魔人血戦⑥
「あん……?」
ユデンは突如現れた赤い機体に思わず視線を移す。
ユデンだけではない。カリオとタヨコも、別の位置で戦っていたニッケルとチネツとフリクも、その存在に気づくと同時に、戦闘中であることも忘れて釘付けになる。
「なんだ? 何で全員停止してるんだ? 何があった?」
「今、敵機が増えたか? ……いや、数は変わってないんじゃないか?」
レトリバーのブリッジではレーダーを見てクルー達がざわつく。
(……接近に気づかなかった。動きも見えなかった)
止まっていた頭が再び回り出すと、リンコは無意識のうちにピストルを構え直していた。
(……味方じゃないっていうのはわかる)
赤い機体は細身だが、ニッケル・リンコのコイカルや、カリオのクロジと比べて一回り大きく、手足がやや長い。両手には、ライフルのような銃器に何らかの材質で出来た刀身が装着された複合武器を、一丁ずつ持っている。それ以外に目立った武器は見られない。
不意に、赤い機体が足を一歩踏み出す。
リンコの背筋に冷たいものが走る。
赤い機体が消え、近くにいた治安部隊の機体三機が、腰から上下に真っ二つにされる。
「!!」
反射的にリンコは左手のピストルで体を庇い、後方に半ば倒れるような形で跳ぶ。左のピストルの銃身が半分に斬り落とされる。
「……!! 離れろタヨ――」
そこから数百メートル離れた位置にいるユデンが、突然そう言いかけて刀を真横に構える。
ガキィン!
瞬間、リンコと治安部隊の近くにいた赤い機体が、衝突音と共にユデンの目の前に現れた。カリオとタヨコが気づいた時には、ユデンは赤い機体の剣を刀で受け止めていた。
メキメキメキメキ!
「ぐあああ……!」
ユデンのハオクの足が地面にめり込んでいく。明らかに赤い機体に力負けしている。
「ユデン!」
タヨコは大鎌を振りかぶり、赤い機体に斬りかからんとする。だが次の一瞬で赤い機体がタヨコの目の前に急接近し、ゼルディの腹部に蹴りを入れる。
「うぐっ!」
呻くタヨコから少し離れた位置で、カリオはビームソードを正眼に構える。
(速すぎ――)
また一瞬で赤い機体が、カリオの目の前に姿を現す。腕と足を動かすも、防御も回避も間に合わない。
(ダメだ、死――)
複合武器の刃がカリオのクロジの首に迫る。
「……ぐおっ!?」
突然、クロジの腕が強い力で引っ張られる。赤い機体の剣は空を切り、そこから少し離れてクロジは転倒する。
「なん……な!?」
カリオは自分の機体の横を見る。そこに立っているのは金色の機体――ハオク。
今、首を斬られかけたカリオを助けたのは、敵であるはずのユデン・イオールだった。
「ちょ、何してんのユデン!」
想定外の状況にタヨコが怒鳴る。カリオも口を半開きにして驚いている。
「……アンタまさか!?」
「タヨコ、おめぇも一流だ。だからわかるだろ、なあ。オラ立て、サムライ兄ちゃん。一時休戦アンド共闘だ」
「……!」
カリオは訝しみながらも、立ち上がってユデンを見る。
「……さっきまで殺し合ってたんだ。俺を後ろからブスッとやるのもアリだがな、今それをやってもコンマ五秒後にあの赤いのに殺されるだけだぞ、なあ。俺も状況は同じだ。タヨコと二人がかりでも無理だろうな。つまり、おまえ手伝え」
タヨコは呆れてしまったのか頭に手を当てる。カリオはユデンから目を逸らさずにいる。
「……今日は何を狙って来たんだよ。フロガーの賞金か?」
「賞金じゃねえ、ビッグスーツの方だ。だがあの赤いのに潰されちまった。だから今日は後でお前を殺して、その青く光るビームソードを頂く」
「……チッ、やってらんねえ」
カリオはすうっと、一回深呼吸すると、赤い機体に視線を移す。ユデンも体の力を抜いて赤い機体に向き直る。タヨコもため息をつくと姿勢を低くして大鎌を構える。
「……なんてことを、そちらのお仲間さんが仰ってますが?」
赤い機体から数百メートル離れた場所で、ニッケルが苦笑いしながら、チネツとフリクに聞く。
「冗談じゃねえ、テメエらみたいな――」
「フリク」
声を荒げるフリクをチネツが制止する。
「……クソッ、わーってるよ! あそこの三人だけでもまだ足りねえって言いてえんだろ!」
「俺達も赤い機体を攻撃する。諸々《もろもろ》はその後だ」
「なあ強盗さんよ。アイツ倒したら今日はもう帰ることにして、決着はまたの機会にしねえか?」
「却下だ。今日のうちにお前達を殺しておいた方が都合がいい」
ニッケルはため息をつくと、赤い機体のいる方角へ飛行を開始する。チネツとフリクも後に続いた。
(魔人血戦⑦へ続く)
 




