番外編:休憩室での雑談「コスプレと版権問題」
(収録の合間、スタジオ横の休憩室。モダンなソファが置かれ、壁には大型モニターが設置されている。4人の天才たちが、それぞれ飲み物を手にくつろいでいる。エジソンはコーヒー、ダ・ヴィンチは赤ワイン、孔子は茶、ウォーホルはコーラ)
エジソン:(モニターのニュースを見ながら)「なんだこれは?『コミックマーケット、コスプレイヤー10万人動員』?」
ダ・ヴィンチ:(画面を覗き込んで)「コス...プレ?衣装遊びか?いや、これは...」(目を見開く)「待て、これは私のモナ・リザの衣装を着ている!」
ウォーホル:(興味深そうに)「Cosplay。コスチューム・プレイ。知ってる。Ultimate pop art。究極のポップアート」
孔子:(眼鏡を直しながら画面を見て)「ほう、これは...人々が物語の登場人物になりきっているのですか」
エジソン:(ニュースの続きを読んで)「『版権元との摩擦も...グレーゾーンで成立する文化』だと?これは興味深い」
ダ・ヴィンチ:「人が絵画の中の人物になりきる...ある意味、究極の芸術鑑賞かもしれない」(考え込んで)「しかし、これは著作権的にはどうなんだ?」
ウォーホル:「Copyright?誰が気にする」(コーラを飲みながら)「Look。見て。みんな happy。幸せ。That's art」
エジソン:「いや、待て。これはビジネスとしても面白い」(身を乗り出して)「見ろ、『コスプレ衣装市場、年間500億円』だと!」
孔子:(驚いて)「500億...それは、芸術なのか商売なのか」
ダ・ヴィンチ:(別の画像を指して)「これを見ろ!私の『ウィトルウィウス的人体図』を...なんだこの解釈は!」(半分呆れ、半分感心)「円と正方形の中で、アニメキャラクターがポーズを取っている」
ウォーホル:「Genius。天才的。Remix of remix。リミックスのリミックス」
エジソン:「しかし、これは明らかに原作を使用している。許可は取っているのか?」
(画面に「同人誌即売会」の文字が映る)
孔子:「『同人誌』...同じ志を持つ人の書、という意味でしょうか。美しい言葉です」
ダ・ヴィンチ:「美しい?これは他人のキャラクターを勝手に...」(別の画像を見て言葉を止める)「待て、これは...上手い。非常に上手い」
ウォーホル:(立ち上がって画面に近づく)「Fan art。ファンアート。Love。愛。Money?Sometimes。時々。But mostly love」
エジソン:「愛?それで著作権侵害が正当化されるのか?」
ウォーホル:「Why not?なぜダメ?」(振り返って)「僕もやった。Campbell's soup。Marilyn。Coca-Cola。Love them, use them」
孔子:「なるほど、敬意の表現としての模倣...『これを知る者はこれを好む者に如かず、これを好む者はこれを楽しむ者に如かず』」
ダ・ヴィンチ:「楽しむ、か」(ワインを回しながら)「確かに、彼らの表情は真剣で、情熱的だ。私が絵を描く時と同じ目をしている」
エジソン:(ニュースの詳細を読んで)「ほう、『版権元も黙認、ファン活動として容認』...これは面白いビジネスモデルだ」
ダ・ヴィンチ:「黙認?それは承認とは違うのか?」
エジソン:「違う。訴えないだけだ。でも、それが文化を育てている」
ウォーホル:「Gray zone。グレーゾーン。Best zone。最高のゾーン。Not black, not white。黒でも白でもない」
孔子:(頷きながら)「『過ぎたるは猶お及ばざるが如し』。厳格すぎても、自由すぎても良くない。この曖昧さが、創造を促しているのかもしれません」
エジソン:(計算機を取り出して)「待て、計算してみよう。コスプレイヤー10万人、平均支出が3万円として...30億円が一つのイベントで動く」
ダ・ヴィンチ:「30億...私のパトロンのメディチ家でも、そんな額は...」
ウォーホル:「Money flows。金が流れる。Art flows。アートが流れる。Same thing」
孔子:「しかし、原作者には一銭も入らないのでは?」
エジソン:「いや、見ろ」(画面を指して)「『公式ライセンス商品も好調』とある。ファン活動が原作の人気を支えている」
ダ・ヴィンチ:(あるコスプレイヤーの制作過程動画を見て)「これは...すごい」(感嘆)「3Dプリンター、LED、特殊メイク...私の時代の技術を超えている」
ウォーホル:「Everyone is an artist。みんながアーティスト。Said it。言ったでしょ」
エジソン:「技術の民主化だな。誰もが創造者になれる時代」
孔子:「『有教無類』——教育に階級なし。創造にも階級がなくなったということですね」
(画面に「著作権侵害で訴訟」のニュースも表示される)
ダ・ヴィンチ:「やはり問題も起きているようだ」
エジソン:「当然だ。限度を超えれば、権利者も黙っていられない」
