表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブンドド!  作者: ぶらぼー
第一部
9/216

What is your wish?④

 セキグチシティを出発してから三時間、断崖地帯まであと10分。


 通信記録は押さえられた。ミランダがレトリバーに乗船していることはバレている。襲撃は必ず発生する――格納庫内で待機するつもりだったカリオのクロジ、ニッケルとリンコのコイカルは、レトリバー船外の甲板上に出ていた。


「クライアントの部屋にはクルーを数名配置しているが……船には乗り込まれないようにするぞ」

「来るのわかってても、何時間も待機するのは慣れないなぁ私」

「俺もだ」


 3人は適度な緊張感を保ちつつ、適当に話しながら時間を潰す。


 乗っている船がわかったところで、広い荒野の中を船一隻探すのは金も労力も非常にかかる。レトリバーを捕まえるとしたら、両脇を巨大な崖に挟まれる断崖地帯か、ゴールとなるヨシムラシティ付近が一番可能性が高い。


「あれ、もしかしてもう来た?」


 不意にリンコがそう言うと、カリオとニッケルは前方を見た。小さな灯りが複数。

リンコは暗視カメラの倍率を調整してその方向を確認する。


「アレっぽいなぁ……めっちゃこっちに向けて武器構えてるんだけど」

「入口入る直前でお出迎えか、随分せっかちだな」


 リンコが敵機を確認するとニッケルがコイカルを立ち上がらせる。カリオもそれに続いた。




 ドン! ドン!


 かなり遠方からの射撃。白煙をあげながら、光の玉がレトリバーに接近する。


 ガァン! ガァン!


 リンコはこれを難なくビームスナイパーライフルで撃ち落とす。


「あの射程から……小型の対艦ミサイル?」

「数はわかるか?」


 ニッケルはリンコにそう聞きながら、前方を見据える。


「10機程いるね、私が潰すよ」

「ミサイル盛り沢山とか、専務ってのはお金持ちだなぁ」


 カリオは嫉妬の台詞を吐きながら腰のビームソードに手を添える。


「ニッケル、もう仕掛けるか?」

「ああ、船には近寄らせん」


 甲板からカリオのクロジ、ニッケルのコイカルが飛び出した。


 ドン! ドン! ドン!

 ガァン! ガァン! ガァン!

 

 ミサイルが次々と発射されていく。間もなくしてリンコのビームがそれらを漏れなく撃ち落としていく。光る煙とビームと炎の下を、地面スレスレでカリオとニッケルは高速で飛んでいく。


「……? おい、他の戦力はあの2機だけか?」

「おうおう、かえって嫌な予感がするぜ」


 ミサイルを発射する人型戦車(ビッグスーツより前の世代の二足歩行兵器)の集団に、赤色と青色のビッグスーツが紛れている。両機とも、大きな金砕棒を携えている。


「“鬼兄弟”じゃねーのかアレ? 実際に見るのは初めてだけどよ」

「マジかよ、とうとう会っちまったな」




 赤色と青色のビッグスーツは大きく膝を曲げて、跳躍する。一気にカリオとニッケルとの距離が縮まる。カリオとニッケルは着地してそれぞれの得物を構えた。


 青色のビッグスーツがカリオに飛び掛かり、上から下へ金棒を振り下ろす。


 真っ向!


 カリオはこれをバックステップで回避! 間髪入れずに青鬼は斜めに金棒を振り上げる。


 逆袈裟!


 カリオは横に小さく動きこれを回避!


 赤鬼もニッケルに襲いかかる。左から右への薙ぎ払い。


 横一文字!


 ニッケルは姿勢を低くして回避! 続けざまに赤鬼は斜めに振り下ろす。


 袈裟斬り!


 ニッケルは横方向へ転がり回避!


 青鬼と赤鬼の猛攻は、二人に攻撃する間を与えてはくれない。




 袈裟斬り! 逆真っ向! 袈裟斬り! 逆袈裟! 横一文字! 逆水平! 真っ向!




 ズシリとカリオの左腕に重さが生じる。機体の左腕に青鬼の金棒が掠っていた。搭乗者であるカリオの左腕の上腕三頭筋に突然、多数の擦り傷が生まれ、血が滲み出る。


 ビッグスーツの大きな弱点は、機体のダメージがそのまま搭乗者の肉体にフィードバックされてしまうことだ。機体を自分の肉体だと思い込むに近い状態になることが原因で発生する現象である。


 掠っただけではあったが、その衝撃は彼の左腕を使い物にならなくするのに十分だった。カリオは痛みに苦悶しながらも、集中を切らさないように自らを奮い立たせる。


 ガン!


 鈍い音とともに、ニッケルもまた左腕を負傷する。赤鬼の攻撃をシールドで受けたはいいが、打撃攻撃の重みに左腕が耐えられなかったのだ。


 ガシッ!


 回避行動を取っていたカリオとニッケルは、背中合わせの状態で動きを止める。両者の正面から鬼兄弟が挟み込むようにして飛び掛かってくる。


「目を瞑れカリオ!」


 叫ぶと同時にニッケルは苦悶の声を出しながら左腕を無理やり動かし、腰から何かを放り投げる。それは空中で音を立てて弾け、辺り一面を白く染める閃光を放った。フラッシュグレネードだ。


 カリオとニッケルは横に飛び込み転がる。鬼兄弟は視界を奪われ、二機とも金棒を空振りさせる。それぞれの機体が交差してバランスを崩す。


 バシュゥ! バシュゥ! バシュゥ!


 ニッケルは青鬼に向けて3発、ビームライフルを連射する。


 ジッ! ジッ!


 なんたる実力者か! 視界を奪われ、バランスを崩しながらも青鬼は2発のビームを金棒で防御する。


 ズバッ!


 だが三発目を防ぐには至らなかった。ビームは青鬼の太ももを貫通、青鬼は苦しそうに膝を折る。


 バシュゥ! バシュゥ!


 ニッケルはもう2発、ビームライフルを撃ち込む。


 ズバッ! ズバッ!


 青鬼に避けられるだけの足は残ってはいなかった。4発目は胸部、コックピットを正確に貫き、5発目はそのコックピットに開いた穴を通って行った。


 一方のカリオもこのチャンスを逃すまいと、右腕を振る。


 逆袈裟!


 赤鬼も必死に防御を試みる。ビームソードが金棒を捉え、金属を(えぐ)り取る。金棒に不自然な凹部が生まれ、縁が熱で赤く染まる。


 横一文字!


 またも赤鬼は金棒で防御、しかし――2度目の斬撃を受け、金棒は完全に真っ二つに折れた。


 急に得物が軽くなった赤鬼はまたもバランスを崩して仰け反る。カリオは最大の好機を逃さんと剣を振り上げた。


 ガァン!


 突如、飛来したビームが赤鬼のコックピットを貫く。赤いビッグスーツは糸が切れた人形のように力なく倒れ込んだ。


「あれ、もしかして助けなくても大丈夫だった?」


 カリオは通信を聞きながらビームが来た方角を見やる――スナイパーライフルを構えたリンコのコイカル。ビームは、既にミサイル部隊を撃破し終えていた彼女の援護射撃によるものだった。


「いや悪い、助かった。もう敵はいねえかな……」


 リンコに返事をすると、カリオは左腕の痛みに顔をしかめた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