表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブンドド!  作者: ぶらぼー
第一部
8/227

What is your wish?③




 ◇ ◇ ◇




「お、おかえりー」


 レトリバー応接室、リンコ達が妨害を終え戻ってきたカリオを労う。


「この船に入ったところは見られてねえはず」

「グッジョブだ、となると……」


 妨害の成功を聞いたニッケルが顎を触る。


「残りで危ないのは途中の断崖地帯とヨシムラシティに近づいてからか」

「この船にミランダさんが乗ってることはわからないだろうし、また街中に入ってから襲い掛かってくるかな? ビッグスーツ(うちの子)は出番なさそう?」

「自治組織になりすまして、捜査の名目で無差別に殴りこんでくるとかの可能性もある。念のためビッグスーツには乗り込んでおくぞ」


 ニッケルとリンコがそうやり取りしている横で、ミランダはひたいに手を当てて目を瞑る。カリオがそれを見て彼女を気遣う。


「ミランダさん疲れたろ? ベッドに案内するから休んだらどうだ?」

「……お言葉に甘えようかしら、ごめんなさいね」


 来客用の個室に案内しようと応接室を出ると、カリオの足に何かがぶつかる。応接室に入ろうとしたマヨだった。


「ぶぉっ、いて……おお、この人が〝くらいあんと〟のお姉さんですね!」

「こんな時間にオメーは何やってんだ寝ろ寝ろ」

「私もお仕事手伝うですぅ!」


 子供らしくはしゃぐマヨに対して、カリオはシッシッと手で払う。


「かわいい子ね」

「そうかなぁ……」




 三人は廊下をゆっくり歩いていく。ヴヴヴと何かのかすかな振動音と足音だけが響き、空気は実際よりも涼しく感じる。


 街中の追手から逃げ切り、静かになったところで、ミランダの脳裏にはアレックスとの思い出が流れていた。考える間もなく忙しく動いた後で、緊張から解かれた時にはいつも、疲れた心を癒すかのように流れてくる記憶。


傭兵ようへいさんって、人の生き死にに関わる仕事じゃない? その……天国とかって信じる?」


 唐突なミランダの質問に、マヨを嫌々《いやいや》あやしてた手を止め、カリオは一瞬、間をおいて答えた。


「半信半疑ってところかな」


 マヨははしゃぐのをやめて、二人の大人を興味深げに見上げる。カリオは続けた。


「あるはずがないって思ってても、それでも死んだ人の墓に花を手向けたりする。もういねえのに」

「……私もよ」


 ミランダは自分を見上げるマヨを撫でる。マヨはにっこりと笑った。


「今回の件なんだけど、味方してくれる人がいっぱいいてね、色々な事を言ってくれるの。アレックスは真実を暴いてほしいはずだとか、アレックスはかたきを取ってほしいはずだとか、アレックスは君の安全を願っているはずだとか……」


 ミランダは少しうつむく。


「でも彼って……死んでるのよ。もういないの。私も、誰も彼の声を聞けない」


 カリオは黙って聞いていた。


「“あなたの願いは何?”、“あなたのために何ができる?”って聞いても、彼が返してくれることはない。彼の声が聞きたくても聞けないし、彼の願いを叶えたくても彼の願いはわからないの。私の我儘わがままで、ゴードンを追い詰める証拠を運んでいるけど、それをアレックスが望むかは……わからないの」


 うつむいていたミランダは天井を見上げた。


「彼の願いが知りたい。彼と話せるならどんなことだって……」


 ミランダはそれ以上は言葉を続けなかった。カリオもそれ以上、彼女から言葉を引き出すような事はしなかった。




 ◇ ◇ ◇




 来客用の個室に着くとマヨはカリオを見上げた。


「なんかミッションないですか!」

「ない、寝ろ」


 二人のやり取りを見ていたミランダがクスッと笑った時だった。ミランダの携帯通信機が着信音を鳴らす。ミランダは通信機を手に取り通話を始めた。


 通話しているミランダの顔が少しづつ緊張の色を帯びていく。視線を時々カリオと合わせてくる。二分程通話をすると、ミランダは通信機を耳から離した。


「何かあったか?」


ミランダにカリオが聞くと、ミランダは真剣な表情で答えた。


「セキグチシティのオフィスに通信記録を見せるよう圧力があったって。ごめんなさい、私がきちんと消しておけば……」


 カリオはすぐに状況を把握し、頭を切り替える。


「いや、通信記録は個人でそう簡単には消せるもんじゃない……あんたのせいじゃないさ。ただ、この船にミランダさんが乗っていることはもう向こうに知られたはず」


 真剣な空気を察知して大人しくしてるマヨの頭をカリオはわっしゃわっしゃと雑に撫でる。


「どこかで必ず戦闘になる。ミランダさんとマヨはなるべく部屋から出ないようにしてくれ、あと窓からは離れておくように。……大丈夫、俺たちがなんとかする」


 カリオはそういうと早足で格納庫に向かっていった。




(What is your wish?④へ続く)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