天上災禍⑩
「こちらエチゴ連合所属セントバーナード。イリエシティ港管制塔応答願う」
セントバーナードの通信士が、イリエシティへ通信を試みる。
「管制塔、庁舎ともに応答ありません」
「やはりダメか。街にどれだけ人が残されているかわからん今、街の上に滞空している敵に無闇に攻撃するのは避けたい。遠距離からの牽制で釣り出して――」
セントバーナードの艦長がそう言いかけた時、レーダーを見ていた別のクルーがそこに被せて報告する。
「空中要塞……こちらへ向かって移動を開始!」
「何?」
セントバーナードの艦長は怪訝そうな表情を浮かべる。レーダー上では確かに、巨大な影がこちらへ向かって接近を始めていた。
サーズデのコックピットで、マドクは不敵な笑みを浮かべる。
「せっかく我が領土になるかも知れぬ街、無闇やたらに攻撃されて傷つけられては困る。ゼロワン、社員の半分を迎撃のために欲しい」
「わかりました。私含めゼロシックスまで、同行致します」
◇ ◇ ◇
「あれがイニスアの囚人でヤンスか……実物見るとションベン漏れそうでヤンス」
イリエシティから動き出すサーズデに向かって飛ぶビッグスーツの群れ。その中で傭兵の男、ヤンスデス・チェンテナリオ百世は愛機「ワンハンドレッド」のコックピットで冷や汗をかく。愛機の足にはエチゴ連合の最新装備「リュウビ」が接続されている。これだけ大きな作戦で新型装備を与えられるほどの大きな期待をかけられている。何としても活躍して歴史に名を残さねばならない。
「いや、ビビってらんねえス。五年間で百の任務を受注したこの私が、たかだかデカいだけのスクラップ野郎に――」
ビッ!
「ヤンスウウウ!?」
突如赤い光を放つサーズデ。反射的にヤンスデスは機体を思い切り傾ける。その刹那、赤いビームがワンハンドレッドのすぐ横を通り過ぎていった!
「大丈夫かアンタ!」
ヤンスデスのすぐ隣を飛んでいた赤ゴーグルを付けた傭兵が彼に声を掛ける。次の瞬間――
ビッ! ビッ!
「うおおお!?」
「ヤンスウウウ!?」
またもサーズデが赤い光を放つ! ヤンスデスと赤ゴーグルは咄嗟に機体を動かすが、超高速で飛来するビームが彼らの肩や脛を掠めていった。
「アチィ! 冗談じゃねえぞあのビーム! なんて速度だ!」
「イテテ……でも威力の程はわかったでヤンス! シールド展開で凌ぐでヤンス!」
ブォン……!
「リュウビ」を受け取っていたヤンスデスと赤ゴーグルの傭兵は、そのビームシールドを展開する。ワイバーンの頭のような部分を中心に、八角形の緑色のシールドが広がる。
その前方、同じようにリュウビのビームシールドを展開したニッケルは、通信機に叫んだ。
「今の攻撃を凌げない奴は進軍を止めろ! 前進できる奴らでまず牽制する!」
リュウビを与えられたヤンスデスやニッケルたちの後方で、マンタ型飛行ユニットに乗ったビッグスーツの群れが減速する。
そのパイロットの内の一人が舌打ちする。
「なんでェ仕切りやがって」
「黒いビッグスーツ、アレってブラックトリオって奴か?」
「黒い機体、二機しかいねえから違うんじゃね? ってうおわ!?」
ビッ!
会話する傭兵達の間を赤いビームが通り過ぎていく。
「クソッ、とりあえずあの新型ユニット借りてない奴はいうこと聞くしかねえってか」
その時、マンタ型フライトユニットにのった二機のビッグスーツが、他の傭兵達の間をすり抜けて前方へ飛び出す。
「馬鹿! 危ねぇぞ下がれ!」
ビッ!
サーズデがまた赤い光を放つ。その瞬間、二機は素早く空中で横に回転。超高速の赤いビームを難なく回避する!
「なっ!?」
後ろの傭兵たちはその超反応っぷりに目を奪われる。彼らの視線を釘付けにした二機は――深紫色の機体と白ベースに橙のアクセントカラーを入れた機体。ピエンのウィルティルとオコジのグウパンである。
「ああ、気にしないで。僕らは平気だしこのまま行くから」
「自信ない奴は真似しないでくれな。味方の頭が飛ぶところを見たくねえ」
モニターとレーダーを確認しながら、マドクは顎をさする。
「こちらの狙撃を凌げる者がいるか。フッ、面白い……とは思わんな。こういうのを面白いと思う奴の気持ちが一向にわからん。全然面白くない……」
「社長。我々も攻撃を開始します」
「了解だゼロワン」
ゼロワンやゼロツーなど番号で呼ばれる〝社員〟の乗ったウストク――「イークデ」が、サーズデの下側から飛び出し、そこへ潜り込んできたニッケルたちを迎え撃つ。
「敵機は五……じゃない六機だね。ってかなんか変な形してるんだけどあの人型!」
「実力が読めん、出過ぎるなよ!」
リンコは二丁のビームピストルを構え、ニッケルは八基のウェハーを切り離し、展開する。ヤンスデスたち他のビッグスーツ乗りも、各々の得物を構える。
「八機ほど来てるが」
「好きにやっていいのかゼロワン」
「四千年前も好きにやっていた。問題ないゼロフォー」
肩と頭部がほぼ一体化したような奇怪なフォルムのイークデたちは両の手のひらを討伐隊の方へ向ける。その手のひらが光ったかと思うと――
ポポポポポポポポ!
丸い光の弾が凄まじい速度で手のひらから連射される!
「うお!」
ニッケルたちは瞬時に大きく横に回りながら、回避運動を取る!
ピピッ
ゼロワンたちの戦いを見ながら攻撃を続けるマドクの横で、電子音が鳴る。
「到着したようだな。ニヌギルとルガルの二人か」
空中要塞のすぐ後方で、直方体と円盤の形をした二機の飛行物体が光学迷彩を解く。
「マドク、イルタは中々起きなかったから儂ら二人だけ先にきたぞい」
「あの馬鹿め、わかった。お前たちを手こずらせるような敵ではなさそうだ。気楽に遊んでくれ」
(天上災禍⑪ へ続く)




