名犬勇者エクスギャリワン⑧
◇ ◇ ◇
「うかうかしてられねえなコレ」
「電光石火! 急がば回るな真っ直ぐ行け!」
サダイタンの股下に潜り込んだカリオとボンは、リンコに向けて放たれた高出力ビームを目の当たりにして、急ぐ。
カリオはサダイタンの右の膝上まで飛び上がるとビームソード「青月」の柄に手をかけて静かに息を吸う。そして膝関節部目掛けて抜刀。
ギャキィン!
X字の剣閃が放たれる。ウキヨエ流居合術・一瞬二斬バッテン!
「む……」
ビームソードの充填部を握る左腕に痛みが走り、カリオは顔をしかめる。斬りつけた関節部はというと、はっきりと見えるX字の傷はできているものの、まだ機能している状態だ。
(硬ぇなっ!? 何で出来てんだこいつ……!)
カリオは再び納刀したビームソードの柄を握る。そして浅く呼吸し剣を抜く。
ギャギキィン!
大の字に放たれる三つの青い剣閃! ウキヨエ流居合術・一瞬三斬ダイモンジ!
ビギギ……ガガン!
先ほどの二撃と合わせて五つの斬撃を受けた関節部はついに損壊。支えが機能しなくなったサダイタンは、バランスを崩して傾く!
ドタタタタ!
「!!」
悪あがきするかのように、サダイタンの大腿部の迎撃砲がカリオ目掛けて射撃を浴びせてくる。
「ギャリワン・スラッシュ!」
ボンはエクスギャリワンの爪で迎撃砲を破壊する。カリオは飛んできた銃弾を体を捻り、回避して着地。ボンもそれに続いて隣に着地する。
「勇者の出番がなくなったんだが!」
「それどころじゃねえだろボン! こいつ倒れる倒れる!」
ボンとカリオは急いでサダイタンの股下から抜け出す。
◇ ◇ ◇
「サダイタン、姿勢制御できません!」
「バカな……膝やられただけで終わりとは! デカすぎたか!?」
激しい揺れにさらされるサダイタン内部のコントロールルームで、ハライータと部下達は必死に船内の突起に捕まっていた。
「脱出! 脱出するのだ!」
ハライータはアルミホイル帽子のズレを直しながら部下に叫ぶ。
◇ ◇ ◇
「決めやがったかアイツら」
バシュゥ! バシュゥ!
ニッケルのチョークと高速でドッグファイトしていたサダイタンの護衛ドローン二基が、チョークから放たれたビームに撃ち抜かれ、煙を上げて墜落していく。
そしてすぐ近くに立っていたサダイタン本体が倒れ始める。残った護衛ドローン達は制御を失ったのか、力なくふらつきながらぼとり、ぼとりと墜落していく。
「やべえ離れねえと」
ニッケルはチョークを回収し、低空飛行でその場を離れる。
一方、別の位置に移動し、再度援護射撃を行っていたリンコもサダイタン本体の無力化に気づく。倒れていくサダイタンのの口が再び光を放ち始める。
「え、また!?」
リンコは慌てて乗っていた岩から降りて陰に隠れる。間を置かずサダイタンの口の高主力ビームが放たれる。
ギュコォーン!
……意図されて発射されたモノではなかったのか、ビームはリンコのいる地点の遥か上空、明後日の方向へと飛んで行った。
「……びっくりしたぁもう」
◇ ◇ ◇
ガコン! バシュゥー!
「!?」
サダイタンの足元から抜けたばかりのカリオとボンは、倒壊したその巨体から何かが飛び出したことに気づく。
「デカい……飛行機かアレ!?」
「脱出用か!」
サダイタンから飛び出してきたのは、少しずんぐりとしたフォルムの飛行機。ハライータとゴロゴロ団の部下達はこれで逃走するつもりなのだ! 飛行機はぐんぐんと高度を上げて飛んでいく。
「またすげえ推力だな、俺のクロジじゃ追い付かねえぞアレ」
「マズい逃げられる! 聞こえるかカブーム博士! スカイパックを出してくれ!」
ボンは通信機に叫ぶ。
「わかった!」
アキタタウンの地下格納庫に待機していたカブーム博士は、操作盤のデカくて丸いボタンを思いっきり叩く。
バシューン!
地上の格納庫出入口が開き、中からカタパルトで何らかの機械部品の塊が飛び出す。
「これ持ってて」
「お? おう」
ボンはエクスギャリワンの背中のビームキャノンを取り外すとカリオに渡す。その数秒後。
ドスン!
