淑女のお悩み解決します!
ナガワ国の港町のひとつに拠点を置いているわたしだが、お使いを頼まれることは多々ある。
お使いといっても、行商の時に買ってきて欲しいとか、安くて質のいいものがあれば欲しいとか、そういうのだ。
特に求められるのは油。これに関しては種類を特に問わないとのことなので、植物油を主に生産している国を複数経由して通過することで解決できる。
そしてわたしの最終目標地点である医療大国関係も割とお願いされる。
わたしが町に来たその年に流行った風邪で、薬はやっぱり大事だね、となった町長さんに、原料での仕入れもお願いされているのだ。
乾燥させたものなら、割と長持ちするのだそうで。薬師の腕にも依るけど、この町の薬師さんは腕利きなので問題ないよう。
これも医療大国では高い買い物ではない原料ばかりなので快く受け入れている。
他に求められるものはと言えば、砂糖に畜肉。
これらも別段問題なく仕入れられる。
そして、わたしがいる冬の間なら潤沢に提供できる。
なので奥様方はわたしが行商から戻って店を開くとこぞって押し寄せてくるのだ。
「焦らないで~!在庫は沢山あるから、皆がお財布の中すっからかんになるまで買っても余るからね!
それに明日からも朝からお昼まで開店するからね!
今日の特売品はチーズだけど、これも在庫はちゃんとあるから皆買えますからね~!」
大声を張り上げて奥様がたを落ち着かせるのも大事な仕事。
産地特有のお安い値段で仕入れてきた商品たちの一覧は、大きな板に書き記してある。
黒板には「水牛のチーズ 一塊銀貨一枚」と、今日の特売品を書いてある。
それらを求めてくる奥様方に商品を渡して代金をもらい、おつりを渡してまた次の人へ。
中間に人が入らないので、仕入れる間の生活費とほんのりした利益だけが上乗せされた値段だから、この世界基準だと有り得ないほど安い。
生産地からちょっと離れた町で買うのと同じくらいの値段だからね。
この辺りだと生産地から遠くて結構お高い砂糖も、わたしなら北方の大量生産地に立ち寄って大量購入割引までしてもらってるので安く買える。
畜肉も、豊かな平原にある牧場をいくつも回って仕入れまくっているので同じくだ。
水牛のチーズはたまたま大量に仕上がってしまってどうしようと悩んでいたところを全部買ってきた。
失敗するかもって分を考えて大量に仕込んだら全部成功したんだそうで。
で、いつもの商人は商売が焦げ付いて今は買い取れないと言ってきたとかで。
なのでわたしが仕入れた。もちろんとってもおいしいのは確認済み。
「アリサちゃんの言う通りで、牛の肉で作った肉団子にチーズを入れるととってもおいしかったわ」
「でしょう?今回のチーズも入れてもおいしいですよ」
「あらそう?じゃあチーズもちょうだい」
「まいどあり~」
そう大きい町じゃないので、奥様がたの攻勢も昼前には終わる。
今日は確認だけ、な人もいるのだ。
仕入れた商品の在庫を聞いて、冬の間ずっと潤沢なのなら急がなくてもいいわねと帰った人もいる。
言ってみればわたしは特化型の業務用スーパーみたいなもん。
ただし冬限定。
なので、安くても恨まれないのだ。
だって、それ以外の季節はいないし、扱ってるものも限られてるから。
これがメチャクチャ手広く色んなものを扱ってて、年がら年中町にいるなら恨まれたかもしれない。特に商人に。
けどわたしが町にいるのはひと冬の間だけ。
春になる少し前に旅立って、秋の中ごろに帰ってくる。
そうなると、時間停止付きの収納を持っている人でもない限り、わたしの売ったものだけで生活するなんてのは出来ない。
奥様方のうち三人くらいは持ってるらしいけど、それだって一年家族を養えるだけのお肉だなんだをしまっておけるわけじゃない。
というわけで、一冬限定の商売だから許されてるというわけ。
行商を終えてじっくりここに住むようになったら、その時はまあ考えるよ。
値段をちゃんと設定するか、それとも商売をしなくなるかはさておきね。
なんなら氷魔法の使い手がいない町だから氷魔法だけでも食っていけるんだよね。
夏場の氷魔法は最強だぜ。
そういう風に商売をしていたら、屋台の横でもじもじしながら待っている子がいるのに気付いた。
残り数人となったお客様を捌いて、本日平定の看板を置いてから少年に話しかける。
「何かご注文かな?」
「うん……」
「お薬かな?ごはんかな?それとも雑貨?」
「お薬なんだけど……僕、お母さんじゃないから、わかんなくて」
まだ七歳くらいの子だ。
しゃがみこんで視線を合わせ、ゆっくりじっくり話を聞くと、これはどうも生理痛がひどいみたい。
