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ブンドド!  作者: ぶらぼー
第一部
200/228

天上災禍⑨




 ◇ ◇ ◇




「ねえ、またあのイニスアなんたらって奴らなんでしょ?」


 レトリバーⅡの格納庫。ハネスケのコックピットシートに座るニッケルに、ショートボブで眼鏡めがねにそばかすの女性メカニック、ミントンが言った。


「確定じゃねえが十中八九そうだなぁ。嫌すぎる」

「他の誰かに任せたいとか思わないの?」


 ニッケルがハネスケの動作チェックのため、手元をせわしなく動かす様子を、ミントンは目で追いかける。


「嫌だけど思わねえな」

「そうなんだ」

「カリオもリンコもそうだが、俺たちは手も足も動かせるときにただじっと待ってるっつーのが大の苦手だ。自分の手が届くなら自分でやらねーと気が済まねえ」

「早死にしそう」

「長生きも諦めてる」




 ミントンはニッケルが動作チェックを終えたのを確認する。チーフメカニックのタックに無線でそれを報告すると、ニッケルを見て、少し睨んだ。


「そーやって死なれたらメカニックとしては後味最悪なんですけど」

「ああ、そっか。スマン」

「……ウェハーも他の武装も、今日も私のおかげで最高の状態。だから簡単に怪我なんてしないでよ?」




 ハネスケの隣のハンガー、そこに立つチャカヒメのコックピットから、リンコは二人の様子をじっと見ていた。


「ねえ、ミントンってさ……なんでもない野暮やぼだわ」

「言いたいことはわかる」


 リンコのそばでチャカヒメの最終チェックを行うタックは、ターバンタイプのヘッドバンドのズレを直しながらそう返した。




 ◇ ◇ ◇




 イリエシティ市長は自分のオフィスに戻り、市長室の椅子に腰かけた。


 市長はほんの二十分前の出来事を思い出す。ビッグスーツではない謎の二足歩行兵器から降りてきた白肌の気味の悪い男が、自分の護衛四人を一瞬で殺害し、小さな機械を手渡してこのオフィスに戻るように指示してきた。得体の知れない襲撃者を前にして、住民と自分の命の事を考えれば指示に従う他なかった。


 椅子に座るとすぐに、白肌の男に渡された小さな機械が光り、電子音を鳴らす。続けて、手に握っていたそれから男の声が聞こえてくる。


「こちらの指示に従ってくれたようだな。私の名はマドク。この機械は簡単な通信端末だ。この機械に向けて話しかければそちらの声は私に届く」

「……あの巨大な空の……アレで街をおそったのは……君がリーダーか?」

如何いかにも」




 サーズデのコックピットで、リラックスした様子でマドクは市長に話しかけ続ける。


「早速だがこの街は私達がもらい受ける。君にはこれから出す指示に従って動いてもらう。そうすれば君の命も住民の命も無闇に奪うつもりはない」


 ――無茶苦茶だ。市長は思わずそう怒鳴どなりそうになるのをこらえる。いきなりやってきて治安部隊や自分の護衛を殺した男は、間髪入れずにこの街を支配するとほざき出したのだ。 


「……何をすればいい」


 だが市長は怒りを抑えてマドクの話を聞く。言っていることは馬鹿馬鹿しいが、実際にこの男とその一味はわずかな人数で治安部隊を壊滅かいめつさせてみせた。今、街の上空でおおいかぶさるように浮いている要塞ようさいに対して、自分に出来ることは何もない。住民の命をたてにされれば、相手の要求を聞き入れつつ、できるだけ時間をかせいで救援きゅうえんを待つことしかできない。


「まずは脱出しようとしている住民を家に帰せ。港は我々が封鎖ふうさする。次に先ほど私たちに破壊された以外に治安部隊の戦力が残っているなら、そうだな……後に指定する地点にそれを集めろ。わかっていると思うが抵抗するようであれば私たちはこの街を無差別に破壊して、別の街をあたる」

「……この街に残されているビッグスーツはもう十機と少し、あとは人型戦車が同程度しかないぞ」

「一旦は構わん。人型にこだわらず、あるものはできるだけ集めておけ。後ほど新たな指示を出す」




 マドクはそこまで市長に伝えると、今度は〝社員〟と呼ばれる白肌の男たちの内の一人に、通信を切り替える。


「ゼロワン、トゥエルブまでの全幹部社員を住民の()()()()に当たらせろ。港から脱走はさせないようにな」

「治安部隊側に見張りの人員を割かなくてよいのですか? 準備を焦らして時間を稼ぐかもしれませんよ?」

「かまわん。どの道すぐにこの大陸のそこら中から敵が飛んでくることになる。敵対勢力をある程度削るまではいらん戦力だ」




 ◇ ◇ ◇




「イリエシティまであと二キロ!」

「よし、一番機ニッケル、出る!」

「二番機リンコも出るよ!」


 様々な組織が協力して招集した空中要塞討伐(とうばつ)部隊は、イリエシティを視認し、各自出撃を開始する。レトリバーⅡの後方ハッチから、ニッケルのハネスケ、リンコのチャカヒメが躍り出る。




 それに合わせてエチゴ連合のセントバーナードも動き出す。


「リュウビ五号機、六号機オールグリーン。全機射出準備整いました」

「十秒後に全機射出。対象機への誘導を開始する」


 巨大なセントバーナードの前方ハッチが開き、八機のビッグスーツ用飛行補助ユニット「リュウビ」が順番に飛び出していく。リュウビは一機ずつ、招集されたビッグスーツの内、指定された機体の方へ無線誘導され、飛んでいく。


 低空飛行して街へ飛ぶハネスケとチャカヒメのそばへ、リュウビが接近する。ハネスケとチャカヒメは両足をリュウビの上面から長靴を履くように接続、合体する。ファンタジー作品に登場する竜騎兵のような出で立ちとなった二機は、上昇した推力すいりょくで高度を上げ、遠方に浮かぶ空中要塞へと飛んでいく。




「おうおう、ありゃ中々(はな)がある装備だな」


 その少し後方、小さな地上艦の甲板の上、グウパンに乗ったオコジがリュウビと合体したビッグスーツが飛んでいく様を見守る。隣には同じように小型の地上艦の上で待機する、 ピエンの乗るウィルティルが立つ。


「ぼーっとしていないで僕たちも行くよおじさん。フライトユニットの準備出来たの?」

「勿論だとも」


 オコジとピエンは、甲板上に設置されたマンタ型のフライトユニットへ機体を乗せる。そして上空へと浮かび上がり、出撃する。後に続くように周りの地上艦からも、次々とビッグスーツがマンタ型フライトユニットに乗って出撃を開始する。




 かくして決戦の火蓋ひぶたが切られた。




(天上災禍⑩ へ続く)

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