霊魂のねぐら、うろつく咎人⑤
「す、すみません! お金とかなら少しありますので命だけは!」
青年は裏返り気味の声を出して必死に命乞いする。
「ま、待ってくれ。俺達は盗賊とかじゃない」
カリオはすぐに刀を鞘に納め、両手を軽く上げて危害を加える意思がないことを示す。
「俺達は企業から依頼を受けて調査に来た傭兵だ。ってかアンタこそ何者なんだ? こんな場所うろついてるなんて普通じゃねえだろ」
青年は少し落ち着いたものの、カリオの問いに目を泳がせながら、口に出す言葉を一生懸命考えている様子だ。
「え、えっと僕は、その……っ、な、名前はウド・エバッバ! こ、ここにはその、『エメト』の調査で……」
「『エメト』?」
カリオが疑問の表情を浮かべるのを見て、リンコが会話に加わる。
「HMBの別の呼称、地域によってはそっちの方が浸透してるんだって」
「なるほど……そっちの方が言いやすそうだな。でも調査って、一人で、それも丸腰でか?」
カリオ達三人から疑惑の眼差しを向けられ、青年、ウドの目がまた泳ぐ。
「いや……近くの街で研究員をしてまして、怪現象の噂を聞いて来たんですけど……意気揚々《いきようよう》と黒い雲の中に入ったら光る巨人が歩き回っているし不気味な光には追いかけられるしで」
「それ、普通町に入ろうと思わねえし、入ったとしてもどこかのタイミングで帰ろうと思わねえか?」
ウドの返答に呆れた表情を見せるカリオに、リンコが耳打ちする。
「ちょっと怪しくない? どうする?」
「護衛を提案してみるか。乗ってくれりゃ監視できるし、相手も別に困らねえだろ」
カリオがウドに話しかけようとすると、彼の方から先にカリオ達に話しかけてきた。
「お願いです! この部屋で少し作業したいんですが、その間、部屋の外を見張っててくれませんか?」
「作業?」
「外に青白い光の玉みたいなの浮かんでたでしょう? あれ、きっとエメトの群れで、あそこにあるコントロールユニットを止めれば光の玉も動作を停止すると思うんです」
ウドは部屋の奥を指さす。高さ三メートルほどの少し大きな機械が、チカチカと光を点滅させ、駆動音を響かせている。それがコントロールユニットだという。
「止められるのか?」
「はい、似たような物の操作は何度も経験してますので」
「わかった。リンコとニッケルは部屋の入口、俺はウドのそばにつく」
三人が護衛についてくれると聞いて、ウドの表情がパッと明るくなる。
「あ、ありがとうございます! 研究仲間がみんな嫌がっちゃって誰も同行してくれなくて、一人で来るしかなかったので……」
「普通そうだろ」
リンコとニッケルは入り口から出て、外を見張る。流石にこの状況に慣れてきたのか、ニッケルも口と頭を動かして考え始めた。
「ホントかねえ、研究員っていうのは……まあだからといって盗賊とかの類でも無さそうなんだけどな」
「周囲には人の気配全然感じない。ホントに一人で来たみたいだねー。しかも丸腰って。あ、トレジャーハンター……的な? とか?」
「それだったら身分を研究員と偽る必要はねえんじゃねえか?」
話し込むニッケルとリンコの声は室内には聞こえていない。カリオはウドがコントロールユニットを弄る様子を眺める。
(一切迷うことなく手を動かしてるな……怪しさバリバリなんだけど、かといって危なそうな奴にも見えないし……)
ウドは目の前の機械を触りながらカリオの視線に気づいていた。
(うーわめっちゃ怪しまれてる! いやまあそうか、あんな秒で考えた説明で納得するはずないし、護衛を頼んじゃったのは余計だったかな……よし、コイツを停止させるついでに別の何か起動させちゃお。そしたらドサクサに紛れて退散するチャンスができるはず……!)
ウドは操作パネル上にあるボタンをいくつか押す。ピーピーと電子音が鳴ると同時に徐々に駆動音が小さくなっていく。
「む。無事に終わった?」
カリオ達三人は周囲の様子を窺う。といっても、この部屋の周囲には元々問題の光の玉は見当たらなかったため、すぐに状況の変化を把握できない。
「用事が済んだなら外に出るか。ちゃんとその、エメトが停止しているかも確認しなきゃならねえし」
カリオが外のニッケルとリンコにも声をかけようとしたその時である。
ゴゴゴゴゴ……!
突然、辺り一帯を地響きが襲う!
「地震!?」
「いや、この感じ……震動の元は近い! カリオ、そいつと一緒にここを出るぞ!」
三人の傭兵とウドは急いで廊下を走る。入口を瓦礫にでも塞がれると厄介だ。
「……!? 振動止まった?」
「……いや、外から何か聞こえる。出口が見えた、急げ!」
瓦礫の隙間から外へ抜け出た四人は、上を見上げてすぐに異変の正体に気づく。
「アレ何よ!? ビッグスーツ!?」
驚くリンコの視線の先には、巨大な人型の機動兵器が立っていた。頭部は黒い長髪状の大量のケーブルで覆われて見えず、白いボディに生えた長い腕は力なく垂れている。その異様な姿は暗い町に一層の不気味さを漂わせていた。
(霊魂のねぐら、うろつく咎人⑥ へ続く)




