ラウンド2:所有権と共有の境界
あすか:(クロノスに新たな画像を表示させる。ディズニーとミッドジャーニーの訴訟に関する新聞記事)「さて、ラウンド2です。創造の成果は誰のものか。この永遠のテーマについて議論していただきます。まさに今、ディズニーがAI企業を訴えている現実を前に、皆さんはどう考えますか?」
エジソン:(即座に身を乗り出して)「簡単な話だ!汗を流した者が報われるべきだ」(拳を握って)「私は映画の特許システムを確立した。エジソン・トラストと呼ばれたが、それが産業を発展させたんだ。無秩序な競争より、秩序ある独占の方が技術を進歩させる」
ウォーホル:(静かに笑いながら)「Monopoly。独占。Thomas、質問。あなたの部下、ニコラ・テスラ。彼の発明、あなたの名前。それは正当な『所有』?」
エジソン:(一瞬たじろぐが、すぐに反論)「それは...組織として研究したんだ!私が資金を出し、設備を提供し、リスクを負った。当然の権利だ」
ウォーホル:「So?だから?AIの会社も同じ。資金出して、サーバー用意して、リスク負って。じゃあディズニーの絵を使っていい?」
エジソン:(困って)「それは違う!ディズニーは自分たちで作った作品を...」
ウォーホル:「テスラも自分で発明した。Same thing。同じこと」
孔子:(穏やかに割って入る)「エジソン殿、ウォーホル殿、少し視点を変えてみませんか」(立ち上がって)「そもそも知識や創造物を『所有』できるという考え自体が、比較的新しいものです。私の時代、知識は共有されるものでした」
ダ・ヴィンチ:「しかし孔子殿、それでは創作者が報われない」(手帳を取り出して)「私のこの手稿、鏡文字で書いたのは、盗用を防ぐためだ。アイデアには価値がある」
孔子:「価値があるからこそ、共有すべきではないでしょうか?」(微笑みながら)「私は3000人の弟子に教えました。学費は取りましたが、知識の使用料は求めなかった。知識は川の水のようなもの。堰き止めれば腐る」
エジソン:「美しい理想だが、現実的じゃない!」(テーブルを叩いて)「投資した企業が報われなければ、誰も新しいものを作らなくなる」
孔子:「本当にそうでしょうか?あなたの時代の特許戦争、いわゆる『電流戦争』は、かえって技術の発展を遅らせたのでは?」
エジソン:(顔を赤くして)「あれは正当な競争だった!」
ダ・ヴィンチ:「競争?それとも妨害?」(皮肉っぽく)「交流電流の危険性を証明するために、象を感電死させたと聞いたが」
エジソン:「それは...安全性の実証実験だ!」
ウォーホル:「Elephant。象。かわいそう。でも話題になった。Good marketing」
あすか:「話を戻しましょう。ウォーホルさん、あなたは有名人の写真や企業のロゴを無断で使用して作品を作りました。それについてはどう正当化するんですか?」
ウォーホル:(肩をすくめて)「Justify?正当化?必要ない」(間を置いて)「マリリン・モンロー。キャンベルスープ。コカ・コーラ。みんな既にある。Public image。公共のイメージ。僕は選んで、色を変えて、並べた。That's all」
ダ・ヴィンチ:「しかし、それは他人の創造物を利用している」
ウォーホル:「You too。あなたも。モナ・リザのモデル、リザ・デル・ジョコンド。彼女の顔、あなたが創造した?No。彼女の顔を使った。僕と同じ」
ダ・ヴィンチ:(憤慨して)「全く違う!私は彼女の本質を、芸術的に昇華させた。君はただコピーしただけだ」
ウォーホル:「昇華?Sublimation?fancy word。きれいな言葉。でも同じ。使った」
エジソン:「いや、ウォーホル君の理屈はおかしい。問題は商業利用だ。君は他人の商標を使って金を稼いだ」
ウォーホル:「You did the same。あなたも同じ。映画の特許、持ってない技術も含めて独占しようとした」
あすか:(クロノスでAIの学習プロセスを可視化)「では、本題に入りましょう。AIが何百万もの画像を無断で学習することは、正当でしょうか?」
