魔人血戦⑤
◇ ◇ ◇
カリオは低空飛行をやめ、地面を蹴って駆け出す。正面から金色の機体と桃色の機体。金色の――ユデン・イオールとは以前に直接戦ったことがある。
(武器が大剣じゃなくなってる……ありゃ刀か?)
ユデンもカリオ目掛けて突進してくる。両者間合いに入り、それぞれが左腰にかけた剣の柄に手をかけ、一気に振り抜く!
ギャギィン!
剣が激しく衝突し、両者は仰け反るようにして後ろに下がる。ユデンは自らの頭上で剣を構え直し、すぐに斬りかかる。
真っ向!
カリオは右にサイドステップし、正面から振り下ろされる斬撃を回避すると、両手で剣を持ち横薙ぎを放つ。
逆水平!
ユデンは後ろへ大きく跳びこれを避ける。両者の間に距離が空いたその時、ユデンの左前腕部で何かが変形する。
(……! ビームピストル!)
前腕部の外側に連結・格納されたビームピストルは、ハオクの手にグリップが収まるように半回転して展開される。ユデンは左手に展開したビームピストルでカリオを撃つ!
ドシュッドシュッドシュッドシュッ!
カリオは慌てずに大きく左に跳んで三発避け、着地際に一発をビームソードの刀身で受けて防御する。
「いいもん持ってんじゃんコイツ」
カリオのすぐ後ろから声と影。
「!!」
ブォン!
影――ゼルディに乗ったタヨコは巨大なビーム鎌を大きく横に振る!カリオは慌てて前に転がってこれを躱す。
ドシュッドシュッドシュッドシュッ!
再びユデンの射撃! カリオは上空へ大きく飛び上がって回避し、クルクルと宙返りしながら後方へ、ユデン達と距離を置いて着地する。
「チッ、やっぱ二人相手はキツイって……!」
カリオは二機の敵ビッグスーツを見る。ユデンの金色の機体の右手にあるのはやはり刀だ。金属で出来た片刃の刀身には少し反りが入っており、その刀身を覆うだけの長さがある鞘が腰に取り付けられている。そして膨らんだ両腕の前腕外側には、ビームピストルが連結・格納されている。先ほど防御した時の感触からして、リンコのモノより単発の威力は高いかもしれない。
一方、タヨコの乗る桃色の機体の武器は大型のビーム鎌と、先ほど治安部隊に大打撃を与えた尻尾型の装備。
(あの刀、相当な業物だな……ブッ壊すのは諦めるか)
カリオは息を吐き、力を抜いてビームソード「青月」を構える。
「前言ってた奴だよね? 上等なビームソード持ってる奴がいたって」
「ああ、青色に光るのは珍しい。斬り合った感触からして質も滅茶苦茶いい。下手したらフロガーに掛かってる賞金より高えかもしれねえな」
「そっか。機体は安物っぽいし、ぶった切っていいでしょ?」
「おうよ」
ユデンとタヨコは膝を曲げて、腰を落とす。
ドン!
二人は地面を強く蹴ると、消えたかのように錯覚するほどのスピードでカリオに接近する! カリオは構えを崩さない。
ブォン!
正面からユデンの横一文字の一閃! カリオは真上へジャンプし、斬撃を躱す――そのさらに上、一瞬でカリオの背後に回ったタヨコが、大鎌を振り下ろす!
ブォン!
カリオは素早く身体を時計回りに半回転させて、やや斜めに振り下ろされた鎌を回避。そこへユデンが先ほどと逆方向、ユデンから見て右側から斬撃を繰り出す!
逆水平!
カリオはさらに半回転しビームソードで斬撃を受ける! その衝撃を利用して横方向へ吹き飛び、挟み撃ちの状態から脱する。ユデンとタヨコは逃がすまいと武器を振りかぶる。
ドン!
――が、着地したばかりのカリオが、抉れるほど地面を強く蹴り、斬りかかって来る!
袈裟斬り!
「ちょっ……!」
斜め上から雷のように凄まじい速度で、タヨコに対して斬撃が放たれる! タヨコはギリギリのところで、右に転倒しそうになりながら体を傾け、なんとか躱していく。
逆袈裟!
