俺とお前とアイツとダンジョン!①
「ふう、久々にスポーティーな仕事だぜ」
タック・キューは顔の汗をタオルで拭う。地上艦「レトリバーⅡ」の格納庫では先の空中要塞討伐戦に出撃した三体のビッグスーツの修理・整備が行われていた。チーフメカニックのタックだけでなく、他の整備クルーも作業着と顔を汚しながら忙しく動き回っていた。
幸いあれだけの戦闘でもハネスケとチャカヒメの二機に関しては被弾は少なく、すぐに作業が片付いた。一方のブンドドマルはマドクとの激戦で損傷が激しく、人工筋肉と外装の多くを交換するという大掛かりな修繕作業を強いられていた。
「まだ時間はかかりそうか?」
ショートボックスに整えた髭がトレードマークの艦長、カソック・ピストンが作業の様子を見に来た。タックは工具を作業箱に一旦戻して答える。
「部品をストックしておいてよかった。三、四日でなんとかなりそうだ」
「そうか。仕事の依頼が来ているがどうするかな」
「受けねえのか?」
タックがそう聞くと、カソックは顎を触りながら悩む仕草を見せた。
「クルー全員にボーナスを配っても余るぐらいには稼いだ。贅沢しなけりゃみんなしばらくは働かねえで暮らしていける」
「でもあの三人組とマヨに懸賞金かかってる限り、地上艦とビッグスーツは手放せねえ……ってコトだろ? レトリバーと機体を新調する時にもそういう話になったけどよ。しかも懸賞金の額上がったって聞いたぞ最近」
「それもあるがイニスアの囚人のコトもある。あの空中要塞での戦いまででカリオたちから確認取れただけでも、まだ四人の生き残りがいる」
「多いな!? 一騎当千の厄ネタ放っておいてバカンスは出来ねえか」
タックはパック入りのジュースをストローで飲む。そしてカソックと共に困ったような仕草を見せた。
「アレに対抗できる個人というのは限られてくる。あの三人組は裏社会の連中からは懸賞金で人気者だが、それ以外の大陸中の権力者たちや組織からの視線もアツくてな。大陸の危険因子を倒せるかもしれない猛者だと。〝囚人墜とし〟なんてあだ名もついてやがる」
「実際二人……いや三人か、倒してんだよなアイツら……ただなぁ、さっきは放っておけねえとは言ったけどよ、だからってあの三人にあまり無茶はさせたくない気持ちはある」
「ああ、そんな仕事を引き受けた時にゃ三人にとって正真正銘の〝命懸け〟の戦いになる」
そこまで会話して二人は腕を組んで「うーん」と唸った。
「アレ、オヤジもいるじゃん。私たちの機体の様子見に来たの?」
少し離れた所からタックたちに声を掛けてきたのはリンコ・リンゴだ。カリオ・ボーズとニッケル・ムデンカイもその後ろをついてきている。レトリバーのお抱え傭兵である三人も機体の様子を見に来たらしく、タックたちの方へ歩み寄って来る。
「うーわカリオのめっちゃ剥がされてるね」
「派手にぶん殴られたからなぁ。まだ少しあちこち痛い」
「思えばアレを相手にして俺とリンコがそこまで怪我しなかったのは奇跡だな。そういやオヤジ、依頼は来てねえのか?」
ニッケルの発言を聞いて、カソックは少し何と答えるか迷う。
「来ているっちゃ来ているが……お前たちしばらく休みを入れた方がよくないか?」
「何言ってんの、ニュースで見たよ。あちこちでビッグスーツ使った強盗事件が多発しているって。一件ぐらい依頼来てるでしょ?」
「俺ももう戦う分には問題ねえし、あまり日を開けると体がなまりそうで……それに強盗やらイニスアのバカどもやらで、世間が物騒なままだといつ鉛玉飛んでくるか気になって休んでも落ち着かねえ」
リンコとカリオがそう言われて、困ったカソックはタックに視線を送る。タックは肩をすくめてみせた。カソックはため息をついて、三人に言った。
「わかった。じゃあ何かしら依頼をこっちで見繕っておく」
その様子を見守っていたタックは独り言ちた。
「相変わらず色々なコト〝放っておけねえ〟連中だ。心のケアが必要だろ」
◇ ◇ ◇
「で……回ってきたのが今回の任務、ダンジョン警備!」
リンコの乗るチャカヒメは高台の上で周囲を警戒する。その下、作業員用の通用門前でカリオの乗るブンドドマルが、防衛対象――「アブハチトラズ・ダンジョン」を挟んで反対側ではニッケルの乗るハネスケが周囲に目を光らせる。
「何だかんだで気遣われちまったなあ」
「直接戦闘が発生しにくい任務だよな。でもカリオはまだ無茶しない方がいいだろ。ブンドドマルのやられ具合見てちょっと引いたぞ」
「もう大丈夫だと思うけどなぁ俺は」
「キニクスⅣもまた入れ替えたんだし、しばらく無理のない任務で性能戻していく方がいいだろ」
カリオとニッケルは通信で駄弁る。
今回レトリバーのブラックトリオが引き受けた依頼は「ダンジョン」の警備。今日、我々の世界でもゲームなどで耳にしたり目にしたりすることの多いダンジョン。テエリク大陸においては地下や洞窟などを利用して建築された閉鎖空間の中でも、トラップの設置や迷宮状の作りにより、とりわけ侵入者に大なり小なり危害を及ぼす可能性の高いモノの総称である。
最深部にボスキャラがいたり宝箱があったりするとは必ずしも限らないのであるが、誤って、又は故意に侵入して怪我する者が出ないように、土地の持ち主が警備体制を敷いておくのが通例である。今回はそういった警備に当たっているビッグスーツ部隊への追加戦力として、カリオたちは一日参加する事となった
「カリオ、カリオ! 異常なしであります!」
「おう、別に三十秒毎に報告してこなくてもいいからな?」
ブンドドマルの足元で三メートルぐらいの大きさの作業ロボ、ソラマメが敬礼している。乗っているのはレトリバーに居候している少女、マヨ・ポテトだ。
「マヨが任務についていきたい! って言った時にまさかカリオがオーケー出すとは思わなかったよ」
高台のチャカヒメにも敬礼してくるソラマメに、リンコは敬礼で返した。カリオはその様子を眺めながら答える。
「考えたんだが……下手に外に出るなって注意してもコイツはあの手この手で抜け出てくる可能性がある。だったら任務中でも俺たちの目に入る範囲に置いておいた方が、知らない場所で危ない目に逢うよりマシだ。今日の任務は戦闘が起こりそうだったら退避も間に合うだろうし」
「カリオ! わたす三歳児ぐらいの扱いですか!?」
「実際それくらいかもしれねえんだろおめえ」
カリオとマヨがわちゃわちゃしていると、前方を注視するリンコの目の色が変わる。
「カリオ、ニッケル準備して。マヨは後ろに下がって。十二時の方向に未確認の地上艦とビッグスーツの群れが来てる」
(俺とお前とアイツとダンジョン!② へ続く)




