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第19話 キャッチ&リリース

 私を捕えるために禁制品を使ってきたのは、事が終わってしまえば私にとっても好都合だった。

 倒れ伏す男たち3人の間に睡魔の香を置くと、さすがに身動(みじろ)ぎしたりうめいたりしたのだけど……じきに動かなくなった。

 だからって、自分もきちんと寝ようなんて、そうは思えないのだけど。

 幸か不幸か、徹夜には慣れてるから、私は一睡もしないで3人を一晩見張り続けた。


 結局、あの地を離れてもまた、こうやって争いになって、夜を過ごして。夜空を見上げて、ふと思う。

 この者たちを遣わした背景にあるものを。


 手配書によれば、本状公布は目的地リダストーンと、現地教会の連名。

 でも、これは権威付けしつつ、世間から真相を隠すためのものであって、主体は聖教会なのは明白だった。

 肝心の罪状は記されていない。でも、手配書に聖教会の名があれば――

「異端者」なんじゃないかって、きっと大勢がそう思う。


 今まで異端狩りに関わってきた私が、こうして……


 胸の中を暗澹(あんたん)としたものが占め、私は震えた。

 荒くなる息をどうにか落ち着けようと、何度も何度も深呼吸を繰り返す。震える手で手配書を畳んでポケットにしまい……

 両手で顔を覆う。


 別に、追手3人の見張りのためじゃなくても、今夜は寝られそうにない。


 翌朝、雲がまばらな空から降り注ぐ朝日が、周囲の牧草の色を少しずつ変えていく。そんな光景を目にしても気は休まることなく、私は男たちを叩き起こした。

 彼らを眠りに就かせたお香は、寝入った時点で火を消してある。これを持たせて参考物件にするために。


「立ちなさい」と短く言う私に、男たちは顔を見合わせたあと、静かに立ち上がった。両手は後頭部で合わさせ、私に背を向けたまま、街道を先行させる。

 3人の後に続く私は、いつでも始末をつけられるようにと、剣に手をかける。

 逃げるつもりなら、多少の攻撃は辞さないつもりだった。


 ただ、お互いにとって幸いなことに、男たちは賢明だった。昨夜の賭けに懲りたのか、もう軽はずみな賭けに出ることはない。

 もっとも、憎まれ口の方だけはお達者のようだけど。


「こんな顔して、あんなブツのこと知ってるんだからな。いやはや、大したもんだぜ」


 嫌味皮肉たっぷりに言い放つ男に、釣られて仲間たちが、ややぎこちないながらも笑い出した。

 続けて、「どうせお前も、人様に言えない何かがあるんだろ?」なんて(のたま)う。


「その『何か』もわからないままに突っ走ったのですから、大した忠誠心ですね。感心します」


 皮肉で刺し返すと2人は悔しそうに押し黙ったのだけど……残ったひとりが、さらなる反抗心を見せてくる。


「わからねえ女だな。わざと無視してんのか? もういっぺん言ってやろうか? どうせお前も、俺らと同類(・・)なんだろうが、アバズレがよ」


 私は……すぐには言い返せなかった。

 聖教会から目をつけられても、仕方ないとは思ってる。後ろめたい気持ちは、ずっとある。

 だけど……こんな、こんな連中を遣わせて、襲わせるなんて。


「3人がかりで負けたくせに、同類だなんて。口だけはずいぶんとお達者でいらっしゃる」


 苛立ちまぎれに応じて返すと、これは男の逆鱗に触れたようで、こちらに振り向いてくる。

 ただ、これ以上の軽挙を(いさ)めるべく、リーダー格の男が「やめとけ」と鋭く言い放った。反抗的な方も、これは素直に受け入れ、再び前方に向き直る。

 憎まれ口の応酬でピリついた緊張も、歩き出していくと、次第にしおれていくのがわかった。

 後はただただ静かに、前へと連行していく。


 やがて、目的とする都市、リダストーンが見えてきた。

 地域帯の中心的存在となる街なのだけど、外壁は意外なほど低い。平屋の民家よりは高いのだけど2階建てなら当たり前に背が追い抜くぐらいで。あまり物々しさはなくて、街の境界を定める意味合いが大きいのだと思う。

 そうした外壁のところどころに門がある。ふつう、こういった門で人の往来を管理するものだけど……

 見たところ、往来が多すぎるのか、ほとんどみんな素通りしている。門衛の方の注意は明らかに、馬車等で出入りする大荷物の方に注がれている様子。

 ただ、私がこのまま3人を連れて……というのも、ちょっとどうかと思う。


 そもそも、私がここを避けるべきとも思うのだけど……

 事の背景を(つか)まなきゃって思いはある。聖教会が外部の手を、それも、こんな悪漢の手を借りたっていうのだから。

 ひとまず、この3人を連れたまま入るわけにはいかなくて、私は先行する男たちに声をかけた。

「街に着いたら出頭しなさい」と。


 これに、またも反発的な態度を示す者もいたけど、リーダーの男が(たしな)める。

 彼はならず者なりに、そういう道理を(わきま)えているようだけど……私の方からも説得を加えることとにした。


「あなたたちの、本当の(・・・)背後にいる存在は、『取り逃がした』なんて報告を認めるのですか?」


 尋ねても何も言い返せないあたりは、予想通りだった。


「出頭して、牢に入れてもらいなさい。禁制品を持っているなら、都合がいいでしょう」


 表沙汰にできない仕事を請け負ったらしい3人も、実はちゃんと捕まえてもらう口実がある。

 こうなると、もう素直に捕まりに行く以外に道はないようで、3人はまっすぐ門の方へと向かって行った。



 私から解放されたのもつかの間、今度はきちんとした官憲の手に捕まり、街の中へと連行されていく。

 この程度、善行の内にも入らないけど……

 でも、無事に済んだという、軽い達成感はあった。


 あとは、私がどうなるか、だけど。

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