俺とお前とアイツとダンジョン!③
カリオはビームソードの青い切っ先をサンデに向けたまま睨む。シャマスは困ったように眉尻を下げて笑った。
「いや~ホントに戦う気とかはないんですけど、ホントに!」
「馬鹿言え。糸使い野郎といい空中要塞といい、一歩間違えれば取り返しのつかねえことになってた」
「あの人たちは仲間のようで仲間じゃないって言うか、なんか気づいたら同じ檻に入れられてただけっていうか」
「やっぱり檻に入れられるような事してんのかよ」
ブンドドマルにしがみつくソラマメのカメラアイがキュルキュル音を立てる。
「カリオ……シャマス兄ちゃん、ひょっとして悪い事してるですか?」
カリオは眉間に皴を寄せる。ここで戦闘になったらマヨを巻き込んでしまうのは確実だ。
「本当にやる気はねえんだな?」
「はい。僕喧嘩は好きじゃないですし」
数秒の沈黙。カリオはため息をつくとビームソードを充填機に収めた。
「……そうだ、入り口塞がれてんのか」
「参りましたねぇ。無理やりレーザーフェンスの発振器を壊してもそれはそれでトラップ仕込まれてそうですし」
「今の状況ひょっとしてカリオのせいですか?」
「い、いやそんなはずは……!」
シャマスは入り口とは反対側、奥にずっと続く通路の方を見やる。
「推測ではイニスア文明が滅びた後、その生き残りの科学者の子孫が建てたダンジョン。もし外との繋がりを断ってなかったのなら出られるようにしてあるはずなんですが……」
「まさか先に進むのか?」
「それしかないでしょう。僕は最初からそのつもりで来たのでとりあえず進みます」
シャマスの乗るサンデはダンジョンの奥へ歩き始めた。カリオは口をへの字に曲げて、マヨと共にその後をついていった。
◇ ◇ ◇
「ダメだ、通信繋がらねえ」
「もーカリオのバカぁ……多分マヨもついていっちゃったよね」
ダンジョンの外ではニッケルとリンコが頭を抱えていた。ダンジョンに閉じ込められたカリオやマヨと、通信が繋がらないのだ。
「外から開く方法は?」
そう聞いてくるニッケルに、警備隊長が答える。
「扉のロック装置を外からハッキングするのは可能だがリスクはある。ハッキングの感知と共にダンジョン内外の防衛設備が一斉に作動するようになっているため危険だ。それで先日スタッフ三名がやられた」
「カリオならダンジョントラップぐらいで死なないと思うけどマヨもいるしなぁ……」
リンコが考え込んでいると、通用門の近くにいた警備隊員の一人から通信が入る。
「所属不明の機動兵器の集団が正面から接近!」
「だーっ! わかったわよ、警告射撃ね警告射撃! でも全然集中できないよこんなんじゃ……」
◇ ◇ ◇
「おお……」
ブォン……ブォン……
カリオとその後ろからついてきているマヨは目の前を凝視する。その視線の先ではいくつもの大きな金属の刃が振り子のように揺れ、外部から来た者の侵入を阻んでいた。
「ビデオゲームで見たことあるです!」
「流石にここまであからさまだとは思ってなかった。よし、マヨ。危ないから掴まれ」
カリオはソラマメを背中におぶると、振り子の調子に合わせ刃を避けながら進み始めた。その様子を先に振り子刃のトラップを回避したシャマスが、通路の先から見ている。
ブォン……ブォン……
時々不気味な軋み音を立てながら刃は揺れる。カリオは慌てずに一つずつ、刃が通り過ぎたタイミングを見計らって歩を進める。
「よし……」
最後の振り子刃まで進んだ。カリオはそれを避けて最後の一歩を踏み出す。その時である
「あ、待ってください。そこは――」
シャマスが声を掛けようとしたが遅かった。ブンドドマルの足が石で出来たスイッチを踏んでしまう。するとスイッチのすぐ近くに設けられた穴から炎が噴き出す! 火炎放射器トラップだ!
「アッツツツツ!」
炎はブンドドマルの尻を直撃する! カリオはソラマメをおぶったまま飛び上がって前のめりに倒れた。
「シャマス! 知ってたんなら教えてくれたって」
「いや流石にマドクさん倒した人なら気づくだろうって思って」
「カリオ、油断が過ぎるんじゃありませんか?」
尻の痛みに呻きながら、慰める気のない二人をカリオは睨んだ。
「ってか外と通信繋がらねえ」
「ダンジョンの外から助けを待つのは期待しない方がいいですね」
「進んで脱出方法探すしかねえか」
ソラマメを背中から降ろしたカリオは痛む尻をポリポリと掻きながら歩く。その視線は前を歩くサンデに向けられている。カリオはその背中に言葉を掛けた。
「……マドクって奴から聞いた。いや、はっきり説明されたわけじゃねえけど。おまえらってどこかに閉じ込められていた……いや、いつも時間経つと撤退するから今でもどこかに閉じ込められてるん……だろ?」
シャマスは振り返って「はい」と冷静に答える。カリオは続けた。
「だからおまえらにとって外出って貴重な時間だと思うんだけどよ……シャマスは何しに外に出てきてんだ? 他の奴らみたいに暴れるワケでもなく」
「僕ですか? うーん……」
シャマスは頭をポリポリと掻きながら、苦笑いして答えた。
「僕は……何のために生まれてきたかよくわからないから、その意味が欲しくて」
「……?」
薄暗い通路を進みながら、シャマスは話し始めた。
(俺とお前とアイツとダンジョン!④ へ続く)




