天上災禍⑫
「風遁・鎌鼬の術!」
ブォオオ!
ショウの叫びと共に、辺り一帯に暴風が吹き荒れる! オールリと一緒に上昇してきたビッグスーツたちも一斉に印を結び、鎌鼬の術を発動させる。
ブォオオ! ブォオオ!
「くっ!」
社員たちの乗るイークデが暴風に切り裂かれ、装甲に傷を作っていく!
「なんじゃい、ニ十機……いやそれより多く下から来とるの。マドクは気づかなかったのか」
「この時代のステルス技術も中々侮れんな」
ニヌギルとマドクは下方から攻めてくる敵を確認する。ニ十機以上のビッグスーツが、マンタ型飛行ユニットに乗って上昇してくる。前方から攻めてくる者たちと比べると統率された動きだ。
(ハットリシティのNIS……! 他はショウの言っていた連中か!)
ニッケルは間合いを取りつつ、ビームライフルとウェハーで連続射撃を放つ。狙われた二機のイークデは左腕を前に出しビームシールドを展開、これを凌ぐ。
「真千組各員、抜刀! 突撃!」
「S.B.A.T各位、フォーメーションガンマにて後方より敵機を墜とす。遅れるなよ」
上昇してきた機体の群れは都市直属の精鋭部隊だった。他のビッグスーツ乗りがサーズデの前方から攻め入る中、地上からサーズデの下方に潜り込み、一斉に奇襲をかけてきたのだ。
その内の橙色の一機、「ヤマガラ」に乗るナスビはニヌギルのサタデを睨む。
「あの時のデメキン!」
「ほう! 戦場で二度同じ人間と相まみえるのは久々じゃ!」
NIS所属のビッグスーツ、緑色の量産機が九機、ショウのオールリ、ナスビのヤマガラ、合計十一機がサタデに狙いを定める。
「ナスビ! 相手が相手や! 卑怯と罵られようが数で攻めるで!」
「そのつもりや! ウチは騎士道やの武士道やのに興味ない!」
ニヌギルの注意がショウたちに向いたのを、ニッケルとリンコは見逃さない。
(俺らがこのイークデ連中を仕留めねえとか……!)
(さっきよりは慣れたかな……たっぷりお返ししないとね!)
◇ ◇ ◇
ボン! ボボボボン! ボボン!
ニッケルとリンコたちが攻めている面とは反対側――サーズデの船体の上側を、ピエンとオコジは苛烈な砲撃を躱しながら飛んでいく。
「にしても本当にデカいね。まるで街か島がそのまま浮いてるみたいだ」
「困った、どこを狙うべきか……ここまで来ておいてなんだが、ピエン君はどこを目指して飛ぶべきだと思うよ?」
「……レーダー上で怪しいと思っている箇所はあるんだけど」
自然界には存在しない異質な金属の平野の上を飛ぶ二人は、軽々と砲撃を避けながら喋る。
「レーダーか、熱源多すぎてどれがどれだかよくわからねえんだが」
「その熱源がやけに少ない所がない?」
「ほう?」
くるりと身を翻しながら、オコジはレーダーを確認してみる。ピエンの言った通り、ビームや実弾を発射している砲台と見られる影に囲まれる形で、影、即ち熱源のない隙間が一カ所だけ存在している。
「……このクソデカい物体の中央よりやや後方か。コイツを『船』として見るならブリッジに当たる部分ってコトか?」
「そう予想通りってワケにはならないだろうけど確認はして――待った、誰かいる」
ピエンは前方を見やる。サーズデの船体の上に立つ、一機のウストク。白いボディに青のアクセントカラーを入れた、巨大な槍を持つ機体。二人はその機体に見覚えがあった。
「げぇー!?」
「うーわ!?」
接近してくるウィルティルとグウパンを確認して、ウストク――トゥーズデに乗るルガルは笑みを浮かべる。
「まさかあの時と同じ面子とはな。悪くない! 前回の続きと行こうじゃないか!」
ドォン!
サーズデの上面を思いっきり蹴り、ルガルは前に猛烈なスピードで突進する! ピエンとオコジは慌ててマンタ型飛行ユニットを乗り捨て、敵機を待ち受ける!
まず一突き。
ルガルの放つ槍の一閃がウィルティルの胸部を狙って襲い掛かる! ピエンは弓の形をしたアローフォームライフルのリムの部分で、この突きを受ける。その衝撃をそのまま生かして、トゥーズデと間合いを取る。
その刹那、次の一突き。
今度はグウパンを狙ってルガルは突きを放つ。オコジは小さく、かつ素早くサイドステップしてこれを左に躱す。
オコジは左の拳をトゥーズデの頭部目掛けて横に振るう。飛んできた拳をルガルは右腕でガード。
ズキュン! ズキュン! ズキュン!
オコジのすぐ後ろからピエンがアローフォームライフルを連射する。ルガルはステップを踏んで蛇行しながら後ろへ下がり、全弾回避する。
「テレビ的にはよくないでしょ、前と同じ対戦カードなんて」
心底嫌そうにピエンは文句を言う。
「ホント、テレビドラマの撮影ならよかったんだが。お前さん、名前はなんて言ったっけ?」
「ルガルだ」
「ルガルか。お前さんほどの達人がこの場にいるってコトは、こっちの方向に進んできて正解か」
「方向?」
オコジに言われて、ルガルは後ろを振り返った。
「そういや向こうにあるのはサーズデのコックピットか」
「え? マジで正解だった?」
「おっといかん」
口を滑らせたことに気づいたルガルは肩をすくめた。
「たまたま動きの速い影を追いかけてここにきただけで、門番するつもりはなかったんだがな」
「じゃあどいてくれないかい?」
オコジの提案にルガルは槍を構えて答える。
「そう言うな。もっと運命の再会というヤツを大切にしよう。ゆくぞ」
(天上災禍⑬ へ続く)




