31 黒騎士
意識を失って3秒ほど。カイがおもむろに立ち上がる。鉄塔の足場には強い風が当たり、カイの服がバタバタとなびく。
カイをまとう雰囲気が先ほどまでと違う。禍々しい黒いオーラに包まれている。目付きもするどい。
「まさか、こんな形で奪うことができるとはな......」
話をしているのはカイだが、カイではない。口調がレオンのそれである。
――こいつが意識を失った途端、体の主導権がこっちにきた。こいつが寝ているときに、そんなことは起こらなかったが、今回は力を使い過ぎて、完全に意識が切れたのだろう。それでこっちがコントロールできるというわけか。ただ、かすかな意識の繋がりを感じる。そんなに時間はなさそうだな。それにしても……。
カイ(レオン)が屈伸をしたり、腕を伸ばしたりして、体を動かす。
――よくこいつはこんな体で動いていたな。体全体が悲鳴を上げている。もしかすると、筋肉も少し断裂しているんじゃないか。もうとっくに限界を迎えている。こいつはそこまでして何をしたいのかがよくわからない。友達や父親を捜すためとはいえ、今回の件、こいつには全く関係ないじゃないか。
カイ(レオン)はこれまでのことを少し振り返った。レオンの頭の中には、カイのすべての記憶がある。だから、カイがこれまで何をしていたのか、すべて把握している。
カイはこれまで185回同じ世界を繰り返している。普通の人間なら10回と持たずに絶望の淵に立たされるはずだ。それをこいつはやり遂げた。それもレオンの言葉一つで、自分の意識を変えて。レオンは、ただカイに諦められでもしたら、カイから出るきっかけがなくなると考えたに過ぎない。
元々カイは空っぽだった。カイは過去に色々失いすぎているのだ。そのせいで、自分という者まで失った。だから、レオンが入り込む空白があった。レオンの意識がカイの意識に影響を与えている部分もあるだろうが、レオンもここまで耐えられる自信まではなかった。
それに、カイは時限竜とも戦い、それにも打ち勝った。今回は一度も死ぬことなく......。こいつは既にかなりの力をつけている。それにこいつの始まりの才は普通とは違う。他人の才を使うことなど不可能だ。どうなってやがる。
――まあ、いい。俺はこいつから出る方法を探すまでだ。
「まず、どこまで使えるか、試してみよう」
カイ(レオン)は直立不動のまま、ゆっくり目を閉じる。
「闇の精霊ノクティスよ、力を貸せ」
力強いその言葉が発せられた瞬間、カイ(レオン)の体全体が黒い靄で包まれて、影が伸び、その影から影の騎士が現れる。
「黒騎士、今の状況を教えろ。なんでこの世界に影の子があふれているんだ? 影の子はお前の傘下だったはずだ。それがなんでこの国に溢れているんだ」
黒騎士はカイ(レオン)の前ですぐに跪き、はっきりとした口調で答える。
「レオン様、その質問が出るということは、失礼ですが、もしかして、最期の瞬間を覚えてはいないのですか?」
「最期とは?」
「レオン様の最期です」
カイ(レオン)は黒騎士に投げ掛ける言葉が見つからなかった。




