。ちょっと町の状態が気になってね」
カイは少し回答をはぐらかしたが、町が気になっていたのは真実であった。
旧都ノクシアは今フラガルトが支配をしている。住民は皆フラガルトに感謝を述べるのかと思いきや、実際はそうではなかった。フラガルトが来てから、食料の配給が完全に停止し、町の立て直しも思うように進んでいなかった。今まで国に支配されていた住民のフラストレーションは、今度はフラガルトに向けられていた。
特に、焔鱗族に対する認識もあまりよくなかった。この世界では始原族が国や町の中心にいるため、焔鱗族に支配されることに反発をする者も多かった。そのため、町の中では、支持派と反対派に二分され、いたるところで暴動と鎮圧が起こっていた。
それでもタイガはなんとか町をまとめ上げようと必死に動き続けた。
「そうね。ちょっとまだ混乱状態だもんね。それに、私という彼女とずっと会えなくて寂しかったのね。いいわよ、私が抱きしめてあげる」
カイはすり寄るミレナから瞬時に距離を取って、話を変える。
「そういえば、ステルンはどこにいるんだ? あいつもここに用があったんだろ?」
「ああ、ステルンならもうとっくにここには来たわ。あの時限竜との闘いの後、足早にここに向かっていったから。それ以来、姿を見せてなくて、どこに行ったかはわからないの」
「そうだったのか。それよりも、この図書館にミレナのおばあちゃんの荷物が本当にあるのか? 2層には何もなかったけど」
ミレナは大きくうなずいた。
「それなら大丈夫よ。一応調べたけど、2層にないのは予想通りよ。あるのはこの王立図書館で間違いないわ」
ミレナは王立図書館の本がびっしりと詰まった本棚を一周ゆっくり回っていく。そして、何かに気が付き、立ち止まる。
「あったわ。その真ん中の舞台から少し離れてくれる?」
ミレナの言葉に、皆舞台から一歩後ろに下がった。
ミレナは「始めるわよ」と言い、一冊の本を奥に押し込んだ。すると、ゴトンという音とともに、王立図書館の天井が回り出した。そして、その回転に合わせて、真ん中の舞台の床が開き、何かがゆっくり上にせり上がってくる。
――なんだ?
カイがじっとそれを見つめていると、回転が止まり、舞台の床から出てきた物が何かわかった。
それは、機織り機とピアノだった。そして、その横にぽつんと箱も一つ置かれていた。
「これよ、これ! あったわ! これが間違いなく、おばあちゃんの荷物よ。おばあちゃんから隠し場所を聞いていたのよ。記憶通りで、よかったわ!」
ミレナの興奮をよそに、カイは頭の整理がつかなかった。
――これをどう使うんだ?




