24 廻る
「それで、どうすればいいか教えて欲しいって言うのか?」
リオンは不思議そうな顔をしていた。
リオンはカイの記憶を見て、カイが繰り返していることをすぐに理解した。
「ああ、結局、色々変えようしても、この場所に引き戻される。大きな流れは変えられない気がするんだ」
カイのその声は弱々しかった。
リオンはカイに近づき、頬を平手で殴る。ぱちんという音が響き渡る。
驚いたカイはリオンの方を向いて目を見開いている。
「目、覚ませよ。なんでわかんないだ? 簡単なことじゃないか。ヴァースを倒すんだよ。そうすれば、未来が変わる。それだけの話じゃないか?」
「前どうなったか、お前も記憶で見ただろう? あんな奴にどうやって勝つんだ? あいつの動きを目で追えてもなかったんだぞ」
リオンはため息をつく。
「知らないのか、絶対に勝つ方法?」
「絶対に勝つ方法?」
「ああ、勝つ方法だ、絶対に。必ず。間違いなく」リオンはカイの目をまっすぐに見る。
そして、リオンは力強く言い放つ。
「勝つまで、やるんだよ。何度だって」
カイの心の中で歯車が回る音が聞こえた。
――上等だ。何度だって、廻ってやる。
それから、カイは廻り続けた。
裏の世界でヴァースに殺されてから、表の世界に戻り、表の世界で、サクナに殺され、裏の世界に行き、また裏の世界でヴァースに殺される。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
リオンからは、いくらリオンの力を持っているからといっても、ヴァースに勝つためには10年の修行はいるだろうと聞いた。カイの体がリオンの力に全く追いついていないらしい。
10年......。途方もない期間だった。
計算をする過程で、分かったことがある。裏の世界で過ごした時間の分、表の世界で過去に戻っているということだ。
裏の世界にカイが行った日が、裏の世界では、322年7月24日。
そして、ヴァースに殺されたのが322年8月3日。
この間、ちょうど10日が経過している。
表の世界では、2021年7月24日の10日前の7月14日に戻っているという計算だ。
一周廻ると、カイにとっては、裏の世界と表の世界で合わせて20日間経過することになる。
10年×365日=3650日
3650日÷20日=182.5回
カイはこの20日間を有効に過ごす方法を考えた。表の世界は筋トレや走り込みなどの運動に費やし、裏の世界では、時間を見つけては、町の外に出て、モンスターと戦い続けた。リナがいるときは寄ってこなかったモンスターが、カイ一人だとすぐに襲ってきた。
ただ、廻るのが30回を過ぎたあたりから、外にいるモンスターも襲わなくなってきた。それからは、洞窟やダンジョンに潜り、より強いモンスターを求め、戦いに明け暮れた。
そうして廻り続けた結果、カイは100回廻ったあたりからヴァースの動きがよく見えるようになっていた。殺されるまでの時間もだんだん伸びて行った。
ただ、まだ何かが足りない。
そんなときに、リオンが教えてくれた。そろそろお前もできるはずだと。
聞くと、始原族は、始まりの才を使えるという。カイは、リオンの話を聞いて、要はゲームでいうスキルのようなものだと理解をした。カイは始原族ではなかったが、リオンは同じだろ?と勝手に納得をしていた。
リオン曰く、メモリスは元々他の種族が始原族が持つ始まりの才を使うために生まれた技術で、リオンのような記憶自体が宿るメモリスは珍しいとのことであった。
リオンも始原族だから、始まりの才を使えたというが、カイにはリオンのものは使えないらしい。だから、カイ自身に宿る「始まりの才」を習得する必要があるとのことだった。
この始まりの才を使えて、初めてヴァースの本気に勝つことができる。なぜなら、ヴァースも始まりの才を使うことができたが、まだそれを使っていないからだ。
150回廻ったあたりで、戦いに変化が訪れる。
カイがだんだんヴァースを圧倒し出す。
「そろそろ、本気をだしてくれ。そうじゃないと、鍛錬にならないからな」
カイの声には余裕が満ち溢れていた。
「まあ、いいでしょう。ここまで私を本気にさせたのはリオンちゃん以来ね」
ヴァースは、呼吸を整えて、集中をする。そして、深く腰を落として、槍を構えた。
――何がくる?
「始まりの才・双閃」
ヴァースはこれまでにないスピードでカイめがけて飛んでくる。
――動きは見える。これなら受けられる。
カイは槍先に合わせて、短剣を重ねて、受ける準備をする。
そして、ヴァースの槍が短剣にガチンっとぶつかる。
しかし、その後、もう一度、初撃の残像が飛んでくる。
――なに!?
残像の刃がカイの胸を貫き、カイの鼓動が止まった。
160回
170回
180回
何度廻り続けても、ヴァースの始まりの才を突破できずにいた。
――やっぱりこちらも始まりの才を使わないと勝てないのか。
カイは自分の始まりの才が何なのかすらまだわかっていなかった。リオンに聞くと、考えるものじゃなくて、感じるものだと説明があったが、それだけでは到底答えは出なかった。
カイは、親父の残した懐中時計を手に取った。時計はまだ動いている。それをじっと見つめて、考える。
自分は、何のためにここまでのことをするのかと。これまでの人生、目標というものを持ったことがなかった。
時間の流れに身を任せる人生。
目の前に敷かれたレールを皆が進むから進む人生。
疑問も疑念も持たずに、抗うこともせず、諦め、ただ無気力に歩んできた。
ただ、今は違う。今は、アキとシホを見つける。そして、親父も見つける。そのためだけに、道なき道を進んでいる。
――そう、それが俺の物語だ。
突然、懐中時計が光り出し、その後、懐中時計の針が数秒戻る。
「できたようだな」
リオンが話しかけてくる。
「今のは?」
「今のがお前の始まりの才だ。時間を巻き戻す才。まだ数秒だけのようだがな」
廻り続けて、185回目。10年が既に経過していた。
「始まりの才・双閃」
ヴァースはカイめがけて飛んでくる。
カイは短剣を構えず、まっすぐにヴァースを見る。
そして、カイはつぶやく。
「始まりの才・初刻」
ヴァースがカイに槍が届く瞬間、時間を0.5秒だけ巻き戻す。そして、それと同時に、カイはヴァースの横に回りこみ、短剣をヴァースの背中に突き刺す。
ヴァースは口から血を吐いてその場に倒れた。
カイはヴァースを見下げて、心の底から伝える。
「感謝する。お前のおかげで、俺は強くなれた」
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