30 塔の上での決戦
旧都ノクシアの住民は混乱をしていた。
「どこに逃げればいい?」
「わからない! 兵士達から指示がないから動けないんだ」
塔にいるドラゴンが何かをしようとしているのは、一目でわかった。しかも、全く良くないことが。
それを見て、男が2人で話をしていた。
「おい、このままじゃ、俺達どうなるんだ? 炎諏佐の国はどうなってるんだ?」
「しっ!! 声が大きい! 誰かに聞かれたらどうするんだ!? 捕まるぞ」
「今、そんなこといっている場合かよ。どう考えたって、国は俺達のことを見捨ててるだろ。兵士があのドラゴンを止めに動かないのが何よりの証拠だ。もう俺達は終わりなんだよ。俺達はこれまで殺されないように、国に反発する仲間を売ってきた。そのツケが回ってきたんだ......」
「そうかもしれないけど。ん? おい! あれ見ろよ」
背の高い男性が、嘆く男性に空を見るように促す。
嘆く男性が空を見ると、飛行機がドラゴンに向かって飛んでいる。目を凝らすと、その上に人がみえる。
「あいつ、あんなところで何してるんだ? もしかして、止めようとしているのか......?」
「ああ、そうかもしれない......」
2人で空を見上げる。
「がんばれ......」
先ほどまで嘆いていた男性がつぶやく。
「おい! さっきから言っているけど、そんなことを言うとどうなるか......」
背の高い男性はドラゴンを見つめ、飛行機の上に立つ人を見る。少年か。その顔は覚悟に満ちていた。
カイはボクスの運転する飛行機の上に乗っていた。
「おい! カイ!」ボクスは運転席の窓から顔を出して、カイに話しかける。
「もう燃料がほとんど残っていない。あのドラゴンのところに行けるのは一回が限界だ」
「わかった」
徐々に時限竜の元に近づいていく。
――あと5メートル、4、3......。
ボクスが運転する飛行機は塔に回り込むように旋回をする。
「今だ! 飛べ!」
飛行機が塔に一番近づいたタイミングで、カイは飛行機から飛び降りて、塔の柱にしがみついた。ちょうど、点検する用だろうか。時限竜がしがみつく塔のてっぺんの下あたりに、正方形の足場が広がっていた。カイは、柱からそこに飛び移る。
カイが上を見ると、時限竜はまだエネルギーを貯めていた。
――間に合ったか。
カイが剣を構えると、声が聞こえた。
「なんで、ここまで来た!?」
ヴァースが立っている。
「傷は大丈夫なのか? お前は俺にもう一度負けてるんだから、無理をするな。それに、こんなことして、どうしたいんだ?」
ヴァースは足音でリズムを刻む。
「決まってるじゃない。私はヴァース。国に仕える者ではあるが、それも今日この日を迎えるため。この悲痛な叫びが、町の悲鳴が聞こえるでしょ。私はこの音色を聞くために炎諏佐の兵士となった。幾度となく、戦争を経験して、気が付いたの。死にゆく兵士だけではいい音色は奏でられないと。住民の逃げ惑う足音、泣き叫ぶ声、死を迎える時の最後の吐息が必要なの。それが今日は聞こえるでしょ。ほら、耳を澄ませて」
カイは笑った。
「そうか? ちゃんと聞こえているか? この声が」
ヴァースは言われた意味を理解できず、口を開いたまま止まった。そして、耳を澄ます。すると、何やら聞こえてくる......。
「がんばれ!」
「お願いだ! そいつを止めてくれ!」
この町では自由に声をあげることも罪になる。罪=殺されるということだ。そんな抑圧された住民が今声をあげている。誰にもすがる人がいないのだろう。住民の声が町全体に広がっている。
「虫けらどもが騒ぎたてて。何を勝手なことを言ってやがる......」
ヴァースの顔がゆがむ。