「アリサにお任せあれ。お母さんがつらくなくなる薬を持ってるからね、一緒にいこうか」
少年の道案内で一緒におうちまで行くと、ぐったりしている奥様発見。
ベッドでじっと横になってて、毛布までかぶってる。
「お邪魔します。アリサです」
「え……アリサさん、どうして……?」
「いや、少年が案内してくれたので。
女性のアレがしんどいんですよね?わたしもひどい時があるので薬を持ってるんですよ。
これ商売じゃなくて善意のおすそ分けなので、飲んでみてください。
来年からは必要なら代金もらいますね」
少年にお湯を沸かしてもってきてもらい、そっと起き上がった奥様に白湯と一緒にお薬を飲んでもらう。
医療大国のお墨付き、痛み止めと気分を落ち着かせて体をポカポカさせる特化型のお薬だ。
本場では一日分の三包分で銅貨五枚。売るなら銅貨六枚かな。
わたしが作ったわけでもない、困ってる人が必要とする非日常なモノで稼ぐ気はない。薬は必要な人にいきわたらせるべし。
三百包ほど持ち合わせてるので、ひとまず三日は要るでしょうと置いていった。
もし同じような悩みを抱えてる人がいたら教えてくださいね~っと言い置いて、帰宅する。
結果。
奥方連盟から、来年持ち帰ってきて欲しいというお願いと共に、千包分ほどの代金が渡された。
日持ちがする薬なのなら皆で分け合う、日持ちがあまりしないなら時間停止付きの収納スキル持ちの人に持っていてもらうと決まったそうで。
その辺はわたしも詳しくないので医療大国に相談だ。
でも漢方的なお薬だから多分時間停止付きに入れるのが無難だよねえ。
ま、奥様たちで分け合って持ってくれるのなら。
木箱一箱分くらいなら余裕で持てるし、お使いしましょうか。
悩める淑女の救いになるなら頑張っちゃうぞ!
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寒い季節は月のアレがとても辛くて。
子供を産んだら楽になったという人もいるけど、楽にならない人もいるわけで。
夫は優しい人だから、月のアレがひどい時は家のことをしてくれる。
息子は両親が預かってくれるけれど、でも、情けなくて。
毛布と布団を被ってじっとしているしかない自分がたまらなくイヤで泣きそうになっていると、アリサさん――少し前から、冬の間だけ滞在するようになった行商人さんが来て。
魔法のようによく効く薬をくれた。
ずきずきと痛むおなかの痛みはなくなって、体がポカポカとして普段より調子がいい。
それでも様子見で一日だけじっとしていたのだけれど。
薬を飲んでいれば、月のアレは全然つらくないとわかって、奥方連盟の仕切り役にその話をそっとしてみた。
すると、三日もしないうちに町中の奥方やお嬢さんたちに話が回った。
薬の効果について散々聞かれて、それで。
各々でお金を出して集めて、アリサさんに買ってきてもらおうという話になった。
お値段と飲む分量は聞いていたから、皆計算して、必要になりそうな量のお金を出した。
私も毎月欲しいと思ったから夫に相談してその分を出したわ。
アリサさんを連れてきたのは息子。
両親には遊びにいってくる、と言って、アリサさんに薬を売ってもらおうとお小遣いを握りしめて待っていたとか。
なんて優しい子に育ったのかしら。
息子の大好きなつぶあんのお団子をおやつにしてあげなきゃ。
アリサさんには色々と頼み込んでしまっているし、もしこの町に年中住むようになったら恩返しをしなきゃいけないわ。
住んでるお店のキリヤくんといい関係だって言うし、じゃあ結婚するわよね。
で、あのお店に住むわけよね。
大変。
大将さんとご夫婦と子供で住む、なんてつくりの家じゃないわ。
夫がちょうどよく大工だし、改築をってなったら少しでも安く、でも高品質に仕上げてちょうだい、ってお願いしなきゃ。
木材屋の奥さんも今回の薬を必要にしてたし、大丈夫そうではあるけれど。
ああ、アリサさんっていつまで行商の旅をするのかしら。
あのお薬、最後の行商の時にいっぱい仕入れてもらわなきゃ。
今からお金を貯めても間に合うかしら?
あんまりアリサさんに先にお金を出させるのも申し訳ないし。
自分たちで都合をつけられる分はつけなきゃだめよね。
あ、石鹸作りの手伝いを探してたのだっけ。
あれに願い出て、そのお賃金を貯金しようかしら。
結局アリサさんのお金を渡しているだけに思えるけれど、お仕事はお仕事だもの。
大丈夫、よね。
さて、具合もいいし、アリサさんを訪ねてお話をしてみましょう。
月のアレに効く薬は医療大国の特産品の一つみたいな感じで、レシピは教えてもらえないので買うしかないという設定です。