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冬なのに春模様

キリヤくんとはまあ仲がいい方だとは思っている。

でもそれはエリナちゃんと同じようなものだと思ってた。


夜営業の前に、早めの晩御飯を四人で食べている時。

エリナちゃんと二人で買ってきたおまんじゅうを半分に割ったかと思うと、なんとわたしに寄こしてきたのだ。

え、甘いもの苦手?と思ったけど、くれるというのなら喜んで! と受け取ってしまった。

それからちょくちょくそういうことがあって。


皮が厚めのミカンに四苦八苦してたらすっと取られてする~りと剥いてくれたりね。

あれかな、エリナちゃんと同じ扱いになってきたのか。

そう思ってたんだけど、エリナちゃんには皮剥いてあげたりはしてなくて。

おまんじゅうも二人で分けろとは言われてないし。


まあ思春期なものですからね。

特別扱い的なのをされたら「まさか……カレ、アタイのことを……?」って思っちゃうこともあるよね。

でもね、キリヤくんは顔面が整ってるからさ。

それでいて物腰も柔らかくて気遣いの鬼だからさ。

そ~んないい男がわたしに惚れた?ハハッ。 となるよ。


そりゃあわたしも貴族の端くれだったわけだし、顔面は整ってるよ?

でもね、気品とか抜け落ちて久しいし。

食欲全開で生きてるし。

着てる服も冬なもんだからあったかさ重視であんまり可愛くない。

というか年中快適さを求めて可愛げがない。

可愛い服で旅できるかぁ!



というのを、エリナちゃんに相談してみた。



「お兄ちゃんはアリサおねえさんのこと好きだよ?」



飲もうとしていたお茶を吹きかけた。

きょとんとするエリナちゃん。



「な、なして?」

「妹の勘!

 お兄ちゃん、女の子にモテても気付かないし、気付いても断ってきてたんだ。

 でもね、最近ちょっぴりだけ余裕ができたの。お仕事。

 だから可愛いアリサおねえさんのこと好きになったんだとおもう!」



エリナちゃんから見ると、明確にそう、って状態らしい。

でもわたし目線だとエリナちゃんセカンドなのかも、って認識なんだよな。

しかもなー。

長い髪は邪魔だからってボブカットくらいなんだよな、わたし。

旅に出たりなんかするとさ、男の子って思われることもある。

そのほうが都合がいいからそのまんまってのもなくはない。


そういうわたしに惚れる?

何をどうして?

って思ったけど、エリナちゃんからするとちゃんと理由はあるらしい。


仕事が忙しくて女の子と知り合う機会もないし、かと言って露骨にそういう感情剥き出しで近付かれても……ってキリヤくんは思ってたわけで。

そんな中にそういうのなしで色恋感じさせもせずフレンドリーに接してきたわたしに興味を持って、みたいなところから始まって。

ふとした時の気遣いとかにときめいて、みたいな流れだと思う、ってのがエリナちゃんの主張。

なるほど?



確かにわたしはキリヤくんを「家主の息子さん」として見てた。

で、連日仕事仕事で休日も寝て過ごすか料理の研究してるかのキリヤくんに差し入れをしてた。

でもわたし、冬の間しかいないじゃん。

時間が……圧倒的に接触時間が……!


とか言ったら、「時間は恋を育てるんだよ、アリサおねえさん」と訳知り顔で言われた。

水あげてないのに育つ作物みたいな不可思議な事を言われてしまったな?

まあ、うん。



「エリナちゃん的に、わたしがキリヤくんとお付き合い始めたらどう思う?」



家族の同意を得てみようと思う。



「ん~?アリサおねえさんがホントのおねえさんになったら?嬉しい!」



得られてしまったな。

この調子だとご店主さんも「まあよかろう」しそうだな。

頬が熱くなる。


いやだってさ、いい男だよな~って思いはしてたんだよ。

そんな人に好かれてるって言われてさ、恥じらいがないわけではなくってさ。

前世の記憶では枯れたOLしてたもんで、色恋はマンガやアニメ、小説で!って感じだったし。

学生時代?聞くなバッキャロウ……。


そんで今世もハードモードだったわけだからさ、恋愛してる暇とかなくってぇ。

で、平民になって行商人始めた頃にはそんな余裕なかったのに、今やっと春が来てしまったとか。

情緒が育ってないところに唐突に現れる恋愛話。

頭の中は大混乱だ。


と、唇におまんじゅうが押し当てられた。



「甘いもの食べて落ち着いて~?

 アリサおねえさんは可愛いからさ、人気なんだよ。ホントだよ?

 でもお兄ちゃんがいるから無理だな~って皆思ってるんだよ」

「うっそだ~」

「ホント~。漁師見習いのタロスもね、朝市で見かけたアリサおねえさんに一目惚れしたけど、お兄ちゃんが睨みきかせちゃったんだ」



タロス。え、誰?

というか朝市でのわたしって、仕入れウキウキでしてる姿しかないはずなんだけどな。

どこに惚れる要素が……?

いやそれ言い出すとキリヤくんも脈ナシになるんだけどさ。

世の中不思議がいっぱいだ!


おまんじゅうをとりあえず食べていたら、エリナちゃんはにこーっとした。



「明日、お店お休みだもん。お兄ちゃんとデートしてきたら?」



ほう。デートとな。



「お兄ちゃんけしかけてくる!」



あっこれこれ。

今キリヤくんは仕込みの最中でしょ、と思ったけど、言うより早く部屋から出てってしまった。

エリナちゃん行動派だなすげーなー、なんて他人事みたいに思った冬。






-----


デート。

人生初の行いに、俺はちょっと緊張している。

といっても、こんなちっぽけな町だ。

行く店なんて限られてる。


しかもアリサは顔が広いからな。

どの店に何があるかは大体知ってる。


だから、同じような行商人の集まる市場に連れていってみた。

ガキの頃から仕入れだなんだで来てるからどこの区画にどんなものがあるかは知っているしな。

で、装飾品のある辺りに来てみた。

……バザックが、言ってたんだよ。

女子はそういうの好きだぞって。

アリサがそうかは知らないけど、まあ、無難じゃないか?



「あ。簪だ」

「ああ、この辺りのだな。真珠付きは陸じゃあ作れないから」

「綺麗だけど簪かあ。付けれないなあ」



残念そうに言うから、並べられた品の中からブレスレットを指差す。



「こっちなら大丈夫だろ?

 真珠は小ぶりになるが、艶はこっちのほうがいい」

「確かに!ねえねえ店主さん、これいくら?」

「粒が小さいからね。銀貨三枚だよ」

「わぁ。くーださい!」



自分の財布で支払おうとするので、俺が財布を出して早々に銀貨三枚を出す。

驚いた顔をするアリサの左手首にブレスレットをつけてやる。

右利きだから左じゃないと邪魔になるしな。



「え、あ、いいの?」

「ああ」

「……ありが、と」



いつもの感じじゃない、はにかんだような、恥じらうような、そんなアリサを見て。

ああ、好きだな、と自然に思えたことで。

誰にも彼女を渡したくないと思ってしまった。


さて、今年の冬の間にどのくらいアリサの心に食い込めることか。

逆に、アリサにどれくらい心のうちを占められることか。

頑張らないと、こっちが負けそうだ。

仕事と同じくらい張り切っていかねえとな。

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