23 大きな流れ
満月の夜だった。
カイは、アキを連れて、ご神木まで通じる山道を登り、シホと合流した。前回と少しだけ違うのは、カイがアキに話しかけたことだ。アキは声を出さなかったものの、頷いて返事をした。
シホと合流した後は、他愛もない会話をし、アキが「サカサマの世界」の絵本を取り出し、カイがその内容を説明した。前と全く同じ流れ。
――そろそろだ。
「やっと見つけた」
カイの後ろから少女の声が聞こえる。
カイが振り向くと、白いワンピースを着た少女が立っていた。
「君を待っていた」
カイが答えた。その少女は驚いた表情をしている。
「なんか、来るのがわかっていた口ぶりね」
「ああ、わかっているさ。全部わかってる。これから裏の世界に行くんだろう? もう行くからその話は、大丈夫だ。ただ、こっちも聞きたいことが沢山あるんだ。時間がないのもわかっている」
少女は目を見開いた後、木でできたベンチに座った。
「よくわからないけど、まあいいわ。話が早いのは助かるし。聞きたいことってなに?」
「君の名前は?」
「私は、サクナ。サクナ・アルフール」
「君はなぜ俺を裏の世界に連れて行くんだ?」
「それは国を救うためよ。天照の国をね」
「君は天照の国の出身なのか?」
「ええ、そうよ。てか、なんでそこまで知っているの?」
「ストップ!」
シホがカイとサクナの間で両手を広げて立ちはだかった。
「ちょっとさっきから何の話をしているの? カイ、私達もいるんだから、ちゃんと説明をして」
「意味がわからないのはすまないが、今は説明をする時間がないんだ。ここでちゃんと聞いておかないと、後々困るんだよ」
サクナは立ち上がった。
「もういいかしら。知ってのとおり、もう時間がないから、早速始めるわよ」
――ちょっと待て。まだ聞きたいことが......。
サクナは、ご神木の前に跪き、両手を顔の前で組み、祈るような姿勢になった。そして、モヤモヤとした薄い霧のようなものがサクナを包み出し、ご神木に光の柱が天から降り注いだ。
「うまくいった」
サクナは小さくガッツポーズをしている。
光の柱が少しして消えると、ご神木が白く光り、光の結晶のようなものが、枝からキラキラとさせながら、葉っぱのように落ちていた。
そして、その光が、ちょうど幹あたりに集まり、縦長の楕円のような形になり、光の輪を作り出した。光の輪の真ん中は真っ暗で何も見えなかった。
ご神木の裏に何かの影が見えた。
――そういえば、前回も何か見えたな......。
サクナは立ち上がり、カイたちの方を振り向き、右手を差し出しながら言った。
「さぁ、行きましょう。サカサマの世界、タカマノハラへ」
そして、サクナは背中に手を回し、拳銃を取り出した。
「これからすることの意味はまだわからないと思う。だけど、信じてね」
「いや、大丈夫だ。わかってる」
「それなら、よかった。ちなみに、みんな行くんでいいんだよね?」
サクナは、カイが頷いたのを確認すると、アキに銃口を向け、引き金を引いた。パンと乾いた音がやまびこになって響く。二度目の音が鳴り響き、シホも倒れた。
「これがすべての始まりで、終わりなの。信じて」
――ああ、これで死ぬのは三度目か......。
カイは、胸に強い痛みが感じられ、しばらくして、意識を失った。
そして、カイが意識を取り戻すと、浜辺で倒れていた。
そう、海があるべき場所に空が広がるあの場所に。
――戻ってきてしまったか......。
しばらくすると、タツが現れ、影の子から逃げる形で、ウラルフに向かった。
ウラルフに着くと、同じように、タツの姉であるタイガの元に連れられてきた。
「それで、影の子が見えたというのは本当か?」
カイはだんだん同じことの繰り返しに嫌気がさしていた。このままずっと同じことを繰り返すことになるのか。
カイが人の形をした黒い影が見えたことを伝える。
