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オープニング

(薄暗いスタジオに、スポットライトが中央を照らし出す。ルネサンス絵画とポップアート、古代中国の書画、19世紀の発明品のレプリカが調和した独特の空間。中央の巨大モニターには、AIが生成した「モナ・リザがキャンベルスープ缶を持っている」コラージュ作品が映し出されている。クラシックとテクノが融合したBGMが静かに流れる)


あすか:(黒のタートルネックに銀のジャケット、手にクロノスと呼ばれる透明なタブレットを持って、舞台中央に歩み出る)「みなさま、ようこそ『歴史バトルロワイヤル』へ。私は物語の声を聞く案内人、あすかです」


(クロノスを優雅に操作すると、空中にホログラムが浮かび上がる)


あすか:「2025年8月21日、木曜日。今、世界を揺るがす訴訟が起きています。ディズニーとNBCユニバーサル——エンターテインメント界の巨人たちが、AI企業ミッドジャーニーを著作権侵害で提訴しました」


(モニターに実際の訴訟のニュース映像が流れる)


あすか:「AIは何百万もの画像を学習し、新たな作品を生成します。これは創造なのか、それとも盗用なのか。技術の進歩か、それとも芸術の終焉か。今夜は、この永遠の問いに、時空を超えた4人の天才が挑みます」


(クロノスを操作すると、4つのスターゲートが舞台の四隅に現れる)


あすか:「それでは、最初のゲストをお呼びしましょう。1452年フィレンツェから——ルネサンスが生んだ万能の天才、レオナルド・ダ・ヴィンチ様!」


(西のスターゲートから黄金の光が溢れ、その中からダ・ヴィンチが現れる。長い髭、鋭い眼光、ルネサンス期の衣装に身を包んだ姿は威厳に満ちている。彼は周囲を観察しながらゆっくりと歩み出る)


ダ・ヴィンチ:(天井を見上げ、照明設備を観察しながら)「ほう...これが500年後の世界か。私の描いた飛行機械よりもはるかに進歩しているようだな」(モニターのAI作品に気づき、足を止める)「待て、あれは...私のモナ・リザ?いや、違う。何か奇妙なものを持っている」


あすか:「ダ・ヴィンチ様、ようこそ2025年へ。あちらは、AIが生成した作品です。あなたのモナ・リザとウォーホルのキャンベルスープ缶を組み合わせたものです」


ダ・ヴィンチ:(眉をひそめて作品に近づく)「組み合わせた、だと?誰の許可を得て?いや、そもそも『誰が』描いたのだ?」


あすか:「それこそが今夜の議題です。続いて、次のゲストをお呼びしましょう。1847年オハイオから——1093の特許を持つ発明王、トーマス・エジソン様!」


(東のスターゲートから電気的な青白い光が走り、エジソンが自信満々の足取りで登場。三つ揃いのスーツ、懐中時計のチェーンが光る。すぐにスタジオの照明を確認し始める)


エジソン:(満足げに頷きながら)「やあ、みんな!見たまえ、この素晴らしい照明を!私の白熱電球から始まった技術が、ここまで進化したんだ」(ダ・ヴィンチに気づき、歩み寄る)「おお、あなたがレオナルド・ダ・ヴィンチ!あなたの設計図、私の研究所でも参考にさせてもらいましたよ」


ダ・ヴィンチ:(複雑な表情で)「参考に...それは光栄なのか、それとも...」


エジソン:「もちろん光栄でしょう!私は常に言っている。『天才とは、1%のひらめきと99%の努力』だと。あなたのひらめきを、私たちが努力で実現したんです」


ダ・ヴィンチ:「なるほど、あなたの哲学は興味深い。しかし、そのひらめきの対価は?」


エジソン:(笑いながら)「それは特許システムで解決済みさ!」


あすか:「お二人の議論は後ほどたっぷりと。続いて、1960年代ニューヨークから——ポップアートの革命児、アンディ・ウォーホル様!」


(南のスターゲートからストロボのような点滅する光と共にウォーホルが登場。銀髪のウィッグ、黒い服、サングラス。無表情だが、カメラの位置を即座に確認する)


ウォーホル:(モノトーンな声で)「Great. カメラはどこ?」(正面のカメラを見つけて立ち位置を調整)「15分どころか2時間も有名でいられる。2時間も。That's good」


エジソン:(興味深そうに)「君がアンディ・ウォーホルか。君の大量生産芸術、工場のようだと聞いているが」


ウォーホル:「そう、ファクトリー。工場。あなたの発明工場と同じ。違う?同じ?どっちでもいい」


ダ・ヴィンチ:(作品を指差しながら)「しかし、これは芸術なのか?同じものを繰り返し作ることが?」


ウォーホル:「繰り返し。繰り返し。32個のキャンベルスープ缶。全部同じ。全部違う。それがアート。あなたのモナ・リザ、一つだけ。でも写真で何百万回も複製された。どっちが本物?」


ダ・ヴィンチ:(少し困惑して)「それは...」


あすか:「深い問いですね。では、最後のゲストです。紀元前551年、魯の国から——2500年の時を超えて、孔子先生!」


(北のスターゲートから穏やかな緑の光と共に孔子が現れる。伝統的な儒服に身を包み、ゆったりとした足取りで、一礼してから進み出る)


孔子:(深く一礼して)「学びて時に之を習う、亦た説ばしからずや。このような未来の世界で学ぶ機会を得られるとは、まことに喜ばしいことです」


(モニターのAI作品を見て、しばらく沈黙してから)


