27 タツの大冒険
「なんだ、あのドラゴンは!?」
フラガルトの兵士が叫んだ。
時限竜は全身が鱗で覆われ、月夜に照らされて黒光りしていた。フラガルトの兵士が時限竜に斬りかかるも、固い鱗にはじき返されて、全く刃が通っていない。時限竜に乗ったヴァースはその様子を見て、高らかに笑っている。
時限竜は鋭い爪で、フラガルトの兵士だけではなく、炎諏佐の兵士も見境なく引き裂き、前足を地面に叩きつけていた。目は赤く、血眼になって殺戮を楽しんでいるように見える。
タツは、その姿を見て、立ち尽くしていた。いや、正確には心が躍り、体の動かし方を忘れていたのだ。
タツの名前の由来は、竜。竜のように羽ばたいて欲しいと思いが込められて、その名がつけられている。タツにとってドラゴンは特別な存在だった。
一時、タツは本物のドラゴンを探す旅に出たことがある。
この世界のどこかに存在すると言われていたドラゴン。タツは普段、事前に調べたりすることはなく、常に直観を信じて動いていたが、ドラゴンについてだけは違った。
数少ない書物を探し当て、ドラゴンのことを調べ上げた。
どのような種類がいるのか。
どこに生息しているのか。
何を食べるのか。
そもそも、この世界では、竜のことを、「りゅう」や「たつ」「ドラゴン」と呼ぶことがある。呼び方ごとに見た目の差はなかったが、竜そのものを指し示すときは、通常ドラゴンと呼ぶことが多かったが、具体的な個体名については皆一律に「竜」と名付けられていた。
それには理由があった。かつてドラゴンを従えた竜騎士の一族がいたが、その者が一般名称としてはドラゴンと呼び、それぞれのドラゴンの名称については「竜」と名付けたのが由来だ。
タツは、本物のドラゴンに会うために、この竜騎士の末裔を探す旅に出たのだ。竜騎士の末裔はこの炎諏佐の国にいると言われていた。元々ドラゴンとタツの種族である焔鱗族とは近い存在と言われていた。進化の系図としては同じとされ、竜騎士の末裔がどこにいるのか、焔鱗族の古き書物からおおよその場所がわかっていた。
ウラルフを出たタツは、その竜騎士の末裔がいると考えられる場所を探し続けた。その時間にして3年以上。ただ、結局、ドラゴンはおろか、竜騎士の末裔は見つからなかった。いや、正確には、竜騎士の末裔の墓を見つけたのだ。
そう、すでに竜騎士の末裔は亡くなっていた。もう5年以上前のことである。タツは、その村の住人から竜騎士の末裔が残したとされる直剣ドラグノートを引き継いだ。この直剣は、かつての竜騎士の末裔が使い、竜の守護を受けし剣と言われているとのことだった。
今タツが手に持つ剣はこの剣である。
――ようやく、会えた!!
ヴァースが何やらドラゴンを飼っているという噂は聞いたことがあった。ただ、星環砦に立ち入ることはできなかったし、そもそも、反乱勢力であるフラガルトの一員がこの旧都ノクシアに行くことすらできなかった。それにドラゴンの大きさを考えれば、星環砦にいるとは到底思ってもいなかった。
しかし、このノクシアに来るだけではなく、星環砦に攻め入ると聞いた時、タツは3度飛び跳ねた。そして、こちらに着いて早々にドラゴンに会うことができた。
――見ただけでわかる。あいつは時限竜! だから、あいつは星環砦に隠れられていたのか!
時限竜は、自らの時間を操ることができるやつだ。大きさも自由自在。それに、時限竜に生半可な攻撃は通じない。鉄よりも固い鱗を持ち、運よく体に傷をつけることができたとしても、その傷ついた部分だけ時間を戻して、すぐに元通りになる。
だから、あいつに中途半端な攻撃は通じない。やるなら、一撃で。
「タツ隊長!」
フラガルトの兵士が声を震わせてタツに駆け寄る。
「どうしたんだ、そんなに怯えて?」
「決まっているじゃないですか? あんな奴どうすればいいですか。今はタイガさんがいないんですよ! 次々とやられています。早く撤退の命令をお願いします!」
タツは兵士に強い目を向ける。
「撤退? こんなワクワクする日はもう来ないぞ! お前たちは後ろにさがっているんだ! あとは俺に任せろ!!」
タツは直剣ドラグノートを握りしめる。そして、全身に力を込めて鱗を震わせる。全身の体温が急上昇する。すると、いつしか鱗が燃えるように赤くになる。焔鱗族の名前の由来である鱗が焔のように燃え上がる。これにより、タツの力が何倍にも強くなる。
近くにいた兵士がその熱さを感じて離れていく。
「行くぞ! 今日から、タツの大冒険の始まりだ!!!」
タツは時限竜に向かって飛び上がる。瞬間的に、あの大きな時限竜を飛び越えるほどの高さに上がっている。
タツは空中で右手に持った直剣ドラグノートを振り上げる。幸い、時限竜は口にエネルギーを貯めている最中で、タツの存在に気が付いていない。
――いける!
タツは重力で落ちるそのまま、時限竜に後ろから斬りかかる。その時......。
「僕が気が付かないとでも?」
ヴァースは後ろを振り向き、タツの方をにらむ。
「邪魔だ! どけ!!!」
タツの声がその場に響き渡る。
タツが振り下ろした剣がヴァースの槍に当たる。ガチンと金属がぶつかる音が周囲に響き渡り、衝撃が周囲に飛んでいく。ヴァースの顔が歪む。先ほどカイにやられた傷が痛むようだ。
それでも、タツの刃を払いのけ、時限竜にまで届かなかった。タツは落下するように地面に叩き落とされる。
「焔鱗族は相変わらず馬鹿力だねー。それにその剣。きっと竜騎士の物だね。どこでそんなものを......。ただ、君の速度では、到底私たちには敵わない。まずはあいつをやるんだ、時限竜ちゃん」
ヴァースがそう言うと、タツが落ちた場所に時限竜がエネルギーを放つ。周囲に砂埃が舞い、地面がえぐれる。
「隊長!!」
一陣の風が砂埃を吹き飛ばす。
タツは時限竜のエネルギー波を受けて、なお立っていた。チリチリと焼けたような匂いがして、全身から切り傷のような痛みが走る。血も所々から流れ落ち、地面を赤く染める。
そんな見た目とは裏腹に、タツは、満面の笑みを浮かべていた。
――やっぱりだ。やっぱりドラゴンってスゲー!! ただ、間違いない! 俺様ではまだ勝てない!!
躊躇なく、時限竜はタツの目の前に降り立ち、鋭い爪を立てて右足を振り上げる。
タツはじっとその動きを見つめる。頭では剣を構えろと指令を出すも、もう立つのもやっとで、体が動かない。
――ああ、意外と最後ってあっけないんだな......。走馬灯すら浮かばないのか。
タツは目を閉じる。
台風のような風を一瞬感じた後、何かがぶつかる音が聞こえる。
一瞬の沈黙。
――あれ、まだ生きてる?
タツはゆっくり目を開けると、そこには、カイが立っていた。カイは、時限竜の攻撃を短剣1つで受け止めている。そして、カイはゆっくりこっちを見る。
「タツ、大丈夫か? 後は俺に任せておけ」
カイの顔は自信に満ち溢れていた。