すると、どこからともなく7歳ぐらいの小さな女の子がタイガのそばに歩み寄り、何かを耳打ちをした。タイガは、その言葉を聞くと、驚いた表情をした。
「お前、カイといったな。カイ、廻ってきたか?」
カイは前回と違うやり取りに驚いた。
「廻ってきたというのが、繰り返しているということだったら、あっています」
カイは素直に答えた。
タイガはその答えを聞いて、先ほど耳打ちをした小さな女の子の方が頷くのを見る。
「しばらく、貴殿にはこの町の滞在を許可する。ただ、一つ条件がある。それは、こちらの望むことを一つやってもらう。ただ、まだその準備ができていないから、その日が来るまでは自由にしてもらって構わない」
「ちょっと待ってください。廻ってきたことについて、何か知っているのなら教えてください。それに前回はその条件がわからず仕舞いだったんだ。それも先に教えて欲しい」
「正直に答えると詳しくは知らない。ただ、我々焔鱗族の間で、一つの伝記が残されている。ある日、廻る少年が空から現れ、炎諏佐の国を救い、狭間の魔物から世界を救うと」
「狭間の魔物? その少年って言うのが俺ってことですか?」
「それはわからん。あくまで伝記に過ぎないからな」タイガは首を傾げた。「それでもう一つの質問に対する答えだ。その条件というのは、我々革命軍フラガルドは炎諏佐の国の王都フレメルナの襲撃の準備をしている。国を取り戻すためにな。ただ、その行く道には、影の子が出るという噂だ。それに狭間の魔物も現れたと報告があった。それで、影の子が見える君の出番というわけだ。見えないと、王都に着く前に全滅だからな。ただ、まだ準備ができていないから、それまでここにいていいというわけだ」
「それじゃあ、もう一つ。サクナ・アルフールって人を知っていますか」
「それは、知っているさ。天照の国の姫君だろ? なんでそんなことを」
――天照の国の姫? 少なくとも、表の世界ではそんな風には見えなかった。
「今、そのサクナはどこに?」
「決まっているだろ? 天照の国にいるさ。ただ、天照の国に行くのは無理だ。炎諏佐の国から天照の国に行く通路は完全に閉鎖されている。なんせ今は戦時中だからな」
カイはタイガの答えを聞いた後、少しやり取りをしたが、それ以上のことはわからなかった。諦めてタイガが用意してくれた宿に戻る。
――サクナが天照の国の姫ということは分かったが、どうやったらいけるんだ?
カイはベッドに横になった。
――それに、少しだけ会話が変わっている。狭間の魔物なんてものも聞いたことはない。ただ、結局、大きな流れは変わらない。これから俺は、リナと出会い、旧都ノクシアに行くことになる。
――今度は、俺の行動で何か変わるのか、試してみるか。
翌日、カイは部屋に来たリナに旧都ノクシアの話をして、今から行こうと提案をした。ただ、それに対する返事は、はぐらかされ、いますぐ行く形にはならなかった。
カイはリナにメモリスを貸してほしいとも言ったが、最初はなぜそれを知っているのか驚かれたが、結局、貸してはくれなかった。
そして、ウラルフに来てから1週間が経った日の朝、リナが今ならノクシアに行ってもいいと話をし出した。前回と同じ日数が経っている。
――大きな流れは無理に変えようとしても変えられないのか。
その後も基本的に流れは一緒で、リナと町に買い物に行った後、ノクシアに向かった。一つだけ違うのは最初からカイがメモリスを持たせてもらったことだ。
おかげで、カイは道中で出会った炎諏佐の兵士をすぐに倒してしまった。その後、リナが魔法で、炎諏佐の兵士を倒すのも見ることができた。
そして、カイはリナとともに、ノクシアに到着した。
――このままじゃ、本当に同じことの繰り返しになるじゃないか。もしかして、一生この流れから抜け出せないのか。
カイの頭にヴァースに殺された時の情景が浮かぶ。




