28 時限竜との攻防
カイの眼前には時限竜の顔が広がる。荒々しいその姿は、今にも嚙みついてきそうだ。
ただ、不思議とカイは落ち着いていた。
――ヴァースに鍛えてもらったおかげか、不思議と怖くない。それに、動きがゆっくり見える。
「カイ!」
タツが名を叫ぶ。
「そんなに叫ばなくても聞こえてるよ。それにそんな状態だと立つのもやっとだろう? しばらくそこで静かにしておきなよ」
カイが優しく話しかける。
「ああ、そうさせてもらうが、一つだけ教えておく。あいつは時限竜ってやつで、自分の時間を操ることができるんだ。だから、あいつに中途半端な攻撃は通じないぞ。すぐに治しちゃうからな。だから、やるなら、一撃でしか無理だ。それに、あいつをやるにはこの剣がいる。これを持っていけ!」
タツはカイに直剣ドラグノートを手渡した。
――なるほどね。それは俺と相性が良さそうだな。
カイは不敵な笑みを浮かべた。
「ありがとう、タツ。これでなんとかなりそうだ」
カイが前を向くと、こちらの様子を伺っているのか、時限竜はこちらをじっと見ていた。
「おい、時限竜。こないのか?」
カイの挑発に刺激され、時限竜は咆哮を放った後、両方の前足を叩きつけるように、カイに襲い掛かる。
カイは右側に瞬時に動き、これを避ける。地面に足を叩きつけた時に生じた風圧が体にぶつかる。
そして、カイは、先ほどタツから受け取った直剣ドラグノートを時限竜の足に突き刺してみた。これまで他の兵士の剣が全く通らなかった固い鱗が、スポンジのように軽い弾力を突き抜けて、足を貫く。
――たしかに、この剣ならいけそうだ。
カイが剣を抜くと、緑色の血が噴き出たが、傷口が青白い光に包まれると、一瞬にして傷口が治っていった。この様子をみて、タツが言っていたのはこのことかとカイは理解する。
「ちょこまかと動いて、目障りなやつね。さっさと時限竜ちゃんに殺されなさい」
ヴァースの声には少し震えが混じっていた。カイがまたしても目の前に現れたのが気に入らないのだろう。
「ヴァース、もう終わりにしよう。俺はこいつの屠り方をわかっているし、できることもわかっている。今ならお前の命だけで、勘弁してやる。さあ、降りてこいよ」
カイは両手をあげて、ヴァースに降伏を促した。
「何、好き勝手なことをペラペラと......。この子には勝てないわよ。あれを使っていいわよ、時限竜ちゃん」
ヴァースが時限竜の体を手で擦ると、大きくなった時と同じように、時限竜の体が青白い雷に包まれる。
「この子のエネルギーは雷。時を操るために膨大な雷を体にため込んでるの。これは時を操る時だけに使うのではなく、こんな使い方もできるのよ」
雷が火花のように強くなり、前足に集中する。そして、時限竜はその足を振り上げると同時に、ヴァースが叫ぶ。
「飛ばせ、雷鳴斬」
時限竜が振り下ろした前足から雷の斬撃がカイに向かって飛んでくる。
速度的にカイは避けることもできたが、これを見て、直前のレオンの発言が頭をよぎる。
「見た感じ、あいつは雷を使うドラゴンみたいだな? それなら、ほら。お前が持っているそれを使えよ」
レオンはカイの持っている短剣リヴェルナを指差した。
「これが何の役に立つんだ?」
「それは短剣リヴェルナ。元伝説の傭兵が持っていた剣。いつしか俺は伝説になっていたようだが、かつて俺が使っていた短剣ってことだ。そいつの夜空はすべてを吸収する。そう、すべてだ」
レオンは笑っていた。
カイは短剣リヴェルナを構えて、飛んでくる雷の斬撃に斬りつける。
すると、パン!という音ともに、雷の斬撃が真っ二つに切り裂かれ、消滅した。
「ああ、これも便利だな」
カイはまじまじと短剣リヴェルナを見つめた。
ヴァースの悔しそうな声が聞こえる。
「もう我慢できないわ。時限竜ちゃん、もう全力でいきなさい」
その声を聞いて、時限竜は再度咆哮をあげて、連続でカイに襲い掛かる。
カイは、二撃の雷鳴斬の1つを瞬時に避け、もう1つを短剣リヴェルナで切り裂く。
そして、今度はカイのターン。
カイは足に力を込めて、地面を蹴り上げ、瞬時に時限竜の懐に入り込む。
――俺の始まりの才は数秒、時間を止めることができる。まだ止められる時間は2秒が限界。その時間を過ぎると勝手に時が動き出す。ただ、戦闘において、この2秒は大きい。時限竜を倒すには、再生が追い付かないほどの攻撃が必要となる。そうだとすれば......。
「始まりの才・初刻」
この世の全ての動きが止まる、風も火も崩れ落ちる瓦礫も。
音も匂いも消える。
カイはこの静止した世界で唯一動くことができる存在。
カイは素早く時限竜の腹に直剣ドラグノートを刺す。何度も何度も執拗に。
止まった世界で血は溢れない。
そして、5回ほど刺したところで時が動き出す。
時限竜の腹から緑色の血が一気に噴き出す。
時限竜は悲鳴を上げて、ドンという大きな音とともに横向きに倒れ込む。
――ただ、まだ生きてるか。
時限竜の目はまだ黒い。倒れながらも、こちらを睨みつけている。
時限竜の腹に青白い光が集まり、徐々に元に戻っていく。ただ、先ほどよりも時間がかかっているように見える。
「何をした!?」
ヴァースが声をあげる。
「何もしてないさ。さあ、さっさとけりをつけよう」
「うるさい、うるさい、うるさい、うるさい!! もうこれ以上耐えられない! 本当にこれで最後にするわ!」
完治した時限竜が立ち上がる。
ヴァースは時限竜の足に掴まると、時限竜が大きな翼を広げて、空に飛びあがった。
「いくらあなたでも、ここまでは来られないでしょ! これで、あなたもこの町も全て終わりよ!」
時限竜はカイがいくら飛び上がろうと、届かない高さに行ってしまった。
――はてさて、どうしたものか......。
そして、時限竜はノクシアの中心にある塔に向かって行き、その頂上に両手、両足を器用に括り付けて、止まった。
「さあ、これで終幕! 」
ヴァースがそう言うと、時限竜の全身に青白い雷が集まりだす。今まで一番大きい。
――これはさすがにまずそうだな。