ダ・ヴィンチ:(じっくり考えて)「人間の学習と、機械の学習は違う。私が他の画家の作品を見て学ぶとき、それは私の経験と混ざり合い、新しいものになる。しかしAIは...ただデータをコピーしているだけではないか?」
孔子:「しかし、ダ・ヴィンチ殿、学ぶという行為に違いはあるでしょうか?」(クロノスの画面を指して)「人間の脳も、ある意味では情報を処理する機械です」
ダ・ヴィンチ:「違う!人間には意識がある、感情がある」
ウォーホル:「Consciousness?意識?証明できる?できない。AIも意識ある。わからない」
エジソン:「意識の有無はどうでもいい。問題は経済的影響だ」(立ち上がって)「AIが無料で学習して、アーティストの仕事を奪う。これは不公平だ」
孔子:「エジソン殿、あなたの電球も、ろうそく職人の仕事を奪ったのでは?」
エジソン:「それは技術の進歩だ!」
孔子:「AIも技術の進歩では?」
エジソン:(言葉に詰まって)「...しかし、これは違う。創造的な仕事を奪っている」
あすか:「では、学習に対価を払うべきでしょうか?」
エジソン:「当然だ!使用料を払うべきだ。私の特許システムのように」
ウォーホル:「How much?いくら?1枚1セント?100万枚で1万ドル?誰に払う?死んだアーティストにも?」
エジソン:「著作権管理団体を作ればいい」
ダ・ヴィンチ:「管理団体?また中間搾取者が増えるだけだ」(苦笑して)「私の時代のパトロンと同じ。結局、創作者には僅かしか渡らない」
孔子:「興味深い議論ですが、そもそも『所有』という概念を見直すべきでは?」(全員を見回して)「知識や芸術は、人類共通の財産として扱うべきではないでしょうか」
エジソン:「それは共産主義だ!」
孔子:「いえ、これは2500年前からの考えです。共産主義より遥かに古い」
ウォーホル:「Communism, capitalism, どっちでもいい。Art is art」
あすか:「では、創作者の権利と、社会全体の利益のバランスをどう取るべきでしょうか?」
ダ・ヴィンチ:(慎重に)「難しい問題だ。私も、自分の知識を完全に秘匿したわけではない。弟子たちに教え、技術を伝えた。しかし...」(間を置いて)「核心的な技術は守った。それは創作者の権利だと思う」
エジソン:「その通り!特許制度がまさにそれだ。20年間の独占権と引き換えに、技術を公開する」
孔子:「20年は長すぎませんか?その間に、どれだけの進歩が妨げられるか」
エジソン:「妨げられる?逆だ!特許があるから投資が集まり、研究が進む」
ウォーホル:「Research。研究。でも art は研究じゃない。Feel。感じるもの」
ダ・ヴィンチ:「芸術も研究だ。私は科学者でもある」
ウォーホル:「Science and art。別物。混ぜるな危険」
あすか:(クロノスで具体例を表示)「実際の例を見てみましょう。ウォーホルさん、あなたの作品『マリリン・ディプティク』は、写真家のジーン・コーンマンが撮影した写真を基にしています」
ウォーホル:「Yes。使った。So what?」
あすか:「コーンマンの許可は?」
ウォーホル:「Dead。死んでた。マリリンも死んでた。死んだ人に許可?Impossible」
ダ・ヴィンチ:「死者の権利も守るべきだ」
ウォーホル:「Why?なぜ?死んだら終わり。作品は生きてる。それでいい」
エジソン:「遺族の権利がある。財産として」
ウォーホル:「遺族?関係ない。They didn't create」
孔子:「しかし、死者への敬意は...」
ウォーホル:「Respect?敬意?僕の作品でマリリンは永遠になった。最高の敬意」
あすか:「では、これを現代のAI問題に当てはめると?」
ダ・ヴィンチ:(深く考えて)「AIの学習は...ある意味では私が解剖学を学んだのと似ている。多くの対象を観察し、パターンを理解する。しかし...」
エジソン:(割り込んで)「しかし、規模が違う!AIは一瞬で100万枚を『見る』。人間には不可能だ」
孔子:「規模の違いが、本質的な違いになるでしょうか?」
エジソン:「なる!大量生産は手工業とは違う産業だ」
ウォーホル:「Mass production。大量生産。Beautiful。美しい。それが現代」