カリオとボンの目の前に何かが落ちてきた。先ほどカブーム博士が飛ばした機械部品の塊――「スカイパック」だ
「ふんぬ、ふんぬ」
ボンは器用にゴロゴロしながらスカイパックをエクスギャリワンに装着する。巨大な翼と特殊なスラスターが特徴のスカイパックを装着したエクスギャリワンは、さながら幻獣のグリフォンのようだ。
「おお……」
「よし、行ってくる」
「そういうのってもっとスタイリッシュに換装できるのかと思ってたな俺」
「アニメの見過ぎだぞ。現実と夢を見ろ」
ドシュゥーン!
大型ビームキャノンを持ったままのカリオを置いて、ボンのエクスギャリワンは空へと飛び上がった。
◇ ◇ ◇
「ハライータ様! 後方からエクスギャリワンが接近してきます!」
「バカな!? この飛行機についてくるのか!?」
町が豆粒に見えるまでに高度を上げたゴロゴロ団の飛行機に、スカイパックを装着したエクスギャリワンが猛スピードで接近する。
ドタタタタ!
飛行機は後方に機銃を放つ。しかしそのような悪あがきはもはやボンには通用しなかった。エクスギャリワンは華麗にバレルロールしてこれを躱すと、一気にスピードを上げて飛行機を目と鼻の先に捉える。
「地獄に着いたら閻魔様に大人しく反省文を提出することだなゴロゴロ団!」
ギュルルル!
エクスギャリワンは光り輝き、ドリルのように高速回転を始める!
「あ、あああ!」
追い詰められたハライータはアルミホイル帽子のズレを修正しまくる。その脳裏には走馬灯のように過去の出来事が流れていた。裕福な家で育った子供時代、インチキ宗教の教祖を始めてさらに増やした財産。盗賊をまとめ上げてゴロゴロ団を結成し、みんなで作ったサダイタン……
光の矢と化したエクスギャリワンが空を駆ける。そのコックピットでボンが叫ぶ。
「ギャリワン・コメットォオオオ!!」
チュドォオオン!
文字通り彗星の如く翔ぶエクスギャリワンがゴロゴロ団の飛行機を貫いた。爆発炎上する機体。ゴロゴロ団とハライータはアルミホイル帽子ごと消し炭となった。
通常飛行に戻るエクスギャリワン。ボンは後ろで燃えるゴロゴロ団の飛行機を見つめる。
「悲しき軍団よゴロゴロ団……貴様らと過ごした日々はだいぶ無駄だったが来世では幸せになってくれ」
その日、太陽が輝く空に現れたこの彗星の話は、数年後ボンの武勇伝として町のちびっ子達に広まることとなる。
◇ ◇ ◇
「カリオ! カリオ! このバカノポメラニアン、レトリバーで飼っちゃ……」
「人んちの犬なんだからダメだ」
「バカノポメラニアンじゃねえ! バトルポメラニアンでボンだ!」
地上艦、レトリバー。その食堂でボンは、艦で預かっている少女、マヨ・ポテトに撫でられまくっていた。
「なんで勇者の俺がガキのお守りを」
「カリオ、このポメラニアンひょっとして口悪い?」
マヨは「お座り!」と叫んでボンを躾けようとする。ギャーギャーと文句を言って拒否するボン。
カブーム博士からの依頼は無事達成となった。アキタタウンの脅威となっていたゴロゴロ団は、首領のハライータ・フック二世の死亡を以て、解散した。
しかしゴロゴロ団の配下の生き残りは解散後、早くも複数の新たな盗賊団に分かれて怪しい動きをし始めたという。ボンはまたすぐに戦いの日々に戻ることになりそうだ。
というわけで町の防衛と怪しげな研究で大きな出費が続きそうなカブーム博士。彼からは基本報酬とは別に、追加ボーナスを払うと言われたものの、あまりお金をせびるのはよくないなあ……と感じたレトリバーの面々は……アキタタウンに滞在する数日の間、ボンをレトリバーに借りることにした。
「この勇者が追加報酬扱いとは……!」
「……結局勇者ってなんなんだ?」
「勇者が何かは自分で決める……!」
ぶつくさ言うボンの首に、マヨはリード付きの首輪を器用にはめる。
「散歩行くですよボン」
「おい待て十五分前に帰ってきたばかりだぞ!」
ジタバタするボンを抱えてマヨは廊下へ向かう。
「仕方ねえ、ちょっと付き合ってくる」
カリオはため息をつくとマヨに続いて廊下へ向かった。
「結局、妙ちくりんな仕事だったけど結果オーライだねぇ」
「まあそうなんだけどよ……今のうちにまともな仕事探しておくぞリンコ。今度は幽霊と戦わされる仕事に巻き込まれるとかイヤだからな。喋る犬なんてネタは百年……いや千年に一度ぐらいでいい」
「今日ぐらいゆっくりしよーよー。明日からでいいじゃん」
頬杖をついてそう話すリンコにため息をついて、ニッケルは町で貰った求人誌を読み始めた。
(名犬勇者エクスギャリワン おわり)
(霊魂のねぐら、うろつく咎人 へ続く)