孔子:「興味深い...これは『述べて作らず』の究極の形かもしれません。過去の知恵を学び、新たな形で表現する」


エジソン:「先生、しかしこれは機械が作ったものですよ。人間の創造ではない」


孔子:(優しく微笑みながら)「エジソン殿、そもそも完全に独創的なものなど、この世に存在するでしょうか?我々は皆、先人の肩の上に立っているのではありませんか?」


ウォーホル:「That's right. その通り。オリジナルなんてない。ない」


ダ・ヴィンチ:「しかし、人間の魂、感情、経験——それらなしに真の芸術は生まれない」


孔子:「魂、ですか。では、ダ・ヴィンチ殿、あなたの弟子が描いた作品に、あなたの魂は宿っていますか?」


テーマへの第一印象


あすか:(4人が席に着いたのを確認して)「皆様、ありがとうございます。では、単刀直入にお聞きします。AIが既存の芸術作品を何百万と学習し、新たな画像を生成することについて、率直な第一印象をお聞かせください」


ダ・ヴィンチ:(腕を組みながら)「正直に言おう。技術としては驚嘆に値する。しかし...」(モニターを見つめて)「機械が絵を描く、か。興味深い。だが、モナ・リザを描いた時、私は彼女の視線に何ヶ月も向き合った。その微笑みの奥にある謎を、一筆一筆に込めた。AIは、モデルの魂まで描けるのかね?」


エジソン:(前のめりになって)「素晴らしい発明だ!効率的で、大量生産可能で、ビジネスチャンスに満ちている!」(指を立てて)「ただし、ただしだ——きちんと特許料を払うべきだね。私の発明を無断で使う者は許さなかった。タダ乗りは、イノベーションを殺す」


ウォーホル:(カメラを見たまま)「Perfect. 完璧。みんながアーティストになれる。みんなが。それこそ僕がずっと言ってきたこと。Fifteen minutes of fame(つかの間の名声)、今は永遠になった」


あすか:「ウォーホルさん、でもあなたの作品もAIに学習されています」


ウォーホル:「So what? だから何?僕はマリリンの写真を使った。マリリンは文句を言った?言わない。死んでたから。でも作品は生きてる。AIが僕を使う。僕がAIを使う。同じことさ」


孔子:(静かに頷きながら)「温故知新——古きを温ねて新しきを知る。AIもまた、この精神を体現しているのかもしれません。しかし...」(間を置いて)「大切なのは、それを使う人の『仁』です。技術に善悪はない。問題は、それを導く人間の徳にある」


エジソン:「徳?ビジネスに徳なんて関係ない。ルールと契約があればいい」


孔子:「エジソン殿、利益だけを追求すれば、いずれ信頼を失います。『利によりて行えば怨み多し』と申します」


エジソン:(少しムッとして)「しかし利益なくして、どうやって次の発明の資金を得るんです?」


ダ・ヴィンチ:「確かに、パトロンなしに私も活動できなかった。しかし...」(ウォーホルを見て)「芸術を工場で作るというのは、どうも納得がいかない」


ウォーホル:「ファクトリー。工場。でも、あなたの工房も同じ。弟子が下絵を描いて、あなたが仕上げる。違う?」


ダ・ヴィンチ:(動揺して)「それは違う!私は弟子を指導し、技術を教え...」


ウォーホル:「Teaching。指導。AIも学習する。Learning。同じ」


あすか:(クロノスを確認しながら)「なるほど、既に議論が白熱してきましたね。皆様の立場が明確になってきました。ダ・ヴィンチ様は人間の魂と経験を重視し、エジソン様は権利と利益の保護を主張し、ウォーホル様は境界の曖昧さを指摘し、孔子先生は使う人の倫理を問う」


エジソン:「ちょっと待った。私は金の亡者じゃない。発明家が報われなければ、誰が人類の進歩に貢献するんだ?」


孔子:「しかし、知識を独占すれば、進歩は遅れるのでは?」


エジソン:「独占?私は特許を公開している。20年経てば誰でも使える」


ウォーホル:「20年。長い。僕の15分の80倍。長すぎる」


ダ・ヴィンチ:(苦笑しながら)「私の手稿は鏡文字で書いた。秘密にしたかったからだ。しかし今、それらは全て公開されている。それでいいのかもしれない」


あすか:「興味深い告白ですね。では、これから4つのラウンドに分けて、この問題を深掘りしていきましょう。最初のテーマは『創造性とは何か』です」


(4人が互いを見回す。ダ・ヴィンチは思索的に、エジソンは戦闘的に、ウォーホルは無表情に、孔子は穏やかに)


あすか:「人類の歴史上、最も創造的な4人が、創造の本質を語り合う。これ以上贅沢な時間があるでしょうか?」


ウォーホル:「贅沢。Luxury。それも商品。売れる」


エジソン:(笑いながら)「君とは気が合いそうだ」


ダ・ヴィンチ:「商売人同士、ということか」


孔子:「君子は利を言わず、と申しますが...」(微笑みながら)「今夜は例外としましょう。議論から学ぶことの方が大切です」


あすか:「素晴らしい。では、ラウンド1『創造性とは何か』を始めましょう。時代も文化も異なる4人の天才が、この永遠の問いにどう答えるのか——」


(照明が少し暗くなり、4人にスポットライトが当たる。歴史的な議論の幕が上がる)

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