ダ・ヴィンチ:「美しい?機械的な複製が?」
ウォーホル:「Mechanical。機械的。最高の褒め言葉」
あすか:「では、どのような解決策が考えられるでしょうか?」
ダ・ヴィンチ:「選択的な共有だ。基礎的な技術は共有し、応用は保護する。私が解剖学の知識は公開したが、絵画技法は秘匿したように」
エジソン:「階層的なライセンス制度だな。学習は安く、商業利用は高く」
孔子:「それでは、富める者だけが創造できることに...」
エジソン:「当然だ。投資にはリターンが必要だ」
ウォーホル:「No license。ライセンスなし。Free for all。みんな自由。カオス最高」
ダ・ヴィンチ:「カオス?それでは秩序が...」
ウォーホル:「Order。秩序。つまらない。Chaos creates」
エジソン:(ウォーホルに向かって)「君の言うカオスで、誰が生活できるんだ?アーティストも食べていかなければならない」
ウォーホル:「Eat?食べる?アートと関係ない」
エジソン:「関係大ありだ!腹が減っては戦はできぬ、というだろう」
孔子:「確かに、『衣食足りて礼節を知る』と申します。生活の保障は必要です」
ダ・ヴィンチ:「だからこそ、創作者の権利を守る必要がある」
ウォーホル:「Rights。権利。でも、みんな死ぬ。権利も死ぬ。作品は残る」
エジソン:「だから期限付きの特許制度が...」
孔子:(遮って)「皆さん、議論が堂々巡りになっています。視点を変えましょう」(立ち上がって)「問題は『所有』ではなく『責任』ではないでしょうか?」
あすか:「責任、ですか?」
孔子:「はい。AIが既存の作品を学習して新しいものを作る。その結果に対する責任は誰が負うのか」
ダ・ヴィンチ:「それは...AIを作った者?使った者?」
エジソン:「両方だ。製造者責任と使用者責任」
ウォーホル:「Responsibility?責任?for what?何に対して?」
孔子:「文化の継承、社会への影響、そして未来への責任です」
エジソン:「哲学的すぎる。もっと具体的に」
孔子:「では具体的に。AIが生成した画像で誰かが詐欺を働いたら?」
ダ・ヴィンチ:「使用者の責任だ」
エジソン:「いや、ツールを提供した者にも責任がある」
ウォーホル:「No one。誰も責任ない。Art is free」
あすか:(クロノスを確認して)「時間です。このラウンドの結論をお一人ずつお願いします」
エジソン:(力強く)「明確なルールと対価が必要だ。特許制度は完璧じゃないが、これまで機能してきた。AIにも同様のシステムを適用すべきだ。学習には対価を、利用には許可を。それが公平というものだ」
ウォーホル:(カメラを見て)「Copyright is dead。著作権は死んだ。もう死んでる。AIが証明した。Everything is remix。すべてはリミックス。認めるしかない。でも名前は残る。Andy Warhol。その名前だけは残す」
ダ・ヴィンチ:(熟考して)「難しい問題だ。完全な所有も、完全な自由も、どちらも極端だ。私の提案は、段階的な保護だ。個人的な学習は自由、商業利用は許可制。そして何より、創作者への敬意を忘れてはならない」
孔子:(全員を見回して)「『和して同ぜず』。皆様の意見は異なりますが、それぞれに真理があります。所有権も大切、共有も大切。バランスこそが鍵です。過度な保護は発展を妨げ、過度な自由は混沌を生む。中庸を得ることが、持続可能な解決策でしょう」
あすか:「ありがとうございます。所有と共有、保護と自由、個人と社会——これらの対立軸が明確になりました。そして興味深いことに、4人とも『名前を残す』ことには関心があるようですね」
ウォーホル:「Fame。名声。永遠の15分」
エジソン:「legacy。遺産。それが人間の本能だ」
ダ・ヴィンチ:「不死への憧れ、か」
孔子:「『名を後世に残す』。それも一つの不朽です」
あすか:「次のラウンドでは、さらに深い問題に踏み込みます。技術進歩と人間性——AIは人間を超えるのか、それとも人間の道具に留まるのか。お楽しみに」
(4人が互いを見つめる。議論は深まり、それぞれの哲学がより鮮明になっていく)




