32 リナの正体
カイが目を覚ますと、そこは病室だった。
病室には、ベッドが何個も並べられており、そのすべてに病人が寝ていた。カーテンの隙間からは光が差し込み、ちょうど真上あたりに太陽がある。消毒をされたような鼻を刺す匂いが時折漂う。
「ここは……?」
体を起き上がらせると、カイの頭に電気が流れたような痛みが走り、すぐにまた寝転がる。手足にも重りがつけられたような負荷がかかっている。
どうしてこうなったのか。カイは思い出すまで時間がかかった。
カイは時限竜を倒した後、その場に倒れて、意識を失った。その後どうやってここまで運ばれたのか全く記憶にない。
「おお、起きたか!」
大きな声が病室の入り口から聞こえた。病室にいた誰もがその声に驚き、入り口の方を向いた。カイも声がした方を見ると、タツが病室に足音をたてながら、入ってきていた。
「タツか。俺はどれぐらい寝ていたんだ?」
「ちょうど3日ぐらいだな。塔の下で倒れていたって聞いたぞ」
タツの返答を聞いたカイは怪訝そうな表情をしている。
「塔の下? 俺は塔の上の足場で気を失ったのを覚えているんだが、そこから意識を失くしている。あそこを一人で降りたっていうのか?」
「それは、しらん! 見つけたのは俺じゃなくて、リナ様だからな」
「ん? リナ様っていうのはあのリナのことか?」
思わず体を起こすと、カイの頭に頭痛が広がる。
「ああ、そういえば、カイは知らされてなかったんだな。ただ、タイガ姉ちゃんがもうカイにも話をする頃って言ってたから、もう言っていいのかもな。でも、そんな大事なことを俺から話をしていいのか? いや、でも、こんな周りに人がいるところで話をしちゃだめだな。だって、タイガ姉ちゃんがこれは絶対に秘密だって言ってたからな」
タツが頭をクルクル回して、必死に考えている。
「私から話をするから、大丈夫ですよ」
タツの後ろから声が聞こえてた。そこにはリナがいた。
「タツさんの声が病院中に響いてきて、カイさんが目を覚ましたって、すぐにわかりましたよ」リナは笑っていた。「起きてすぐで申し訳ないですが、ちょっと、お話いいですか。今車いすを持ってきますので」
カイはリナの持ってきた車いすに乗せられて、病院内の中庭に出てきた。
ここに来るまでに沢山の人とすれ違った。来る途中にリナから聞いた話だと、ここは、ノクシアで一番大きい病院とのことで、先の時限竜との闘いで負傷者が続出し、一時はこの病院に沢山の人がなだれ込み、そして、沢山の命が失われたということだった。
たしかに、廊下には泣き崩れる家族がいた。家族の誰かを亡くしたのだろう。
今はその時の混乱から3日が経過し、少し落ち着きを取り戻しつつあるとのことであった。病室を覗くと、医療器具が並んでいる様子はなく、この国ではそこまで医療は発達していないようだった。
「ここで話をしましょうか」
リナは、中庭のベンチの横にカイが乗った車いすを止めて、ベンチに腰掛けた。中庭は、病院の中心にあるようで、四方を建物に囲まれており、その中庭には、大きなヤシの木に似た木が生えていた。体を動かしたり、談笑している人がいる。
「それで、話って? まさか愛の告白じゃないだろ?」
カイが笑いながら、リナに優しく話しかける。
「ちょっと! まさか……。まだ、そんな心の準備が……」
リナの頬がうっすら赤くなる。それを見て、カイは口を大きく開けて笑った。
「ごめん、ちょっとリナがだいぶ真面目な顔をしていたから、和ませたくて」
リナは「もうー」と言いながら、頬を膨らませていた。「いいんです。カイさんがそんな冗談を言えるってことは元気だっていうことですから。私、カイさんを時限竜に向かわせたのはいいものの、急に怖くなったんです。カイさんだって死ぬこともあるんじゃないかって。無責任なのはわかっているんですけど、ちゃんとこうやって帰ってきてくれて、うれしかったです」
「ああ、正直、俺も必死であまり覚えていないけど、なんとか生きて帰られたみたいで、よかったよ。それよりも、タツがリナのことをリナ様って言っていたけど、あれはどういう意味なんだ?」
リナがベンチから立ち上がる。銀に近い灰色の髪が風になびく。そして、振り返ってカイの目を青い瞳でまっすぐ見つめた。
「私、天照の国出身っていうのはお話しましたよね? それで、小さい頃に、両親とともにこの炎諏佐に来たって。それで旧都ノクシアが私の育った町だともお話をしました」リナはカイが頷くのを確認すると、話を続けた。「そこまでは本当なんですが、ごめんなさい。それ以外は、結構、いやほとんど嘘をついていました。私の両親が医者と看護師とかって言いましたけど、あれ全部嘘です」
リナが頭を下げる。
「全然いいよ。何か事情があるんだろ? 俺だって過去のことは、言いたいことばかりじゃない」
カイはまっすぐリナの方を見た。リナは一呼吸を置いてから覚悟を決めた顔をする。
「実は、私、天照の国の王女なんです」
「えっ?」
「天照の国の王女は2人いて、そのうちの1人が私なんです。ただ、私は幼い頃、炎諏佐の国に連れ去られ、それ以降、この旧都ノクシアで幽閉されていました。それを助けてくれたのがフラガルトの皆さんなんです。だから、私は今はこうやってフラガルトの皆さまに協力をさせてもらっています」
「ちょっと待ってくれ。たしか、天照の国の王女はサクナ・アルフールって言ったよな。そうすると、サクナとは君と姉妹なのか?」
「ええ、そうですけど、なぜ姉のことを?」
リナは一瞬言葉を止めた後、怪訝そうな顔をしていた。突然の姉の名に警戒をしているようだ。
「サクナ・アルフール……。俺はその人のことを訳あって探しているんだ。いや、正確には違うんだが、そろそろ話をした方がいいのかもしれない。俺がなぜこの世界に来たのか。何をしたいのか、そのすべてを」
カイもしっかりリナの方を見つめた。一陣の強い風が2人の間を通り抜けた。
カイはリナに対して、これまでのことをすべて話した。不思議とリナは信じてくれそうだと感じたのだ。
表の世界からサクナに連れられて、こちらの世界に来たこと
親父を探していること
妹のアキと友達のシホがいなくなったこと
そして、カイが死ぬ度に、何度も同じ時間を繰り返していたこと
リナはカイの話を遮ることなく、ゆっくりと耳を傾けていた。
カイが一通り話し終えると、リナはまたベンチに座った。ただ、リナは酷く険しい顔をしている。
「カイさん、その話、誰かにしましたか?」
「いや、どうだったかな? 廻り過ぎて今回どうだったかわからないけど、たぶん話をしてなかったかな。気が付くのはウラルフでタイガさんの隣の女の子ぐらいで、最初はよく聞かれていたけど、最後の方は聞かれてなかったからな......」
「今の話は、もう絶対に、誰にも、しないでください。それを知った瞬間、あなたは味方じゃなくなるから」
リナは睨むような顔でカイをまっすぐ見据える。風がまた強く吹き、リナの髪が激しく揺れた。