ウォーホル:「Limit?限度?Who decides?誰が決める?」
孔子:「難しい問題です。愛と尊敬から生まれた行為でも、度を超せば害となる」
ダ・ヴィンチ:「私の弟子たちも、私の技法を真似た。しかし、それを自分の作品として売ったら、私は怒っただろう」
孔子:(コスプレイヤーのインタビューを見て)「『なりたい自分になれる』...興味深い言葉です」
ウォーホル:「Transformation。変身。Ultimate art。究極の芸術。Not just looking。見るだけじゃない。Being。なること」
ダ・ヴィンチ:「確かに、絵画は見るものだが、これは『なる』芸術か」
エジソン:「体験型エンターテインメント。これは新しいビジネスだ」
(画面に海外のコスプレイベントが映る)
エジソン:「世界中に広がっているのか!」
孔子:「文化が国境を越える。素晴らしいことです」
ダ・ヴィンチ:「しかし、文化の盗用という批判も...」(別のニュースを見て)
ウォーホル:「Cultural appropriation。文化の盗用。Complicated。複雑」(肩をすくめる)「But everything is appropriation。でも全ては盗用」
孔子:「いえ、文化の交流と盗用は違います。敬意があるかどうかです」
ダ・ヴィンチ:(制作風景の動画に見入って)「見ろ、この精密さ!布の選択、縫製、塗装...これは職人技だ」
エジソン:「3ヶ月かけて一着を作る...効率的ではないが、情熱的だ」
ウォーホル:「Slow art。スローアート。反対 of my Factory。僕のFactoryの反対」
孔子:「『工欲善其事、必先利其器』——仕事を完璧にしたければ、まず道具を研ぐ。彼らは現代の職人です」
ダ・ヴィンチ:「しかし、考えてみれば...」(ワインを置いて)「私も神話や聖書の場面を描いた。それは『オリジナル』だったのか?」
エジソン:「私の発明も、多くは既存技術の組み合わせだった」
ウォーホル:「Original。オリジナル。Myth。神話。幻想」
孔子:「『日に新たに、日々に新たに、又た日に新たなり』。毎日新しくなることが大切で、完全な独創性は必要ないのかもしれません」
(画面にコスプレイヤー同士が助け合う様子が映る)
孔子:(微笑んで)「美しい。互いに技術を教え合い、材料を分け合っている」
エジソン:「オープンソースだな。特許なし、秘密なし」
ダ・ヴィンチ:「私が鏡文字で隠した技術を、彼らは無料で公開している...」
ウォーホル:「Sharing。共有。Real social network。本物のソーシャルネットワーク」
エジソン:(別のニュースを見て)「『プロコスプレイヤー、年収1000万超』...これはもう趣味じゃない」
ダ・ヴィンチ:「芸術が商売になる瞬間。私も経験がある」
ウォーホル:「Money and art。金と芸術。Best friends。親友」
孔子:「しかし、金銭が目的になれば、純粋さが失われるのでは?」
エジソン:「純粋さ?飯を食わねば創造もできない」
ダ・ヴィンチ:(画面の『公式認定コスプレイヤー制度』を見て)「これは面白い。版権元が優秀なコスプレイヤーを認定する」
エジソン:「win-winだ。ファンは公認を得て、企業は宣伝になる」
ウォーホル:「Official。公式。Boring。でも necessary。必要」
孔子:「『名正しからざれば則ち言順わず』。正式な認定があれば、活動もしやすくなる」
ダ・ヴィンチ:「認めざるを得ない。これは新しい芸術の形だ」
エジソン:「そして新しいビジネスモデルだ」
ウォーホル:「New?新しい?No。古い。Carnival。カーニバル。仮面舞踏会。Same」
孔子:「確かに、変装して別人になる文化は古来からありました」
ダ・ヴィンチ:(立ち上がって)「AIの議論と同じだな。創造とは何か、オリジナルとは何か」
エジソン:「そして、誰が利益を得るべきか」
ウォーホル:「Everyone。みんな。Or no one。誰も。Same」
孔子:(茶を飲み干して)「結局、大切なのは『楽しむ』ことかもしれません。創造を楽しみ、共有を楽しみ、変身を楽しむ」
ダ・ヴィンチ:「楽しむ、か。私も楽しんで絵を描いていた頃があった」
エジソン:「発明も、最初は楽しかった。特許を考える前は」
ウォーホル:「Fun。楽しい。Most important。一番大切」(珍しく微笑んで)「Cosplay。コスプレ。They get it。彼らは分かってる」
孔子:「『これを楽しむ者に如かず』。楽しむことに勝るものはない」
(4人は顔を見合わせ、それぞれの飲み物で乾杯する)
エジソン:「コスプレ文化に!」
ダ・ヴィンチ:「創造の自由に!」
ウォーホル:「グレーゾーンに!」
孔子:「人間の創造性に!」
(休憩室に笑い声が響く。時代を超えた天才たちも、現代の創造文化に驚き、そして理解を示した。それぞれの視点から見ても、人間の創造への欲求は不変であることを改めて確認したのだった)




