21 狭間の世界
カイが目を開けると、真っ白な空間が広がっていた。
――ここはどこだ? たしか、ヴァースに刺されて、それで……。
カイの体には傷一つない。
「円環の中に囚われし者よ」
突然、女性の声が聞こえる。ただ、どこから聞こえるのかはっきりしない。空間全体に声が響き渡っていた。
「誰だ? それに、ここはどこだ?」
「私は誰でもない。ここは表と裏の狭間。時渡りは、一度はここを訪れる。そして、いずれ自分の運命を呪うことになる」
「狭間? 時渡り? さっきから何を言ってるんだ? 俺は死んだのか?」
「時渡りは死すら許されない。運命から逃れることもできない。永遠に廻る世界に囚われ続けることになる」
――何を言っているんだ?
カイはこれ以上聞いても理解の範疇を超えていることを悟り、自分の頭で考える。
最後、間違いなく死んだ。ヴァースに刺されて、意識を失ったことまでは覚えている。ただ、表の世界でも、白いワンピースの女性に銃で撃たれて、死んだはずだ。その後、気が付くと、裏の世界にいた。
――そうだとすると......。
「俺は、表の世界に戻れるのか?」
「色々考えたようだな。ただ、半分あっていて、半分間違っているというところだ」
「アキやシホはどうなった? まだ裏の世界にいるのか?」
「それも、半分あっていて、半分間違っている」
「親父も、そのなんだ? 時渡りなのか?」
女性は突然笑い出した。
「色々聞き出したいみたいだな。お前の親父はここにはきていない。それが答えだ」
――からかってやがる。
「わかったよ。それで、これから俺はどうしたらいいんだ?」
「どうすることもできないさ。ただ、一つだけヒントをやろう。廻る世界の中から抜け出すヒントだ」
「ヒント?」
「強い意思だけが運命を切り開く。さあ、お前が時渡りとして、記憶の輪廻から解き放て!」
白い空間が突然光り輝く。カイは思わず、目を閉じる。
そして、カイは目を開けると、そこには天井が広がっていた。それも、よく見た事のある......。
――あれ?
周りを見渡すと、自分の部屋だった。布団の上で寝っ転がっている。外は暗い。
――戻ってきたのか。
まだ頭がぼうっとする。枕元に置いてある目覚まし時計をふと見ると、日付と時間が表示されている。
2021年7月14日(水)23時48分
――ん?
カイはもう一度、時計を見る。間違いない。7月14日と表示されている。
カイは飛び起きて、自分の机の上を見る。すると、机の上には、数学の教科書が並んでいる。これは、たしか、夜まで勉強をして......。
翌日の7月15日は何があるか明確に覚えている。それは期末試験の初日だからだったからだ。そう、夏休み前の......。
カイは壁に掛けたカレンダーを見る。
――俺たちが裏の世界に行ったのは夏休みの初日だから、2021年7月24日だ。でも、今はその10日前......。戻っているのか? どうなっているんだ?
カイは急いで自分の部屋を出て、アキの部屋の扉をそっと開けた。そこには、アキが寝ている。
「おい、アキ!」
カイは思わず寝ているアキを起こす。
アキは寝起きが悪い。なかなか目を覚まさず、体を何度も揺すり、声を掛けて、ようやく半目を開けるような状態になった。
「アキ、お前も戻ったのか?」
アキから返事はない。ただ、少し驚いた顔をしている。カイはアキのこの反応だけで察する。
「ごめん、何でもない」
カイは思わずアキの部屋を出た。
――何もわかっていないのか? シホは?
カイは初めて携帯を持っていないことを後悔する。連絡が取りようがない。しかもこんな時間だ。家に行くわけにもいかない。
――どうなってるんだ?
カイは途方に暮れるしかなかった。
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