「ああ、たしかに、勝手だよな。がんばれなんて言われる立場にいつなったっていうのか......。突然こんなことになって、正直、まだ自分でも理解できていない。ただ、わかっただろう。いくら国民を支配しようとしても、そんなことできるわけがないんだ。一人一人に意思がある。気持ちがある。それをいくら踏みにじろうとも、いつかは爆発するんだ。だから、もう、お前が奏でたかった音色は終わりなんだよ」
カイは剣を構えて、ヴァースの方を向けた。
「どいつもこいつも、うるさい! うるさいんだよ!!!! 私の曲を乱すやつは誰だろうと許さない」
ヴァースが槍を構えて飛んでくる。
――動きが鈍い。もう時を止める必要はない。だから、この一撃で......。
カイも剣を構えたまま、ヴァースに向かって行く。
そして、ヴァースとカイが刹那的にすれ違う。
二人とも武器を構えたまま動かない。数秒の間の後、ヴァースが腹から血を噴き出して、その場に倒れる。
「残念ながら、お前の動きは完全に見切っているんだ」
カイは剣を一振りして、刃についた血を払い落とす。
――さすがに、完全にやったな。それじゃあ、次は......。
カイが上を見ると、貯めているエネルギーが時限竜の口の前で丸い塊になっており、その大きさは時限竜と同じぐらいの大きさになっていた。
――これはそろそろまずいな。
カイは塔の鉄骨を足場にして跳び上がり、時限竜の背中側に到着した。
「御主人様は死んだんだ。もうやめないか」
カイは時限竜に話しかけるが、何も反応がない。もう止められないかもしれない。
――こいつを倒すには、再生が追い付かないほどの攻撃をしないとだめだ。さっきは時間を止めている間に5回ほど刺したが、それでも回復された。だから、もっとそれ以上に攻撃をしないとだめだ。
「始まりの才・初刻」
カイは時間が停止すると同時に、時限竜にとびかかり、斬りつける。何度も何度も。それも、前回は1点集中で狙ったが、今回はより広範囲に。
――8、9......。
9回斬りつけるたところで、時が動き出した。時限竜は泣き声のような声をあげたがそのまま動かない。そして、またすぐに傷が回復していた。
――これでもダメか。今以上のスピードにmの限界がある。どうにかして、もっと切る回数を増やさないと......。
カイはふと下を見ると、ヴァースが倒れていた。それを見て、一つだけ方法が思いつく。
――あれを使えれば......。ただ、できるのか......。いや、できるかどうかじゃない。やるんだ。そして、今度狙うのは......。
「始まりの才・初刻」
カイはまた時間を停止した。カイは今度は時限竜の首元に飛び上がり、剣を大きく振る。
「始まりの才・双閃」
カイの振るった剣先に一瞬遅れて、初撃の残像が時限竜を襲う。
――ヴァースが使っていた才を使うことができた! 後はこれを繰り返す!
2撃目、3撃目、4撃目。
時限竜の首に1撃2連の攻撃があたる。徐々に傷が深くなる。
8、9、10。
10撃目で、時限竜の首の皮一枚を残して断ち
「つっっ!」
カイに今まで感じたことのない、脳内から針で刺されたような痛みが頭に走る。その痛みで鉄骨を掴む力がなくなり、そのまま、先ほどヴァースと戦った足場に落ちた。
――どうしたんだ......。
まどろむ意識の中、カイは頭を押さえながら、時限竜の方を見た。
時限竜の首が胴体から完全に切り離されていた。回復をしようと、青白い光が首元に現れるが、切り離された首がくっつくことはなかった。
時限竜の首は落ちる最中、口で貯めていたエネルギーが空に打ち上がる。
数秒後、そのエネルギーは空中で爆発し、強い光が広がり、少し遅れて衝撃破が町全体を包む。
時限竜の胴体はまだ塔にしがみついたままになっている。ただもう全く動いてない。
――やったのか?
カイは時限竜の最期を見届けると、そのまま意識を失った。




