霊魂のねぐら、うろつく咎人②
◇ ◇ ◇
「で、昼ならホラー依頼もあんまり怖くないだろうと来てみたはいいけどよ」
レトリバーのブリッジからカリオ・ニッケル・リンコの三人は前方に見えるモリオカタウン跡地を目を細くして見る。
「なんであの町だけ黒い雲に覆われてんだよ」
モリオカタウン跡地は不自然に黒い雲……濃い霧のようなものに覆われていた。流石に自然現象とは考えづらい。調査依頼が出されるのも納得と言える不気味さだ。
「流石にこの距離じゃ何もわかんねえな。レーダーは?」
「今現在動いているような影はないな」
カリオが通信で尋ねると、レトリバーのブリッジクルーはチョコバーを齧りながら答える。
「いきなりだけどビッグスーツで接近するしかないよねぇ」
「マジか」
リンコの言葉にニッケルはぶるっと体を震わせる。
三人の傭兵はビッグスーツに乗り込んだ。格納庫を飛び出し、跡地を包む黒い雲へ慎重に足を進めていく。
「結構近づいたけど、特に何も起こらないね……」
「このまま町の中に入れそうだな……ニッケル、何も喋ってないけど大丈夫か?」
「お、おう……」
先頭を歩くカリオは雲に手が届くところまで接近していた。
「レーダーには相変わらず何もねえな……」
カリオは慎重に雲の中へ歩を進める。リンコとニッケルも後に続く。ゆっくりと周囲を警戒しながら十歩ほど歩くと、急に視界が開けた。
「む……」
困惑する三人。雲が漂っていたのは町の周囲だけであり、町の中は見通しがよい状態となっていた。しかし周囲の雲は外からの光をかなり遮っており、まるで夜のような暗さだ。
「確実に人の手入ってるよねー。何でこんなことしてるのかわからないけど……どの辺りから調べよっか」
「一応、バラバラになるのは避けたいな。損傷の少ない建物でもあればそこで何か稼働してるかもしれねえ。西側に工場の集まる地域があったらしいからそこから調べてみるか……ってかニッケル、これ俺の役じゃねえって。お前の役だろこの長い話するの。何静かになってんだ」
大体の段取りを決めて三人はゆっくり歩行して進んでいく。人や他の生き物の気配はまるでない。リンコは崩れ落ちた建物の壁に、コイカルに搭載されたカメラを使ってスキャンをかける。
「タック聞こえるー? 今から送る画像ちょっと調べてくれる? そう、その断面」
リンコはレトリバーのチーフメカニック、タック・キューにスキャンした画像を送信する。一方、カリオは遠方で蛍のように舞う、青白い小さな光に気づく。
「……」
カリオはしばらくその光をじっと見つめる。風に乗って宙に浮かんでいるだけではなさそうだ。意思を持ってソレはその場に漂っている。カリオがそちらへ向けて一歩踏み出すと、小さな光は瓦礫に隠れるようにその場を離れていった。
「カリオ? なんかあった?」
「ん……今何か――」
カリオが見た小さな光について、三人はソレを追うことに決める。小さな光は複数が町の至る所に浮かんでおり、誰かが少し近づくと、すぐに逃げるように離れていく。まるで虫だ。
「なんか見られてるみたい。変なの」
「ぜってーなんかあるだろアレ、追いかけよう。ニッケル、生きてるか? おーい?」
カリオは後ろのニッケルを呼ぶが、ニッケルは後方を見たまま固まっている。
「どうした? まだオバケは出て――」
カリオは振り返り、そう言いかけたのをやめる。ニッケルの前方から青色に光を放つ、人型の何かが近づいてくる。
「……クソッ、実際に見ても不気味だぜ」
やっと口を開いたニッケルはビームライフルの銃口を青い人影に向ける。だが人影は意に介せず、ニッケル達の方へどんどん近づいてくる。
人影の右手には……ビッグスーツ用の装備と思われるライフル。人影はゆっくりと右腕をあげて、ライフルの銃口をニッケル達三人に向ける。
「……そう来るなら仕方ねえ、悪く思わないでくれよ!」
バシュゥ!
ニッケルは相手に撃たれるより先に、ライフルの引き金を引く。放たれた緑色のビームは人影の左腕に命中する。
ガシャリ……
人影の左腕は関節から千切れ、地面に落下する。だが人影は、全く気に留めることもなく、ゆっくりと歩き続ける。
(なんだこいつ?)
不思議に思いながらもカリオは跳躍、ニッケルと人影を飛び越すと、人影の後方で着地。そのまま横に一回転する形で斬撃を放つ。
円形の剣閃が一瞬宙に浮かぶと同時に、人影の両足が切断され、支えを失った人影は転倒する。
「……およ!?」
後方でビームピストルを構えていたリンコは、目に入った光景に対して思わず声を出す。人型だった青白い光は、突然いくつもの小さな光となって散らばり、それらは宙に浮かび上がると一斉にバラバラの方向へ飛び去って行った。
カリオとニッケルも沢山の光に目を奪われる。それらが視界から消えると同時に、ふと先ほど倒した人影の方を見た。
「……これ、ビッグスーツか?」
三人は倒したモノの近くに歩み寄る。塗装が剥げ、あちこちが錆びたビッグスーツだった。
(霊魂のねぐら、うろつく咎人③ へ続く)