「クッ!!」
カリオは攻撃の手を止めることなく、次の斬撃を繰り出す! 右下方向から左上へのへの音より速い一閃が、ユデンに対して放たれる! ユデンは急ぎ刀を横に構え直してこの一撃を受け止める……が、体勢を整えきれず防御した結果、大きく体を傾けてふらつき、思わずカリオと距離を取る。
「調子乗んなァ!!」
タヨコは体勢を戻しつつ、怒声を上げながら尻尾を振り上げる。再び尻尾の先端が緑色に光る。
キュンキュンキュン!
先ほどと異なり、出力を小さく絞ったビームを、カリオの斜め後ろから連射する!
カリオは冷静に見切って、側宙ひねり、バク宙と続けざまに跳んでこれを回避。タヨコからやや離れた位置に着地して、また構えを取る。
三人は見合ったまま動きを止める。
ユデンは静かに呼吸し、力を抜いてカリオを見つめる。
(錯覚じゃねえな。ツツミシティの時より判断も動きも速くなってやがる。俺も武器は変えたし、タヨコもいるから前よりかなり有利な状況のはずなんだが……こないだみたいに簡単にはぶった斬らせてくれねえ)
カリオは息を切らしながらも構えを崩さず、タヨコは苛立つように尻尾を揺らす。
(才能とも努力とも違う話だ。生き方――そういう生き方をしている。命が懸かる戦いの中に身を置いて、その最中で学び、成長して、相手を上回って、生き延びての繰り返し。実際、俺とタヨコの二人を同時に相手にして、コイツは徐々にこっちの動きに順応してきてやがる――「この次」を仕留め損ねたら、ひょっとしたらひょっとするかもしれねえ)
ユデンは柄を握る手に力を込め、少し腰を沈ませる。
(この次で仕留める。逃がしゃしねえ。バラバラにするか、コックピットに風穴開けてやる)
◇ ◇ ◇
バシュッバシュッバシュッバシュッ!
タタタタタ! ズガァーン!
「う、うあ!?」
治安部隊員の機体がフロガーのクローに鷲掴みにされる!
バシュッバシュッ!
リンコはすかさず、クローを狙ってピストルを撃つ! 二つの爪に一発ずつ着弾、爪が折れる。
「うぐっ!」
右手の痛みに呻くフロガー。爪から治安部隊員が解放された瞬間、フロガーのトードンの掌から隠し剣が飛び出し、空を切る。
「危ない危ない! よし、悪いけどこのまま一気に決め――」
リンコがピストルのトリガーを引こうとしたその時、フロガーの機体の色が徐々に変わっていく。
(……!? 光学迷彩が復活した!? 壊れたわけじゃなかったの!?)
リンコが目を丸くしているうちに、フロガーの機体は周囲に溶け込んでいった。
(……俺のトードンの光学迷彩、見切れるのは二丁拳銃の女だけだろう。アイツが俺を見つける前に、周りから人数を減らし――)
それ以上、フロガーの思考が続くことはなかった。
フロガーの上から影が覆う。
突如走る激痛、両の肩口から肉を引き裂かれ、骨を砕かれ、内臓を潰され、千切られる感触。
生きているうちにはまず味わうことのない感覚の奔流に襲われ、フロガーは叫ぶこともままならない。その視界は最後に赤く染まる夕焼け空を映し、ブツリと途切れた。
「……え?……」
リンコは目の前の突然の出来事に言葉を失い、硬直する。周囲の治安部隊も同じだ。誰も彼もが目の前で起きた一瞬の出来事を飲み込めずにいた。
突然響いた轟音。皆がそちらを向くと、光学迷彩で隠れていたはずのフロガーのトードンが、バラバラにされた状態で姿を現し、地面に転がった。
刹那のうちに無数のスクラップと化した、数秒前まで戦っていたはずの一億の賞金首。
――その金属の屍のすぐそばに、赤い人型の機体が立っていた。
(魔人血戦⑥へ続く)




