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ブンドド!  作者: ぶらぼー
第一部
188/226

トリプル・オジョウサマ・ティーパーティー⑦




 ◆ ◆ ◆




「ねえ貴女あなた、大丈夫なの?」

「……? 何が?」


 ある屋敷の美しい庭で投げかけられた、唐突な――いや、後述する状況からすればそれほど唐突でもないが――ベルの問いにレイラはいつもの無表情で返した。


「内戦終わってからイースウェイ滅茶苦茶叩かれてるじゃない。さっきも殺気立ったデモ隊とすれ違ったわよ」




 内戦でケーワコグ共和国が解体されて以降、共和国軍にビーム兵器を納入していたイースウェイは激しいバッシングを受けることとなった。「護国ごこくの要」と頼られていた企業は、今や敗者の側に肩入れし犠牲を増やした「死の商人」として、様々な色を帯びた憎悪を持つ群衆に敵意の目を向けられていた。


「事実、イースウェイが作った兵器によって沢山の人が傷つけられ、亡くなったのですから妥当だとうですわ。だから今、軍事事業は縮小して防犯・医療・工業分野などでの展開を――」

「いやそれは聞いたわよ。ってかそうじゃなくて」


 レイラは変わらず無表情で、しかし不思議そうにベルの方を見ている。ベルは顔に手を当てて呆れ、困惑する。そして言った。


「――イースウェイが、貴女がこれからどうしようと、みんながみんな受け入れてくれるワケじゃない。貴女を……貴女はずっと憎まれ続けるのよ。この先ずっと」

「そうですわね」




 即答するレイラにベルは驚きを隠せない。言葉を失っているベルに、レイラは言った。


「富を持つ者の責務として、弱き民のため矢面やおもてに立ち、戦い続ける。例えその民に憎まれ、さげすまれることになろうともこの生き方は変わりません」




 ◇ ◇ ◇




 土煙が少しずつ晴れていき、ベルの乗るサシバの姿が徐々に見えてくる。ボロボロに剥がれ落ちた装甲が痛々しく、ひざをついて体を起こしているのがやっとという状態だ。コックピットのベルは体中傷だらけで、頭から流れ落ちる血が左目に入りそうになるのを、まぶたを閉じてしのいだ。


「よし効いている! 撃て! 殺せ!」


 バシュゥバシュゥバシュゥバシュゥ!


 手負いのサシバに向けて、再度八機の量産機が一斉に射撃する! ベルは飛び退こうとするが、負傷の影響で動きがにぶる!




「ベル様!」


 危機的状況に響くポネの叫び声。彼女の乗るノスリがサシバ目掛けて飛び込む。そのままその機体を抱えて地面を強く蹴り、飛び退く。そのすぐ後ろを量産機の放ったビームが通り過ぎていく。


 着地もままならない状態で、サシバを抱えて地面を転がるノスリ。ポネはなんとか起き上がってベルの様子をうかがう。


「動けますかベル様!」

「ポネ!? 貴女武器を手放して、何をやって」

「だって今やられそうになってたじゃないですの!」

「やられませんわよ!」




 ベルは上体を起こしてレイラの方を見やる。再び剣を持ち、立ち上がってイセの前で構えるアカトビの姿が目に映る。


「……レイラは倒れないわね」

「え?」


 ベルは内戦後にレイラと交わした会話の事を思い出していた。幾万いくまんの人々の憎悪の中にいながら、表情一つ変えずに戦い続けると言い放ったあの時の事を。


「私はここでこうして立つのもままならなくなってるのに、あの子はああやってまた立ってる。憎らしいわ――アイツは絶対に倒れない。銃弾が体をえぐろうとも、刃に肉をかれようとも、守るはずの人々に憎まれても――私と戦っている時も」


 ポネは、アカトビをじっと見つめるベルの言葉を黙って聞いている。


「修行で少しは差を縮められるかと思ったんだけど。当分、アイツには勝てなさそう」

「ベル様……」




 悔しさでギュッと拳を握るベルの方を真っ直ぐ見て、ポネは言った。


「そうは思えません。私はレイラ様とベル様にそれほど差があるとは思いません」

「ポネ……でも」

「レイラ様は誰よりも貴女のコトを認めてらっしゃいます。もしレイラ様が貴女を自分より弱い人間だと思っているのなら、今こうして膝をついてる貴女を放っておくようなコトはしません。貴女をそれだけ信じているんです。貴女がまだ戦えると確信してらっしゃる――そして今、レイラ様の手から離れたかの剣を取り戻し、彼女に再びにぎらせて立ち上がらせたのは他ならぬ貴女です」




 カチャ


 サシバとノスリの二機を、合計十二機の量産機が包囲し、銃口を向ける。


「お喋りする余裕はくれた覚えはねえぞクソアマ。さっきはよくもやってくれたな。そのズタボロのもう一人も一緒になぶり殺しにしてやるよ」


 先ほどポネに腕をへし折られた量産機パイロットが怒りに満ちた声でそう告げる。


 量産機達は一斉に引き金を引こうとした。






「口をつつしめ下郎」


 一瞬にして空気が冷え、するどい殺気が十二人の量産機パイロットの肌をした。冷たい怒りに満ちた声を発したのは、他ならぬポネだった。


「平和をおびやかす者に手を貸し、あまつさえ私の仲間を傷つけののしって、この場から生きて帰れると思うな」




 ドォン!


「ぐわぁー!」


 轟音ごうおんと共に量産機乗りの一人が悲鳴を上げる。彼の乗った機体が回転しながら吹き飛ばされ、地下の暗闇の中へ消えていった。


 量産機を吹き飛ばしたモノ――ポネが落としたはずのキャディバッグ状の大型武装は、低空を超高速でポネの乗るノスリの方へ向かって飛ぶ。ポネはそれを片手で軽々とキャッチすると、残る十一機の量産機の方へ向いて構えた。


 ガシャン! ガシャン! ガシャン!


 キャディバッグ状の装備――複合兵器「フェンテンブロ」の側面や先端部に設けられたカバーが展開する。


命乞いのちごいも遺言ゆいごんも聞かぬ。その汚い口を閉じたままここで果てよ」




(トリプル・オジョウサマ・ティーパーティー⑧ へ続く)



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